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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
最終部 第十四章 司法都市ファランクシア編『ステイリィ英雄譚』
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地獄絵図の大監獄


 ――『懲罰門』 地下一階。


「うわぁ……、酷いね、これ……!!」

 

 フレスは口を押え、控えめに感想を述べた。

 壁や床は血に染まり、看守達の亡骸が、そこら中に散乱している。

 いくつか牢屋も破壊されており、その中に囚人達の姿はなかった。


「……逃げたのかな?」

「いや、ここに来る途中では見なかった。とすると、先に行ったネクストの連中が捕まえたんじゃないか?」

「ウェイル、それは違うみたいよ」


 逃げ出そうとした囚人を捕まえて、破壊されていない牢屋へ入れた可能性もある。

 だが、どうやら現実はそうではなかったらしい。


「これ見て」


 下半身だけとなった死体が、いくつか転がっている。

 アムステリアはそのうち一つの傍へ寄り、下半身を指摘した。


「囚人服よね、これ」

「……だな」

「うげぇ、気持ち悪い……!」


 下半身は囚人服をはいたままである。

 上半身だけ、綺麗さっぱりなくなっていることになる。


「この傷口、斬られたってわけじゃなさそうね。何かで溶かされたみたい」

「……スメラギの仕業ね」


 エリクとアムステリアは、顔を見合わせ頷いた。


「あの娘、見た目は可愛らしいくせに性格は容赦ないから、気をつけておいた方がいいわ」


 見れば廊下のあちらこちらに溶けた痕跡がある。


「ステイリィがスメラギと出くわしたらまずいわ。あの馬鹿娘、スメラギにケンカ売りそうだもの……!!」

「誰彼構わず売るのがあいつの特徴だからな……!!」

「近道を案内するわ、急ぐわよ」


 エリク先導で、ウェイル達は先を急ぐ。





 ――●○●○●○――





「ラクサール、お止めなさい」

「え? ああ、ごめんよ、アルセット。君には少し残酷すぎたかな?」


 エリート集団『ネクスト』の一人、茶髪のポニーテールをした男局員ラクサールは、掴んでいた囚人の胸ぐらを突き放した。

 その囚人の顔は、見るも無残にも腫れ上がっており、意識はすでにない。


「やりすぎよ」

「いいんだよ。彼はここに収監される前は、もっと卑劣な犯罪をしていたんだから。これくらいの罰は当然だ。ここは懲罰門だ」

「……上に知られたら面倒ごとになるわ」

「上に知られる? 大丈夫だよ。部下達は絶対に喋らないからね、そうだよね?」


 ラクサールは、ちらりと背後の部下達を一瞥。


「「「…………」」」


 皆無言で、目を背けている。


「ほら、みんな喋る気はないってさ。後は君達が喋らなければ問題ないよね」

「それは脅しですか? 貴方の部下とは違い、同じ『ネクスト』である我々には脅しは通用しませんよ」


 憮然とした態度で臨むアルセット。

 ピリピリとした空気が、この場を支配していく。


「まあまあ、二人とも! その辺にしておこうぜ!」


 そんな空気の中、二人に割って入ったのはネイカム。 

 『ネクスト』の一人で、二人とは違い爽やかスポーツ系の男である。


「どのみち俺達は皆、将来十六人会議に入るんだからさ! 今回はその順番を決めるだけと、そう思ったらいいじゃねーか。それよりも任務に集中しようぜ」

「ですがネイカム、ラクサールのやり方は人道に反します!」

「それも含めて、後で議論すればいいさ。今はテロリストの確保が先だ。――そうだろ? 英雄のステイリィ殿?」

「ふぇええ!? 私!?」


 実は今のやりとりを、こっそりと後ろで見ていたステイリィとその部下達。

 突然名前を呼ばれたので、素っ頓狂な声を上げてしまった。


「ステイリィ殿も、テロリストの確保が先だと思うだろ?」

「え、えっと、……ハイソウデスネ」


 別にどうでもいいなんて言っていい空気ではない。


「ほらほら、英雄殿もそう言っているんだし、ここで仲間割れは止そうぜ。ラクサール、お前も余計なことはしなくていいからさ!」

「余計なことではないよ。敵の情報を聞いていただけだから」

「もう少し穏便に出来ないのですか、全く……!!」

「ま、全部後回しと言うことで! ステイリィ殿も今のやりとりは見なかったことにしてくれ!」


 ラクサールが、鋭い視線でステイリィを睨んでくる。

 話したら殺すと言わんばかりの視線だった。


「上官、私はあのラクサールという男が許せません……!! 本部へ報告した方がよいと思います!!」


 ――ステイリィの部下達は、どうも正義感が溢れている。

 その気持ちはステイリィも応援したいし、筋が通っていて自分好みだが、部下達の今後を考えれば支持はしがたい。


「いや、何も言わなくていい」

「しかし上官!!」

「私に考えがある。だから君達は黙っていてくれないか。君らの言わんとすること、君らの熱い気持ちは理解している。私だって同じ気持ちだ。だが今はテロリストの確保を優先してはくれないか」

「上官……!!」


 ――ステイリィの部下達は、どうも涙が溢れている。

 妙に正義感のある連中ばかりが、ステイリィの部下になっている。

 こうした部下運が良いことも、自分の昇進に一役買っていることに、ステイリィは薄々感じていた。


 ……ちなみに。


(やべー、こんなこと言っちゃったけど、何も考えてねー!!)


 口だけは達者なステイリィであった。


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