エリクの召喚術
――地下二階。
囚人達が津波の様に押し寄せてくるその先に、アムステリアとエリクが立っていた。
「私が逃した奴だけ、蹴飛ばしちゃってくれる?」
「元囚人に命令されるのって、なんだか腹立つわね」
「それ以前は元仲間でしょ? いいじゃない」
「ま、それもそうね」
エリクは一歩前に出ると、光り輝く万年筆のようなペンを取り出した。
「それ、一体どうしたの?」
「このフロアには神器保管庫があるの。囚人達から押収した危険度の低い神器が押収されているのよ」
「それが貴方の神器ってわけね」
「そう。本当に久しぶりね、これを使うのは――!!」
エリクはそのペンを握って壁際に立つと、壁に向かって大きな陣を書き始めた。
複雑な模様が、超スピードで描かれていく。
「完成。最後は……!」
ギリッと自分の指を噛んで血を滲ませると、その血を陣の中心に向かって押しあてた。
その瞬間、円陣は一気に魔力光を放ち始め、陣の中心より巨大な生物が這って出てきた。
「召喚術!?」
「ええ。私、召喚術が大得意なの。神獣クランポール! 私のお気に入りよ!!」
――神獣クランポール。
その姿は巨大な白いワニの様な神獣だが、普通のワニと大きく異なるのが、尾の方にも顔がついているという点。
クランポールは一度大きく咆吼すると、囚人達の方へと向かって、のっそのっそと歩き出した。
クランポールの上に乗ったエリクは、これまた保管庫から取り戻した鞭を持ち、びゅんっとしならせて床を砕く。
「囚人さん達? これ以上先へ進む気なら、このクランポールに食い殺されか、私に蹂躙されることを覚悟するのね。さて、どちらがいいかしら?」
グオオオオオオオオッと、大きく口を開けるクランポールに、囚人達は皆恐怖し、その場にペタリと腰を落としていた。
だが一部はそうでない連中もいる。
動きの鈍いクランポールの脇を抜けて、出口を目指す者が現れ始める。
「後者を選んだようね!!」
エリクのしなやかな鞭捌きに、多くの囚人達が足を絡めとられ、床に転がっていく。
そこへやってきたのがアムステリア。
「逃げられると思って?」
アムステリアはスラリと足を伸ばしたかと思うと、その足で壁を一直線に蹴りつけた。
「逃げたらこうなるわよ? 理解できて?」
「壁が……!?」
その蹴りは、壁に巨大な亀裂と大きなクレーターを作っていた。
二人の力に恐れをなしたのか、ここから先へ向かおうとする囚人は誰一人としていなかったのだった。
「さて、何を見たのか教えてもらえるかしら?」
エリクが取り押さえた囚人の顎を撫でながら、アムステリアは足を見せつけながら問うた。
「き、金髪の女の背中に、つ、翼があって!! 俺達を殺して回っているんだ!! お前達も逃げないと、殺されるぞ!!」
「……へぇ、龍が暴れているのね……!! 急がなきゃ危ないわ!! エリク!!」
「判ってるわよ。行くんでしょ? 私は龍と戦うなんてまっぴらごめんよ。ここでこいつらを監視してるわ」
「そうして頂戴。行ってくるわね……!!」
アムステリアは思いっきり床を打ち蹴ると、超スピードで廊下を駆けていった。
――●○●○●○――
「――じきにアムステリアも来るからな」
「ウェイル!? テリアさん、もう来たよ!? はやっ!?」
ドドドドと土煙を上げながら、超高速でアムステリアが走ってきた。
「お待たせ。上はもう大丈夫よ。エリクがついているから」
「すまんな。だがこれで戦力は整った」
「ウェイル、囚人から地下四階の話を聞いたのだけど、どうやらティアが暴れているみたいね」
「ティア……!!」
ちらりと二人はフレスの方を見た。
フレスが震えている。
だが、それは恐怖からくる震えなんかでは決してない。
何故なら、その瞳は爛々と輝いているからだ。
「武者震いがするよ……!! ボク、ティアにリベンジしないといけないからね……!!」
これより下は龍の領域。
一般人が立ち入るのは、すなわち死を意味する。
だからこそ急がねばならない。
腹の立つ連中とはいえ、『ネクスト』やその部下達の命はなんとしても守らねばならない。
「ステイリィ、お前達は一切戦闘に参加するな。その代わり、何が何でも『ネクスト』の馬鹿共を逃がせ。言うことを聞かなければ気絶させるのもいいだろう。アムステリア、手伝ってやれ」
「はいはーい」
「……判りました。戦闘の方は全てお任せします」
「局員全員を助け出したらすぐに逃げろ。出来ればその後に『セイクリッド』へ応援要請を掛けろ。神器のエキスパートであるあいつらなら、多少役に立つかも知れんからな」
「はい! 聞いたかお前ら! これからは今ウェイルさんが仰った通りに動く! 味方は全員助け出す! 判ったか!」
「「了解しました!!」」
「それでよーし!!」
調子を取り戻してきたステイリィに、ウェイル達は苦笑を浮かべたものの、皆誰しもが彼女の力をここで思い知ることが出来た。
ステイリィは、見ていてとても力強い。
部下を安心させる雰囲気があるのだと。
部下達も、任務を全うせんと意気揚々とステイリィについて行く。
「フレス、アムステリア、頼むぞ!」
「任せておいて!」
「こっちもね」
龍の領域たる地下四階へ、いざ足を踏み入れた。




