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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
第一部 第二章 競売都市マリアステル編 『贋作士と違法品』
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心からの師弟関係

 ――滅亡都市フェルタリア。

 その都市こそ、ウェイルが『不完全』を恨むことになった理由。

 エリクからフェルタリアの名前を聞いた瞬間から、全身が滾るのを感じた。

 それは溶岩のように熱く、同時に氷のように冷たくて暗い、形容しがたい感情であった。


「フェルタリアをご存知ですよね? そちらの青いドラゴンさん?」


 エリクは、何故かフレスに問いかける。


「どういうことだ……?」


 ウェイルは、背後で俯いているフレスへ視線を送った。


「一体フレスがフェルタリアの何に関わっていると言うんだ!?」

「あらあら、ウェイルったら、何も知らないのねぇ。……ま、そうよね。仮に知っていれば、その龍を弟子にするなんて発想が出てくるはずないものね」

「……どういうことなんだ……!?」

「氷の龍のせいで、フェルタリアは滅びたと言うのに……。ああ、なんて可哀想なウェイル……」


 よよよ、とエリクがわざとらしく泣き真似をした。


「フレス、教えてくれ! お前は一体何を知っている!?」

「ボクも今思い出したんだ! こいつらだったんだよ! ボクの大切な親友を殺した犯人は……!!」

「『不完全』が……? ちょっと待て! お前の親友と『不完全』が、どうしてフェルタリアに関わってくるんだ!?」

「ウェイルったら、案外察しが悪いのねぇ。簡単な話、その子の友達はフェルタリアの人間だったってことでしょう?」

「――な……っ!?」


 フレスが頷くのを見て、ウェイルは驚きを隠せなかった。

 しかしよくよく思い返せば、思い当たる節はある。

 封印が解けた直後のフレスの行動は、少しおかしかったからだ。

 なにかに怯え、警戒し、目に涙さえ浮かべていた。

 それなのにフェルタリアの名を聞いた瞬間、一気に相好を崩し、懐いてきた。


「心配しないで? その子はあくまで関わっているってだけで、貴方が知っての通り、フェルタリアを滅ぼしたの我々『不完全』だから。当時から『不完全』は龍を集めていてね。フェルタリアに龍を渡せと要求したのだけれど、彼らは渡してくれなかった。それが原因。ま、二十年以上前のことだから私はあまり詳しくはないのだけど」

「龍――フレスのことか……!」

「目的は他にもあったみたいだけどね。私もこれ以上は知らないわ」

「くそ……、一体どうなってんだ……!?」


 混乱するウェイルに、フレスは自分の知る限りを説明していく。


「奴等はボクを狙っていたんだ。龍を集めること。それを聞いて思い出したよ。あの時『ニーズヘッグ』も同じことを言っていた。ボクのせいで『ライラ』も、フェルタリアも――」

「フェルタリアを滅ぼしたのは『不完全』なんだろ? お前のせいって、どういうことなんだ!?」

「ラルガ教会の事件の後、二人でお話したよね。魔獣ダイダロスとの戦闘中、ボクが何を考えていたかを。そしてウェイルがボクに何を隠しているのかを。ボクさ、実はあの時、判っちゃったんだ。ウェイルがフェルタリア王家の人だってこと。そしてフェルタリアが滅亡したことも。だってその事件には、ボクが関わっていたんだから……!!」


 ――ウェイルが『不完全』を恨む理由。

 それは『不完全』がウェイルの故郷、フェルタリアを滅ぼしたからだ。

 そしてウェイルは、フェルタリア王家の跡継ぎ。つまりフェルタリア王になるはずだったのだ。


「お前、ほとんど記憶がないって――」

「随分と思い出したんだよ。ウェイルの持つ神器を見てね」

「この『氷龍王の牙』(ベルグ・ファング)のことか……?」

「うん」


 ウェイルの右手についている神器『氷龍王の牙』(ベルグファング)

 幼い頃に鑑定士としての師匠からもらった神器で、肌身離さず持っていた神器だ。


「ウェイルがフェルタリアって名乗った時、嬉しくて舞い上がっちゃった。ボクの大好きなフェルタリアの人だって判ったから。でもそれだけなら王族だなんて判んない。でもラルガ教会の事件で『氷龍王の牙』(ベルグファング)をウェイルが持っているのを見て分かったんだ。だってそれは、昔ボクが創造してフェルタリア王にあげたものなんだから!!」

「これを、フレスが……!?」

「ボクは二十年前に一度封印を解かれたことがあるんだ。封印を解いてくれたのがフェルタリア王。とても良い人だった。ボクをフェルタリアに住まわせてくれて、色々お世話してくれたんだよ。フェルタリアの人達も良い人ばかりで楽しかった。そして初めて人間の親友も出来たんだ。でもさ。ある時、その親友が襲われちゃったんだよ。ボクは必死で守ろうとした。その時だよ。敵の目的が龍だと聞いたのは。ボクは敵わなかったんだ。だから……ボクの目の前でライラは……!!」

