フェルタリア行きへの決意
「しかし驚いたよ。まさかこれほどの人数が一緒に来てくれるなんてな」
フェルタリアへ向かうと決まった時、その旅は命懸けになると直感した。
これから相手にするのは、あの贋作士組織『不完全』をいとも容易く崩壊させ、今や三種の神器の一つを手にしたトチ狂った異端な集団なのだ。
通常の感覚ならば相手にしようなどとは思わないし、まともにぶつかれば命がいくらあったって足りないくらいだ。
だからこそ、フェルタリア行きは、各々の判断に任せることにした。
もしフェルタリア行きを拒む、もしくは躊躇っているのであれば、来ない方がいい。
身の安全を考えれば、フェルタリアへ向かうという選択肢は、普通選ばない。
誰だって命は大切だし、それが賢明な判断だと言える。
それを攻めるなんてことは絶対にないし、むしろ一部のメンバーは来ない方が安全だとすら考えていた。
――しかし。
「まあ、僕とミルが行かなきゃ話にならないからね」
「うむ。レイアの行くところ、我ありじゃ」
テメレイアとミルのペアは、ノータイムで返答。
「ならウェイル行くところ私あり、でしょ?」
「むぅ、その役目ならボクがやるから、テリアさんは帰っていいよ!」
「ほんっと、生意気な娘になったわね。今ここで決着をつけてもいいのよ?」
アムステリアとフレスと、そしてその隣には。
「テリアさん、ごめんなさい。私が行けば足手まといになるのは判っているのですけど……」
「何言ってるの。リル、アンタはアンタで自分の因縁に決着をつけるつもりなんでしょ?」
「はい。ルシカは私の親友ですから」
イルアリルマの姿まである。
そして――
「ねぇねぇ、君もフレスと同じ龍なんだよね! 髪が真っ赤でとっても綺麗! カッコいい!!」
「……あ、あまり髪をいじるな……」
「ギル、あまり騒ぐでない。遊びに行くわけではないのだぞ」
「判ってるってば、お・じ・さ・ん!」
「師匠と呼ばんか、師匠と!」
「だって、フレスにはそう呼ばれてたんでしょ!? 私も呼びたい!」
「ダメだ。……全く、こんな時に呑気な奴だ……」
「えへへ、ウェイルにぃとそっくりでしょ?」
サラーにシュラディン、そしてギルパーニャまでいた。
「ギル、本当に良かったの? 危ないよ?」
「大丈夫だって! 皆に迷惑は絶対かけないから。それに私だって、今はプロなんだよ? 師匠にいくつか神器だって貰ったしさ、自分の身は自分で守るって」
「うん。ボクも精一杯ギルを守るよ!」
ウェイルとしては、ギルパーニャにはマリアステルで待っていて欲しいと思っていた。
無論これはギルパーニャのことを過小評価していると、そういう訳ではない。
ギルパーニャは戦争孤児であり、ギャンブルと盗みだけで幼少期を生き抜いてきた経歴を持つ。
つまり自分の命を、この場の誰よりも大切にし、そして強く守ってきた子だ。
ギルパーニャは駆け引きの天才である故に、無茶をすることもない。
何があっても生き延びる。
彼女はそう思わせてくれる力がある。
だが此度の相手は、そんなギルパーニャの力が通用する相手かどうかは定かではない。
『異端児』全員の実力は、未だ計り知れないものがある。
例えばダンケルク一人を考えたとしても、奴とギルパーニャを対峙させるのは、あまりにも危険すぎる。
兄弟子のお節介だが、ギルパーニャには危険な道を歩んで欲しくは無かった。
シュラディンと一緒に何度もマリアステルに留まるよう説得したが、ギルパーニャの意思は固かった。
「何が何でも絶対に一緒に行くからね! 師匠と兄弟子を私が支えなきゃ!」
それだけを言い続けて、結局ギルパーニャはここにいる。
「師匠、ギルのことだが」
「ウェイル。ワシはな、ギルのことはもう大丈夫だと思っている。こやつとて馬鹿じゃない。絶対に生き延びるさ。それに、考えてもみればギルは一人寂しい思いをしたくなかったのだろう。もし此度の事でワシとお前さんに何かあれば、ギルはまた一人になる。そうなった時、ギルは生きていけるだろうか。ワシはそっちの方が心配だ。それにギルは兄であるお前さんが守ってくれると信じておる」
「……ああ、守るさ。絶対にな」
兄として。
妹に寂しい思いをさせることも、苦しい思いをさせることもしたくはない。
「あはは、やっぱりサラーちゃんって、フレスそっくり!」
「だから髪をいじるな……」
ぐいぐいとサラーの髪を引っ張り、すりすりと頬ずりしている。
こんな時でもいつもの調子のギルパーニャに、皆緊張がほぐれているのかも知れない。
「……ひっぱるな……」
「むむ……、サラーってば、ボクがやったら怒るのに、ギルが相手の時は怒らないんだ……!」
「当たり前だ!」
「どうしてだよ! ボクだってサラーの髪をすりすりしたい!」
「させるか!」
それにあれほど落ち込んでいたサラーを、ここまで元気にさせたのも、発端はギルパーニャだ。
純朴そうだが、実は計算高く、周囲の空気を和ませる。
これはギルパーニャの才能であると、シュラディンもウェイルも実感したのだった。




