このつまらない世界に終止符を
「さーて、全員揃ったね!」
――滅亡都市フェルタリア 廃墟となっているフェルタリア王宮にて。
埃と蜘蛛の巣の被る風化した玉座へ、お構いなしに腰を下ろした元フェルタリア王子、メルフィナ。
暗く寂れた謁見の間を満足げに見回して、アハハハと高笑いした。
「いやぁ、玉座ってなかなかに座り心地が良いものなんだねぇ。二十年前のあの日、僕が何もしなければ、もっと早くここに座れていたんだろうけどさ!」
「それはどうかな。遅かれ早かれ、お前さんはこちら側に来ていたさ」
「それもそうだねぇ。毎日ここに座るのはなんだか面倒だね。腰を壊しそうで怖いしさ!」
メルフィナは王座から、イドゥと集まった『異端児』メンバー全員の顔を見る。
「みんな、ついに念願の時がやってきたよ! この完全で美しくて面白くもない世界をぶち壊して、もっともっと混沌に満ちた不完全な世界に旅立つ時がさ!」
「おい、リーダー。そろそろお前さんが一体何をしたいのか、聞かせてはくれないのか? もう目的達成は間近なんだろ?」
「そうですよー、教えてください」
そのダンケルクの疑問に、イドゥ以外の皆は、おもむろに頷いていた。
実の所、メルフィナとイドゥ以外のメンバーは、計画の最終目的を一切聞かされていない。
それなのに何故、皆がメルフィナに従っていたかというと、単に彼の為すことはおそらく面白いことに違いないと、長年の付き合いで知っていたからだ。
「『三種の神器』まで手に入れて、お前さんは一体何をする?」
皆の疑問と視線が、一斉にメルフィナに集まる。
メルフィナは、そんな彼らの期待に応えるように椅子から立ち上がると、高らかに叫んだ。
「――この世界を、より面白くするのさ!」
天を仰ぎ、胸に手を当て、椅子に足を置いてポーズをとるメルフィナ。
その大袈裟なポーズに、周囲からの反応は冷たい。
「……いや、そういう抽象的なことを聞きたいんじゃなくてだな」
「リーダー、カッコつけても意味ない。るーしゃの方が千倍カッコいい」
「当たり前だ。比べるな」
「ルシャブテ酷くない!? 今のポーズ、すっごく悪のボスっぽかったよね!? ねぇ、カッコいいよね、アノエ?」
「今のがカッコいいなんて、リーダー、趣味悪い。ルシャブテと同じくらい趣味悪い」
「それはかなりショックだね!?」
「あ、あの、リーダー、私達はもっと具体的なことが知りたいんですけど……。それと、やっぱりそのポーズはないです。気持ち悪い」
「ふぐっ!? ルシカに言われるのが一番傷つくね……。判ったよ。詳しく答えるよ」
皆から一斉にカッコ悪いと指摘され、ズーンと落ち込みながら、メルフィナは半ば投げやり気味に答えた。
「三種の神器『異次元反響砲フェルタクス』を起動させる。あれが正しく起動すれば、この世界には大きな穴が開くことになる」
「……穴、ですか?」
「これは何も抽象的な表現じゃないよ。直接的な表現だ。ねぇ、ルシカ、一つ質問するよ。元々この世界には、神獣はいなかったとされている。ならどうして今、神獣は存在するのだろうか?」
「神獣ですか?」
この世界に住む、人間や動物とは非なる存在。
ルシカ自身もエルフであり、エルフは神獣の代表格だ。
「う~ん、私達エルフはいつからいるんだろうなぁ? でも一番簡単なのは、誰かが召喚術で呼び寄せたってことでしょうね」
「正解! 召喚系神器を用いての召喚術。これが一番手っ取り早いよね」
「リーダー、何が言いたいんだ? 召喚術とフェルタクスと、一体何の関係がある?」
「まあまあダンケルク、そう焦らないで? じゃあ、ダンケルクに聞くけど、召喚された神獣って、一体どこから来たのかな?」
「神獣がどこから来たかだと? ……そう言えば全然気にしたことが無かったな。神器を使えば彼らは召喚される。そういうものだと思い込んでいたからな」
召喚術を行えば、その術の為に払った魔力の代わりに、神獣を呼び、使役することが出来る。
その行為自体を、自然なこと、当たり前のことだと思い込んでいて、その原理自体を考える者は少ない。
「答えを言うと、召喚術というのは、転移術の応用なんだよ。ただし転移範囲はこの世界じゃない。この世界とは何もかもが全く異なる、異世界だ」
「「「異世界!?」」」」
唐突に出てきたメルヘンチックな言葉に、一同言葉を失った。
「そう、神獣は異世界の生物なんだ。エルフもデーモンも、そして――ドラゴンもね」
