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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
最終部 第十四章 司法都市ファランクシア編『ステイリィ英雄譚』
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つけあがった心の報い

「やはり君は若い。若いが故に未熟だ。しかし残念だ。君はこれ以上成長することはないだろう。一生を未熟のまま終えることになる」

「ど、どこにいる!?」

「ラクサール、上に奴の姿が!!」

「上!?」


 ラクサールがすぐさま天井を見上げた時。


「下だよ。本当に見るべきはな」


 その声と共に、彼の足下には巨大な水の渦が発生していた。


「敵の姿なんて、いつでも確認できる。それこそ味方から教えてもらえばいいだけだ。本当の危機に気づくこともなく、無駄に俺の姿を探した。そこがお前の未熟なところだ」

「う、うわああああああああ!?」


 水の渦はラクサールを刃の鎧ごと包んでいく。

 やがて水は球体となって、すっぽりとラクサールを包み込んだ。


「いくらその刃が鋭かろうと、水を切ることは出来ないだろう? むしろ鎧が仇となったな。重すぎて水の中を泳げまい」


 ボコボコと、ラクサールから空気の泡が立ち上る。

 このままでは数分と経たないうちに溺死してしまうだろう。


「ネイカム、ラクサールを助けないと!! ……ネイカム!?」


 そういえば先程からネイカムの声が聞こえない。


「あ、ある、せっと……!!」

「あららー、ばれちゃったね!」

「ネイカム!?」


 ネイカムの姿は、空中にあった。

 翼を持つ金髪の女の子に胸ぐらを捕まれて、力なくうなだれている。

 それだけではない。

 彼の身体はすでにボロボロだ。

 何があったかはよくは判らないが、彼の着ている衣服は真っ黒に焦げている。

 全身に大火傷を負っているのは間違いなさそうだ。


「ダンケルクもそろそろトドメを刺しちゃうみたいだし、こっちもやっちゃおうかな!!」

「や、止めなさい!! もう止めて!!」

「やだよー!」


 アルセットの制止を求める叫びも、ティアの軽い口調で拒否された。

 溺死が間近に迫ったラクサールと、墜落死の危機のネイカム。

 この時、アルセットはようやく身に染みて痛感した。

 英雄と呼ばれるステイリィの、心からの忠告の意味を。


(ステイリィさん、ごめんなさい……!!)


 もはや為す術も無く、何もできないアルセットの膝と心は、無意識のうちに折れていた。


「……助けて……誰か……」


 ラクサールもネイカムも、あまり好きではなかった同僚だけど。

 数年間、同じ時間を歩んだ二人。

 常に近くにいた二人の死が、こんなに簡単に訪れるだなんて、考えるだけで震えが止まらない。


「助けて……、二人を助けて……!!」


 忠告を無視した報い。

 それが今形となって襲いかかってきている。

 だから誰も助けに来るはずもない。

 でも、それを知っても、アルセットは二人の為に叫んでいた。


「――二人を助けて! ステイリィさん!!」


「――うおおおおお! 助けに来たぞおおおおお!!」


 突如響いてきた幻聴。


「ステイリィさんの声……!?」

「ウェイルさん、フレス、お願い!」

「ああ」

「お任せあれ!」


 アルセットの横を、一気に冷たい風が通り抜ける。

 その冷気はラクサールを包む水球を一気に凍らせた。


「うりゃああああああ!!」


 フレスは水球へ向かって飛ぶと、腕に精製した氷の剣を、氷の塊となった水球に突き立てた。

 ピキッと亀裂が走り、そして氷は一気に砕け散る。

 残ったのは鎧が解除され、意識を失っているラクサールの姿だけだった。


「ら、ラクサール!?」

「ステさん!!」


 フレスはラクサールの身体を持ち上げて、ステイリィの元へ。


「よし、皆の衆! すぐさま倒れている連中を外へ運べ!」


「「「イエッサー!!」」」


「ステイリィ、剣を借りるぞ。アムステリア! 頼んだ!」

「はいな!!」


 丸腰のウェイルは、ステイリィから剣を借りて、いつかのようにアムステリアの足の上に手を掛けた。

 アムステリアはそれをカタパルトの様に蹴り上げる。


「そいつを返して貰うぞ、ティア!」


 蹴りの勢いを利用して、ウェイルはティアを叩き斬らんと突っ込んだ。


「ひゃん! 危ない!? ……あ」


 ティアは突っ込んできたウェイルをひょいっと避けた時、手が滑ったのかポロっとネイカムを落とした。


「テリア!!」

「うん、やっぱりその呼び方、いいわぁ!」


 がしっと落下したネイカムをキャッチしたアムステリアも、彼をステイリィの元へ持って行く。


「ありがとうございます。よし、お前ら、急げ!」


 ステイリィの部下達は次々と負傷者を運び出していく。

 その様子を見送りながら、ステイリィはアルセットの元へとやってきた。


「……幻覚じゃない……!? ステイリィさん……!!」

「アルセットって言ったっけ? さぁ、逃げるよ。後はこの鑑定士さん達にお任せしよう」

「……はい……」


 ステイリィに肩を借りて、アルセットは立ち上がる。


「ウェイルさん、後はお任せします!」

「ああ、任せてくれ。そいつらを上まで運んだ後は、ビャクヤへ連絡を取れ。囚人達の確保に努めろ」

「判りました!!」


 テロリストは全てウェイル達が引き受けてくれたので、比較的安全にステイリィ達は逃げ出すことが出来た。

 地下三階まで上がり、ようやく一呼吸ついたとき。


「申し訳ありませんでした……」


 崩れるように涙を流しながら、アルセットがステイリィの肩で泣く。


「……気にするな。同僚じゃないか」


 ステイリィはアルセットをゆっくりと抱きしめて、涙が止まるのを待つことにした。

 その様子を見た部下達は、ステイリィという上官を持ったことを誇りの思い、彼女の後をついて行ったのであった。


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