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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
第一部 第二章 競売都市マリアステル編 『贋作士と違法品』
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影の正体

 フレスとイレイズのやり取りの間、ウェイルはエリクの注意を引く為、一人クランポールへと立ち向かっていた。

 口から吐き出す真珠色の体液に毒性は無いものの、非常に強い粘着性がある。

 直撃を受ければ、その粘着力により身体の自由を奪われるので、とにかく避けるしかない厄介な代物だ。

 また頭と尾が鞭のようにしなりながら襲ってくるので、それらの直撃も避けなければならない。

 あれだけの巨体から放たれる重い一撃だ。一発一発が致命傷になりかねない。

 まさに一撃必殺な威力の攻撃を、ウェイル全て紙一重のところで避け、また隙を見つけては氷の刃で斬りつけ、反撃を加えていた。


「くっ……、あまり手ごたえを感じない……! やはり頭か尾、どちらかをぶった切らないと……!!」


 威力の大きいクランポールの一撃だが、その分隙も大きい。

 頭部の攻撃を避けた直後、それがしなりを上げて帰ってくるまでに隙がある。

 ここが奴のクビを飛ばすチャンスだ。


「いい加減、くたばりやがれ!!」


 喉元晒したクランポールへ、ウェイルは氷の刃で一閃。頭部の切断に成功した。

 しかしクランポールは切断面から体液を吹き出すだけで、その動きは止まらなかった。


「……頭と身体が離れて、まだ生きているのか……!!」


 頭と尾、二つの脳を持つクランポールは、片方を切断されただけでは息絶えない。

 苦痛で大暴れするクランポールの尾を切り裂くのは困難。

 巻き込まれないように距離をとりつつ、尾の口から飲み込まれたサラーを救出する方法を考えながら、状況を窺っていた。

 ――だが、ウェイルは一つ失念していた。

 クランポールの方ばかりへ意識を向ける余り、その召喚者であるエリクへの警戒を怠ってしまっていたのだ。


「――さあ、完成よ! おいでなさい、クランポール!!」


 エリクの声を耳にして、ハッと気づく。


「召喚術の魔力光!? まさか……もう一体召喚するのか!?」

「気づくのが遅すぎるわ、ウェイル。そのまさかよ!」


 エリクはウェイルがクランポールと戦闘している最中、こっそりと新たに召喚陣を描いていた。

 召喚陣が完成し、術式を発動。

 神獣クランポールの二体目が召喚されていた。


「くっ、流石に二体目の召喚は堪えたわね……! これでもう魔力は空っぽよ。でもこれでチェックメイトね!!」


 自分に残る全ての魔力を術式に注いだエリクは、二体目の召喚術に成功したのだった。




 

 ――●○●○●○――





 ――フレスが確認できた状況はここからになる。


「あははははははは!! いかに貴方が強いからって、クランポール二体を同時に相手は出来ないでしょう?」

「この状況で召喚術とは、やってくれるな……!!」


 新たに召喚されたクランポールは、敵と定めたウェイルに対し、大きく咆哮した。

 サラーを飲み込んでいる方を含めた二体のクランポールが、止め処なく尾を鞭のようにして攻撃を重ねてくる。


「……ちっ、いくらなんでも二体同時はキツすぎる……!!」


 氷の剣で必死で攻撃を受け流すが、それだけで精一杯。

 何せ今まで一体のクランポールでもギリギリの戦いだったのだ。

 それが倍ともなると、反撃する余裕すらもない。

 必死に防御に回るも、それでも尾が頬を掠めて血が流れた。


(生半可な反撃は意味がない……! だがさっきみたいに喉元へ潜り込む隙もない……!!)


 クランポールの皮膚は、それこそ精錬された鋼鉄並みの強度がある。

 並みの攻撃では傷一つつくことはなく、ダメージだってほとんどない。

 やるとしたら喉のような比較的柔らかい部分を狙うことだが、さっきの二倍の手数を出してくる相手に、そんな隙が生まれるはずもない。

 ましてやクランポールの片方には飲み込まれたサラーがいる。

 上手く隙を狙ったとしても、サラーのことを配慮して攻撃を加えなければならないが、この状況ではそれもまた難しい。


「ウェイル! 危ない! 後ろ!!」

「何……!?」


 フレスの忠告で後ろを振り返ると、クランポールの尾が目前へと迫っていた。

 二体の撃を受け流すウェイルには、どうしたって隙が出来てしまう。そこを狙われた形だ。

 不運なのはその時、攻撃を受け止めたばかりの体勢でバランスを崩しており、避けるどころか動くことさえ出来なかったことだ。


「クソッ!! ――――」


 ――激しい打撃音が、地下会場に響き渡った。


「あはははは!! バカな人! クランポールを二体同時に相手して、なんとかなると思ったの!?」


 エリクの高笑いが耳に障ったが、その笑いはすぐに虚空へと消え失せた。


「――怪我はないかしら、ウェイル?」

「アムステリア!?」


 何故なら、間一髪のところでアムステリアが間に入り、しなる尾を蹴り飛ばしていたからだ。


「何とか間に合ったようね」

「た、助かったよ……!」

「危ないところだったわね、ウェイル。もう大丈夫よ。この私に任せなさい?」

「むぐ!」


 ひしっとアムステリアに抱きつかれ、その豊満な胸に顔を埋められた。

 一瞬だけ心地の良い柔らかさに包まれたが、その感触をじっくり味わう前に呼吸困難に。

 せっかく助かったというのに、今度は命の恩人の胸に殺されそうだ。


「テリアさん、無事だったんだね!」

「私があんな雑魚にやられるわけないでしょ、と言いたいけどね。無傷じゃないの」


 アムステリアの服はベットリと鮮血で染まっていた。


「テリアさん、怪我したの!? その血!?」

「これ? ま、ちょっと油断しちゃって血塗れにはなったけどね」

「どうしてピンピンしてるの!? なんで無傷なの!?」

「さて、どうしてかしらね。それに無傷じゃないわ? 見なさいよ、このドレス! 結構高かったのに、血に染まるし切り刻まれるし!」

「え? そこ?」


 思わず目が点になるフレスである。


「アムステリア……! 赤髪の悪趣味男は何をやっているのかしら!?」

「あんな軟弱な男を私に仕向けるだなんて、ちょっと見くびっているんじゃなくて?」

「ちっ、ルシャブテ。ほんと使えない男」

「それは同意してあげる」


 先程フレスが見た素早い影の正体は、アムステリアであったわけだ。


「いい加減、離れろ、アムステリア!!」


 窒息する寸前でどうにか胸から脱出したウェイル。


「はぁはぁ、殺されるところだった……」

「……ねぇ、ウェイル。貴方の顔、傷があるけれど……。もしかしてやつに?」

「あ、ああ、油断した」

「……あの女……!! 私の大切なウェイルの顔に傷を……!! 絶対に許さないわよ……!!」


 アムステリアは、全身から殺意を放ちながら、鬼のような形相でエリクを睨みつけた。


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