三種の神器『異次元反響砲フェルタクス』
「まぁ、レプリカがあるから鑑定は可能だと思う。このレプリカが完成度次第だけどね」
「だ、大丈夫だってば! 私、セルク作品のトレースだけは上手いんだからさ!」
「まさか贋作士の腕を信頼しなければならない日が来るとはな……」
「盗み出したのはイドゥ達だと思うよ? 欲しがってたしさ」
フロリア曰く『異端児』は『セルク・ラグナロク』も求めていたそうで、フロリアに持ってくるように命令していたという。
しかしフロリアは、アレスの元へ戻った時から『異端児』を裏切るつもりだったので、その命令を無視したという。
いつまで経っても戻ってこないフロリアにしびれを切らして、彼らは直接奪いに来たようだった。
そんなわけで本物がない以上、このフロリアが作った贋作の『セルク・ラグナロク』を用いて解析を行わなければならない。
「『異端児』も欲していたという点から、やはりこの絵には何か秘密があると考えて間違いなさそうだ」
「だね。ならフロリアの腕を信用するとして、この絵画に描かれた謎を一つ一つ解いていこうか」
そしてテメレイアは、独自の鑑定結果を披露した。
「まずこの絵画に描かれているのは五体の龍。そして剣と大砲と女神だ。これらの要素について、おそらく僕達はおおよその解答を持っている」
「五体の龍っていうのは、間違いなくボクらのことだよね」
絵画の中央に向かって集まる五体の龍。
色はそれぞれ赤、青、緑、黄、紫。
「青がボクで、ミルが緑。サラーが赤で、ニーズヘッグが紫。そしてティアが黄色。全て一致するよ」
「そして剣や女神、大砲はおそらく『三種の神器』の事だ」
三種の神器の一つ、『創世楽器アテナ』は、芸術の女神アテナを象った巨大な彫刻型の神器だ。
それを女神と当てはめると、同じく三種の神器の一つ『心破剣ケルキューレ』も、この剣に当てはまる。
「余った最後の一つ。大砲は『異次元反響砲フェルタクス』のことだ。間違いないよ」
過去の記憶の戻ったフレスが、そう断言した。
実際には、フレスにこの神器を見たという記憶はないのだが、何故かそんな気がしたのだ。
見れば後ろでニーズヘッグが頷いている。
彼女は見たことがあるのだろうし、間違いはないだろう。
「この絵画についてセルクは何も解答をしていない。ブログの中にも書いてはいない。だけど、ヒントだけは残されている。カラーコイン、もといサウンドコインも、ここには書かれているね」
『セルク・ブログ』には色についての暗示がある。
これをカラーコインに当てはめると、今度はカラーコインに記されている詩が意味を持ってくる。
「『セルク・ブログ』の『序』はセルクの想いが書かれているだけだった。次の『破』は三種の神器の在処が書かれている」
『序』は、まさしくテメレイアの言う通りで、実際には何の意味もない。
『破』については、具体的な地名まで書かれていた。
事実ケルキューレはラインレピアにあったし、アテナはハンダウクルクスにあった(ハンダウクルクスが存在する土地は、過去にはルクソンマテアという地名だった)。
そして最後のフェルタクスは、ウェイルの故郷フェルタリアに存在した。
つまり『破』は三種の神器の在処を完全に言い当てたということになる。
「問題は次の『急』だ」
――セルク・ブログ 『急』――
女は愛を、聖は鍵に、神たる龍を糧として。
邪は動き出す。
邪の操作には七色と、鍵たる一色を用いる。
邪は楽器に近い。
その音色の根源は、世界を彩る七色と、この世を覆う闇である。
我はその七色と一色を盗み出して、この大陸の各地へ隠した。
七色の音色には歌がある。
至る終焉への讃美歌だ。
フェルタリアに伝わるその歌が、全てのプロローグになるはずだ。
女は地下に、邪は城に隠してある。
女は女神の姿にて、魔力の全てを司る。
邪は大砲。
世界に破滅をもたらすだろう。
聖の剣は、ラインレピアの五つの鐘が、同時に、強烈に響き渡る時、現れる。
邪を動かすために、龍が犠牲となるだろう。
時計の鐘を必要以上に鳴らしてはならない。
邪の者が、目覚めてしまうだろうから。
――
「セルクっていう天才は、思いの外素直な性格だったのかも知れないね。だってこの詩は、今の僕らが見ればほとんどそのまま理解可能なものなのだから」
「邪の操作には七色と鍵たる一色が必要。これはつまり7+1、計8枚のカラーコインが必要ということだな。そして邪というのはフェルタクスのことだ」
「最初にある女は愛、聖は鍵って、これはアテナとケルキューレのことだよね?」
「後半に聖の剣ってあるから、間違いないだろう。三種の神器であるという暗示だろうな」
「まとめよう。ここまでの情報から察するに、最後の三種の神器『フェルタクス』ってのは、世界を滅ぼす力を持つ大砲だということ。そしてそれを制御するためには、鍵たるケルキューレとアテナ、そしてカラーコインが必要不可欠ということだね」
「俺は昔フェルタリアが目の前で滅ぶのを見た。ショックが大きすぎて詳しくは思い出せないが、あれはフェルタクスの能力によって起きたことだろう。師匠さえ来ればもっと詳しいことが判るんだが」
「シュラディンさんはすでに呼んでいるのだろう? だったら待とうじゃないか」
――そしてテメレイアは、一つの封筒を取り出した。