メルフィナは、丸めた古い紙を取り出すと、皆の前に乱雑に広げた。
「これ、ヴェクトルビアから盗み出した『セルク・ラグナロク』なんだけどさ」
「……あのセルクの作品を、こうも適当に扱うことが出来るのはリーダーだけだな……。一応元プロ鑑定士の俺からすれば、正気の沙汰じゃないぞ……」
「リーダーは正気じゃない。元から壊れてる」
「それは間違いないな。スメラギ、たまには的を射たことを言うじゃないか」
「エヘヘ、るーしゃに褒められちゃった。嬉しい」
「いや、僕は全然嬉しくないんだけど……。まあいいや、これ見てよ」
メルフィナは『セルク・ラグナロク』の絵画の意味を説明し始める。
「描かれているのは五体の龍。大砲のイラストに女神、剣もある。実はこの絵画は、フェルタクスの起動に必要なものが書かれているんだ」
「それらは全て集めたんだろ? カラーコイン、もといサウンドコインも含めて」
「そうだね。でさ、この絵画に描かれている龍って、皆中央へ向かって飛んでいるように見えるじゃない? でも、ちょっと考え方を変えたらさ、大砲から龍が飛び出しているようにも見えない?」
大砲は、描かれた龍達のすぐ下に描かれている。
そう指摘されたら、確かにそう見えなくもない。
「ま、この絵画はセルクが色々と予想して描いただけだから、あんまり信頼性は無いのかも知れないけどさ。でも、僕は間違いないと思っているんだ。少なくとも今から扱うフェルタクスは、召喚系神器と転移系神器の最高峰に位置する、時空間転移系神器なんだからね」
「二十年前のフェルタリアで起きた事件は、まさに時空転移だったわけだな……」
二十年前、フェルタリアから音が消えた。
この都市に住まう者は、一人残らず消え去った事件だ。
「僕の愛すべき民達は、皆異世界へ飛んでっちゃったってことだね! アハハハハ!」
「リーダー、ならその穴っていうのは……!」
「そうだよ。フェルタクスは空間と次元を超越する神器。フェルタクスが正しく起動すれば、この世界は異世界と繋がるということ! 異世界と繋がる巨大な穴が出来て、最後は異世界と融合するんだ!! とっても楽しいと思わない!? だって外の次元には、デーモンやドラゴンを始め、もっと強力な神獣がウヨウヨしているんだよ!? この世界は、不完全になり、更なる混沌に包まれる! こんな退屈で平凡な世界が、一瞬にして楽しい世界には早変わりだ!」
「そんなことをすれば、この世界にどんな影響が出るか判らんぞ!? それに二十年前、フェルタリアでは住民が全て消え去った! つまりフェルタクスが起動し、この世界が異世界と融合するということは、フェルタリアで起きた現象が、このアレクアテナ大陸、いや、この世界全体で起こるということだろう!? 飲みこまれた後、俺達の命がある保証はどこにもない!! 危険すぎるぞ!!」
落ち着いた雰囲気のダンケルクが、珍しくリーダーに熱く突っかかる。
そんなダンケルクの様子に、リーダーは唇を歪めて笑った。
「おや、ダンケルク。怖いの?」
そんなリーダーの問いに対し、ダンケルクは――
「馬鹿言え。面白そうだと、そう思っただけだ」
――同じく唇を釣り上げ、笑って返したのだった。
「るーしゃ! 異世界! 楽しそう!」
「だな」
「異世界にカッコいい剣はあるのか?」
「あるんじゃないですか? もしかしたら神器も異世界から来たのかも」
「命の危険性はあるが、溢れ出る興味には勝てん。リーダー、やろう」
――やはり、彼らは異端だった。
この世界の全てが異世界に飲まれ、全ての命が消え去る危険があったとしても、彼らは貪欲に面白さのみを追求していた。
こんなに面白いことは他にないと言わんばかりに、皆はメルフィナへと顔を向け、そして頷いてきた。
「皆賛成だね! よし、じゃあ一気にやっちゃおう! イドゥ、例のモノは?」
「ティア嬢ちゃんが遊んでいる」
「おーい、ティアー、おいでー」
玉座の間から少し離れた、大きな窓のある通路にて、ティアはとある神器を不思議そうに眺めていた。
「ティアってばー! おいでー!」
「わかったー」
その神器を持って、トコトコとティアがやってくる。
「気に入ったの? それ」
「うん。大きい穴があって、面白いの! 穴に手を突っ込んだら、なんかぐにゅぐにょって変な感触がするんだー! アハハ! おもしろーい!」
ティアの持つ神器。それは『無限地獄の風穴』という神器であった。




