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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
最終部 第十四章 司法都市ファランクシア編『ステイリィ英雄譚』
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それぞれのやるべきこと


「……ん? あの人影はフレス……ではないな」


 ステイリィの監獄へ連れ去られた後に、こちらへとやってくる一つの影。


「ビャクヤか」

「鑑定士さん!」


 雨に濡れるのもお構いなしに駆け足でやってきたのは、ステイリィの秘書であるビャクヤ。

 到着するや否や、少し呼吸を整えた後、訊ねてきた。


「ステイリィ上官はいずこへ!?」

「たった今、監獄へ入っていったぞ」

「……入っていった? ()()()()()()()の間違いでは?」

「正解。その通りだよ。部下に担がれて連れていかれた」


 流石は秘書。主のことをよく理解していなさる。

 とはいえ、呆れながらも彼女の目は心配の色が濃い。


「……鑑定士さんは、この事件を起こしたテロリストのこと、知っているんですよね?」

「ああ。知っている。そいつらしか考えられない」

「何者なんです? 確か()()()って言っていましたけど、まさか……!」


 贋作士と聞けば、誰もが思い浮かぶのはあの集団。


「『不完全』ですか……!?」


 想像してしまったのか、ビャクヤの顔が青ざめる。


「まあ『不完全』の残党であることは確かだ。実際はもっと厄介な連中だ」

「『不完全』より厄介な連中!? 一体どんな連中なんですか!?」

「『不完全』を潰した張本人達だからな」

「ええ!? 『不完全』を潰した!? ななな……なんとぉっ!?」


 それは一般的には知らされていない、ウェイル達だけが知る情報。

 初めて知らされた思いがけない事実に、ビャクヤは絶句してしまった。


「おそらくこれは、治安局上層部すらも知らない情報だ」

「いいんですか!? そんな情報を教えていただいて!?」

「ああ、構わないよ。これから対峙するテロリストの情報だ。隠す必要はない。しかしな、問題はそこにある」

「どういうことです?」

「治安局上層部が、敵を過小評価することが問題なんだ。今回のテロ事件、おそらく治安局上層部は、どんなに見積もっても警戒レベルを対『不完全』程度に設定しているはずだ。だからこそ、派遣されている治安局員の数はこの程度。正直に言うと敵の脅威に対して全く足りない」


 英雄であるステイリィや、超エリート局員であるネクストを送り込む辺り、多少の本気度は伺えるが、敵の力量を知るウェイルからすれば、それだけでは到底足りる相手ではない。

 警戒クラスは、『超弩級戦艦スーパードレッドノートオライオン』と同等であると、ウェイルは見込んでいる。


「ステイリィ上官は大丈夫なんでしょうか!?」

「このままでは無事では済まないだろう。現状の戦力だけでは話にならない」

「そんな……!! ステイリィ上官……!!」


 ビャクヤは監獄の巨大な建屋を見上げる。

 見慣れていたはずの妖しくそびえたつ監獄が、今は彼女を押し潰さんと見下しているようだった。


「わ、私は一体どうすれば……!?」

「ここにいたらいい。君には君のやることがある」

「え……?」

「君はここで治安局員を配置して指示を送れ。おそらく監獄内は今、大混乱に陥っているはずだ。その騒ぎに乗じて脱獄を企てる囚人だって現れるだろう。君達は、そんな囚人達の脱獄を阻止し、ここで確保しろ」


 中にいる看守や治安局員達に、期待はしない方が良い。

 混乱の渦中で、事態を冷静に捉えて行動できる者が、どれほどいるだろう。ほぼいないと言っていい。

 何より相手は『異端児』なのだ。看守や治安局員の命も、無事かどうか定かではない。

 看守達が倒された後の大きな隙を、『更生門』はまだしも『懲罰門』にいる囚人達が見逃すはずもない。


「囚人達の脱獄は何としてでも阻止せねばならない。アレクアテナ大陸全体の治安維持に大きく影響を与えるし、治安局の沽券にも関わる。だからこそ、ここを死守する君の責任は非常に重い。どうか? やれるか?」

「……はい……!!」


 落ち着きを取り戻していたビャクヤは、冷静にウェイルの話を聞き、頷いた。


 そんなビャクヤの背後。雨音の中から足音が三つ。


「ステイリィのことは心配しなくていい。俺達がなんとかする。そうだよな、フレス」

「うん! ボクらがステさんを助けるよ! 絶対にね!」

「気に食わないバカ娘だけど、一応ライバルだからね」

「……フン、私には別にどうでもいいんだけど」


「皆さん……!?」


「やっと来たか。待ちくたびれたぞ」 


 雨に濡れし三人の娘――フレス、アムステリア、エリクが到着した。


「ごめんね、ちょっと遅くなっちゃった。テリアさんとエリクさんが喧嘩ばかりするから」

「いいさ。俺としても敵の目的について推理する時間が欲しかったからな」

「ま、答えは比較的簡単に出た。そうでしょ?」

「ああ。簡単だった。エリクも来たのか?」

「奴らを追うことに私も混ぜる。これが司法取引の条件の一つだったでしょ? 文句ある?」

「いや、ないさ。むしろ助かる」


 四人は、改めて監獄の前へ並び立つ。

 中に入れば、熾烈な戦闘が待ち構えているに違いない。

 でもウェイルとフレス、そしてアムステリアは、妙な高揚感を覚えていた。


「敵は五人。目撃情報からゴスロリ娘、エルフ、そして金髪の少女がいるとのことだ」

「スメラギとルシカと、そしてティアね」

「奴らに仕返しするチャンスが、こうも早くに訪れるとはな」

「ええ、きっちり借りは返しましょう……!!」

「ボク、今度は負けないから……!!」


 ウェイルを先頭に歩みだし、皆がそれに続いていく。


「ウェイルさん!!」


 ビャクヤに呼び止められ、足を止めた。


「貴方の指示通りに行動します! 私は必ず、ここで囚人達を捕まえます! ですから! ……ステイリィ上官を、絶対に連れて帰って下さいね……!」


「ああ、任せとけ」


 縋るような目をするビャクヤにそう答えて、ウェイルは監獄の中へと入っていった。


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