因縁の地、フェルタリアへ
突如として会議室に乱入して来たのは、炎を司る神龍、サラーであった。
その顔は苦しげに歪んでおり、いつもの凛とした表情はどこぞに消え去っている。
何より着ている衣服がボロボロで泥だらけだった。
「侵入者とみなします! 急いで治安局へ通報しなければ!」
「その通報、少し待ってくれないか?」
サラーのことを通報しようとする職員達に、ウェイルは制止を呼びかけた。
「悪いな、こいつは俺の知り合いなんだ。どうやら何か事情があるみたいでね」
「しかし、いくらプロ鑑定士の方の頼みとはいえ、これは規則ですので!」
「頼む。この娘についての責任は全て俺が負う。こいつが何か協会に損害を与えたのであれば、全額俺が肩代わりする。こいつの身分も保障する。これでどうだろうか?」
ウェイルの申し出に、職員達はしばし考えていたのち、やれやれと苦笑いを浮かべた。
「……ウェイル殿が全て責任を負うというのであれば、仕方ありませんね……」
「すまないな」
「くれぐれもサグマールさんにはご内密に」
「勿論黙っておくさ」
「……やれやれ」
本人の前で行われる不正行為に、サグマールも少し困った顔を浮かべた。
「それでは失礼いたします」
職員達はわざとらしくサグマールへと一礼したのち、部屋から去って行った。
扉が閉まった瞬間、フレスは堪らずサラーへと抱きついた。
「一体どうしたのさ、サラー! 全身傷だらけじゃない!!」
「離れろ、フレス」
「ひゃん!」
ぶっきらぼうにフレスを突き放したサラーは、トコトコとウェイルの前まで歩いてきた。
職員達の制止を振り切り、わざわざここまでやってきたサラーのこと。
何か事件に巻き込まれたのであろうことは明白だった。
サラーのただならぬ様子に、一同息を呑む。
「サラー、何があった」
沈黙を破るようにウェイルがそう問うと、サラーはウェイルに抱きついて、服を思いっきり握りしめた。
「頼む、助けてくれ、ウェイル!」
「……何があったか話してくれ」
「イレイズが、イレイズが……誘拐されたんだ!」
「イレイズが……?」
「誘拐!?」
――部族都市クルパーカーの王族であり、サラーのパートナーであるイレイズが、誘拐された。
サラーは悲痛な声で、そう叫んだ。
「何故だ? すでにダイヤモンドヘッドを狙う連中はほとんどいないはずだろう!?」
ダイヤモンドヘッドとは、クルパーカーに住まう部族、ダイヤモンド族の持つ秘宝である。
部族都市クルパーカーでは、人が亡くなった際は火葬にて死者を弔うのだが、ダイヤモンド族の人間は身体、とりわけ骨を構成している炭素成分が他の人間と比べて非常に濃い。
高熱での火葬後、その遺骨はダイヤモンド化するという特殊な性質があるのだ。
このダイヤ状になった頭蓋骨はダイヤモンドヘッドと呼ばれ、アレクアテナ大陸きっての財宝であったのと同時に、違法品であった。
しかし、現在ではダイヤモンドヘッドの違法品指定は解除され、合法的に入手が可能となっている。
またダイヤモンドヘッドを狙っていた『不完全』が組織ごと潰れてしまったので、この秘宝を狙う連中は実質皆無になっている。
「違う!! 狙いはダイヤモンドヘッドなんかじゃなかったんだ……!!」
「じゃあ何を狙われたんだ!?」
「私だ!」
「……サラーを……!? ……まさか……!!」
事情を知る者は、これだけで全てが繋がっていた。
「敵はどんな奴だ!?」
「詳しくは判らない! でも『不完全』にいるときに見たことのある連中だった! あの赤い髪の男がいたから……!!」
「ルシャブテでしょうね、そいつ」
奴がいて、そしてサラーを狙うとなれば。
そんな事をする連中は、もう奴らしかいない。
「早速『異端児』が行動に出てきたね……!!」
