赤い髪の訪問者
「治安局へはワシから手を回しておく」
「ステイリィに繋いで、俺の名前を出してくれ。多分それだけで何とかなるだろう」
「お前には便利な仲間がいたものだな。そうさせてもらう。それとナムル殿」
「判っておる。フェルタリアまでの鉄道の手配だな。やっておこう。フェルタリアへは旧鉄道を使わねばならないのでな」
「助かるよ。ありがとう、二人とも」
「礼などいらんさ。お前達はアレクアテナ大陸を代表して事件を解決しに行ってくれるんだ。これくらいはお安い御用だ。……だが一つだけ注文がある。お前達のような有能鑑定士が一気に留守にすれば、その間はプロ鑑定士協会の業務に差支えが出る。したがって人員を一人ほど回して欲しいのだが――」
サグマールの視線は、エリクの方へ向けられた。
「エリクをワシの秘書にさせてくれないか?」
「……はぁ!? アンタ、寝ぼけてるの!? 正気!? 私はアンタを一度裏切っているのよ!?」
この提案に、エリクは信じられないと素っ頓狂な声を上げた。
「また裏切るかも知れないのよ!?」
「そうだな。だが困ったことに、業務が忙しいのは事実であるのでな。背に腹は代えられん」
「なっ……!!」
言葉も出ないと目を丸くするエリク。
「正直に言わせてもらえば、エリクを100パーセント信頼することは出来ん。だがお前さんは有能だ。秘書としては能力は協会トップクラスだろう。何せ以前はスパイ活動をしながらも仕事はきっちりとこなしていたのだからな」
「結局バレたのだから、有能とは言えないでしょう!?」
「ま、お前さんがそう思うのならばそうなのだろうが、それでもワシはお前さんを評価しておる。それは変わりない。さぁ、どうする? 再びワシの下で働いてはくれぬか?」
「…………」
少し頭に手を置いて考えるエリク。
しばらくして、ウェイルの方へ視線を向けた。
「私の命は今、ウェイルに握られている。私の処遇もね。だからウェイル、アンタが決めて」
「そうだな」
エリクの処遇は、司法交渉によって契約したウェイルの手に委ねられている。
エリクが勝手に自分自身のことを決めることは出来ない。
「サグマールには借りがたくさんあるからな。エリク、サグマールのことを助けてやってくれ」
「……ふぅ、……判ったわ。アンタに従う」
渋々といった――とはいえなんだか嬉しげなエリクは、すっとサグマールの横へと移動した。
「秘書か、なんだか久々ね」
「ブランクはあるだろうが、遠慮なくこき使ってやる。ありがたく思え」
「はいはい、サグマールさん」
二人が並ぶ光景を久しぶりだが、改めて見ると妙にしっくりくるコンビだった。
「さて、話はまとまったね」
パンッと手を叩くテメレイアは、説明のために並べていたカラーコインやインペリアル手稿のメモを片付けた。
「後は、いつフェルタリアに向かうか、だね」
「出来る限り急いだ方がいいだろうな。奴らは必要な神器をほとんど手に入れているし、何よりこの脅迫状のこともある」
「そうだね。でもこれは奴らの狙いでもある。奴らは龍を欲しているのだから、わざわざ龍を連れている僕らから出向くというのはありがたいことのはずさ」
「だが、このままだとアレクアテナは、ゾンビの闊歩する大陸になってしまう。それにどちらにしても奴らは俺達――特にレイアを狙ってくるはずだ」
「はず、ではなくて、確実に、だろうけどね。何せ僕は龍のパートナーであると同時にアテナのコントローラーでもある。パーティーには必ず招待されるだろうさ」
ハハッと乾いた声で笑うテメレイア。
彼女だって、気丈に振る舞ってはいるけれど、ある意味切羽詰っているはずなのだ。
大切な親友と、自分自身が狙われているという恐怖を自覚しているのだから。
「だったら、パーティーへ乗り込んで思いっきり暴れてやろう。パーティーが中止になるまでな」
敵の思惑だろうが罠だろうが、関係なく潰せばいい。至極簡単な話だった。
「エリク、早速治安局へ連絡だ。ステイリィ氏に繋いでもらえるよう交渉してくれ」
「判りました、サグマールさん」
「ウェイルよ、明日の朝までには許可を手に入れてやる。任せておけ」
サグマールのサムズアップ。その隣からナムルもサムズアップしてきた。
「汽車の手配も明日の朝までに終わらせよう。マリアステル駅に専用車両を用意する。何、ワシの鑑定士として全てを賭けてやってやる」
「……ありがとう、ナムル、そしてサグマール」
この二人には本当に頭が上がらない。
今まで鑑定士を続けてきて、二人に世話にならない時は無かった。
「ウェイル、二人は本当に良い先輩だね!」
「ああ」
フレスの台詞に、頷いて同意したウェイルであった。
――そんな時である。
「ちょ、ちょっとお待ちください! まだ入場許可は下りていませんよ!!」
「これ以上勝手な行動をとるのであれば、治安局へ通報します!!」
「……なんだ?」
「ちょっと見に行ってくるね!」
やけに廊下が騒がしい。
何事かと、代表してギルパーニャが様子を見に、外へ出ようとすると。
「う、うぎゃああああ!!」
ドンッと、思いっきり扉が開かれて、軽いギルパーニャは吹っ飛ばされてしまった。
「ギル、大丈夫!?」
「イテテテテ……うん、フレス、ありがと。でも一体なんなんだよ……」
扉を開き、ギルパーニャを吹っ飛ばした張本人が、二人の横を通過する。
「ちょっと君! ギルに何する――――え…………ええええええ!?」
「……なんだって……!?」
その張本人を見て、ウェイルやフレスは驚きを隠せなかった。
「な、なんで、どうして……!?」
「えっと……君は確か、フレスちゃんとミルのお仲間さん、だよね」
「お主、一体どうしてここへ!?」
その者は、赤く長い髪をたなびかせ、赤い翼を現した。
「――サラー!?」
騒ぎを起こしながら現れたのは、赤い髪を携える炎の龍の少女――サラーであった。