「何故だ!? お前は龍だろ!?」

「敵にも龍がいたんだ!! その龍にボクは力を封じられて、その間に――親友を失った……!!」


 ――フレスですら敵わなかった。

 そんな連中を相手にしたフェルタリアが、滅びの道を辿ったのは、当然の結果だったのかも知れない。


「ライラを失ったボクは自暴自棄になって、持てる魔力を全て放出したんだ。……その後の事は何も覚えていないんだ。多分誰かがボクを封印してくれたんだと思う。封印は龍を再生する手段でもあるから。誰かがボクを絵画に変えたんだよ」


 だからフレスは封印された。再び絵を濡らしてもらえる、その時まで。


「ボクのせいなんだ……。敵の目的はボクだったんだから、あの時素直に奴らに捕まっていれば……!! ライラは死なずに済んで、フェルタリアも滅亡せずに済んだんだ! ボクさえ捕まっていれば!!」


 フレスは震えながら全てを語ってくれた。

 にわかには信じられない話だ。

 でも、それは全て真実なのだろう。

 右手にあるこの神器が何よりの証拠だ。


「あの時の敵が『不完全』だってことを、ボクは今初めて知ったよ……!!」

「そう……か……!」


 ウェイルは感情は、動揺と怒りが入り混じった複雑なものであった。

 確かにフレスは、フェルタリア滅亡を招いた原因なのかも知れない。フレスが直接加担していたわけではないにしてもだ。

 だからこそ、フレスに問いたい。


「フレス、聞かせてくれ。俺がフェルタリア王家の人間だと気付いた時、どう思った?」

「…………っ!」


 フレスは答えない。

『不完全』への怒りと自らの罪の意識に苛まれ、服を掴み震えるフレス。


「俺の弟子になった時、どう思った……?」

「……嬉しかった……!! 本当に嬉しかったんだよ……ッ!!」


 長い沈黙を破り、フレスが答えた。

 一度崩れた堰は、もう止められない。

 フレスの心の叫びが洪水のように流れ出る。


「またフェルタリアの人に再会できて、あの暖かさに、あの優しさに、また触れることが出来て!」

「……そうか」


 ――激怒、憎悪、悲哀。

 そういった負の感情が、ウェイルの心の中でとぐろを巻いて蠢いていた。

 それでも、それらの感情を全て打ち消し、心の底から自然に沸いたこの言葉。

 ウェイルはフレスにこう言った。


「――俺も嬉しかったよ……フレス」


 これがウェイルの答えだった。

 フェルタリアが滅亡した原因の一つには、フレスのことがあったのかも知れない。

 でもフェルタリアの人々は皆フレスのことが大好きだったはずだ。


「お前が俺の弟子になるって言った時、最初は少し面倒だと思ったけどな」

「……え? ウェイル……?」

「お前が食いすぎて財布が空になった時はゲンナリしたさ。でも嬉しそうに食べるお前を見るのは楽しかった」

「……いいの……? ボク、ウェイルと一緒にいていいの……?」


 フレスの目から涙が溢れ出す。

 フレスはそれを手で拭こうともせず、ただ潤んだ目でウェイルだけを見つめていた。


「誰がダメだって言ったんだよ。俺は嬉しかったんだ。俺は今までずっと一人でいたからな。誰かと一緒の旅ってのがこれほど楽しいだなんて知らなかった。お前が勝手に布団に入ってきた時、お前が翼で服を破った時、お前が俺に腕を組んできた時。その全てが嬉しかったんだよ」

「……ウェイル……!!」


 フレスの叫びを全て受け入れ、俺の心から溢れ出す言葉を全てぶつけてやった。


「だから俺がお前を恨むなんてこと、絶対にない。そもそもお前は謝る必要が無いんだよ」


 ウェイルの告白に近い言葉は、ついに最後を迎える。


「だからさ。これからも、俺と一緒に、旅をしないか?」

「……うん!!」


 フレスは涙を浮かべながらも笑顔で大きく頷いた。

 その顔は先程までの暗い表情は全て消え、ただ清清しく、生き生きとした表情だ。

 フレスもフェルタリアのことで、今まで心を縛られていたのだろう。

 やはりフレスは笑顔が一番だ。

 この笑顔を、フェルタリアの人々は命を掛けて守ろうとした。

 俺はフェルタリアの王族として、その意思を継がなくてはならない。


「フレス。二十年前とは違う。今は俺がいる。お前は今、戦える! そうだろ、愛弟子!」

「うん! 最高の師匠が出来た今、ボクは誰とでも戦える!!」


 この瞬間、二人は心から信頼し合える理想の師弟関係を結んだのだった。


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