やはり敵は龍を手に入れるために、過激な行動に打って出てきた。
テメレイアにとってもウェイルにとっても、明日は我が身である。
もうすでに、警戒を重ねなければならない状況。
「イレイズはどうやって誘拐されたんだ?」
「奴らは突然、部屋に乗り込んできたんだ。勿論応戦した。でも私は負けてしまった。まさか光の龍が敵にいるだなんて、思いもしなかった……!!」
「ティアがいたんだね……!!」
光の龍の少女ティア。
その魔力はフレスやサラーをも超越し、五体いる神龍の中でも最強と云われる。
「情けないんだ……! イレイズは私が守ると誓ったのに……!! イレイズは私が逃げる時間を稼いでくれた……!! 本当は私が庇わないといけなかったのに!!」
「サラー……!」
落ち込むサラーを、フレスは背中から抱きしめた。
「サラー。敵は何か言っていたか?」
「……後からクルパーカー王城にこれが届いたんだ。イレイズを返して欲しくば、これをプロ鑑定士協会に持ち込めって書いてあったから」
ポケットからくしゃくしゃになった紙を取り出して、サラーはウェイルに手渡した。
その内容に一通り目を通し、それをすぐにテメレイアへと回す。
「ウェイル、なんて書かれてあったの?」
「あまりにも単純な脅迫だった。『イレイズを助けたければ、全ての龍を連れてフェルタリアに来い』だってさ」
「おそらく僕の事もバレているね。全ての龍ってことは、ミルも含まれているだろうしさ。しかし敵もやけに慎重だね。脅迫状が必ず僕らの目に入るように、わざわざ二つも用意して送ってきているんだから……!!」
手紙は全員に行き渡る。
回って帰ってきた手紙を、ウェイルはくしゃくしゃに丸めて投げ捨てた。
「ウェイル……!!」
不安げに見上げてくるサラー。
ウェイルは、そんなサラーを安心させるために、頭の上にポンと手を置いた。
「一緒に助けに行こうか、サラー」
「ウェイル……!! ありがとう……!!」
心の拠り所であるイレイズが誘拐されて、ずっと不安だったのだろう。
ウェイルがそう返答して初めて、サラーは手で目を拭った。
「どのみち俺達はフェルタリアに行く予定だったからな。むしろサラーという心強い仲間が出来て助かるよ。なぁ、フレス」
「うん! またサラーと一緒に戦える! ボクはそれが嬉しいんだ!」
「フレス、ありがとう……!!」
フレスの胸で、サラーは小さく泣いていた。
その光景を、背後にいたミルとニーズヘッグが羨ましそうに見ていた。
そんなミルらに対して、テメレイアは小さく呟く。
「君らも加わって良いんじゃないかな? ねぇ、ミル、ニーズヘッグ?」
「ふ、ふん! どうしてわらわがサラーなんかに! ……でもサラーがどうしても胸を貸せというのであれば貸してやる……!」
「私は……フレスがいいの……。サラーが羨ましいの……」
龍達も、なんだかんだ言って昔は仲が良かったのかも知れない。
それはニーズヘッグやティアも含めて、だ。
「さて、決まりだね。急遽新しい仲間が出来てびっくりしたけど、計画に変更はない。明日の朝、マリアステルを発つよ。それまでみんな、しっかりと準備して」
「ああ。全てに決着を付けに行く。……俺自身にもな……!!」
――三種の神器『異次元反響砲フェルタクス』を巡るウェイル達の戦いは、いよいよ最終局面を迎える。
欲する神器の大半を手に入れた『異端児』と、その鍵たる龍を連れた鑑定士達。
世界の命運を賭けた戦いは、因縁の地『滅亡都市フェルタリア』で始まる。
――次章。
龍と鑑定士 最終部 最終章
滅亡都市 フェルタリア編 『龍と鑑定士の、旅の終わり』
――セルクの意思を次ぎ、光と影の因縁に終止符を打つ戦いが、ついに幕を開ける。




