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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
最終部 第十四章 司法都市ファランクシア編『ステイリィ英雄譚』
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似た者同士


「あれ? この音は……」

 

 イルアリルマの超越した聴覚は、確かにその音を捉えた。

 降り注ぐ雨によって、雑音に支配された夜の空の中にある、翼をはためかせる音。

 

「どうしたの? リル。早く寝た方が良いわよ」

「アムステリアさん、外から妙な音が聞こえます」

「……どんな音?」

「えっと、これは多分、フレスさんが飛んでいる音ですね」

「フレスが飛んでいる音? この雨の中、一体どうして?」

「そこまではちょっと判りませんけど……」

「さて、どこかしら」


 アムステリアが外を確認するために、窓を開けた――その瞬間である。


「――うわああああああ!! 誰か受け止めてえええええ!!」

「え? フレスの叫び声? ……って、ええええーー!?」


 夜の空の彼方から、猛スピードで突っ込んでくるフレスがいた。


「――ぐふっ!?」

「ア、アムステリアさん!?」


 完全に油断していたアムステリアの鳩尾に、フレスの石頭がクリーンヒット。

 無敵を誇るアムステリアだが、決してノーダメージなわけではない。

 流石に堪え切れなかったのか、顔を真っ青にして崩れ落ちていた。


「た、助かったぁ~。危うく壁に激突するところだったよ~。……ん?」


 無事部屋まで飛んでこれたフレスが安堵したのも束の間、足元を見た瞬間、その顔は蒼白となった。


「て、テリアさん!? しっかりして!?」

「ゆ、油断したわ……!! まさかこの私を殺そうと企んでいたなんてね……!! 貴方、なかなかやるじゃない……!! ……ぐふっ……!!」

「ご、ごめんなさい! ボク、急いでて!」

「急いでいたら人を殺してもいいということね……。おまけに雨でびしゃびしゃに濡れているから私のドレスもぐちゃぐちゃだわ……!!」

「あわわわわわ……!!」

「覚悟はいいわね?」

「ひぃいいいいいいいい!? ご、ごめんなさああああああああああい!!」


 凶暴な殺意のオーラに、事の重大さを忘れてフレスは涙目になりながら土下座していた。


「……全く、私が普通の身体なら死んでいたわよ?」

「あら、残念。そのままくたばってくれたら良かったのに」

「エリク、アンタ寝ていたんじゃないの……!?」


 いつの間にかエリクはベッドから起き上がっており、含み笑いを浮かべてアムステリアを挑発してきた。


「これだけ騒がしいのに、ゆっくり眠れるわけないじゃない。それよりも龍の娘。一体何があったの?」

「ちょっと、何勝手に話を進めてるのよ」


 エリクが会話を主導しようとしていることに憤慨しているアムステリアを、イルアリルマが「まあまあ」と苦笑しながら宥めている。

 フレスは事の重大さを思い出して、ガバッと土下座していた頭を上げた。


「た、大変なんだよ! 大監獄が『異端児(イレギュラー)』に襲われたんだって!!」


「「「……は?」」」


 あまりにも突拍子もない話に、皆一旦間を置いて。


「『異端児』が現れたの!? コキュートスに!? どうして!?」

「判らないよ!! 今治安局が鎮圧に向かってるの!」

「ウェイルさんはどうしたんですか!?」

「ウェイルは先に監獄へ行ったんだ! テリアさん達にもすぐ来て欲しいって!」

「判ったわ! もう、どうしてそれを先に言わないのよ!」

「だってテリアさん、めちゃくちゃ怒ってたじゃない!」

「そりゃ怒るわよ! 死にかけたのよ!?」

「テリアさんって、死ねないんでしょ!?」

「気分の問題よ!!」

「お二人とも、言い争いは後にしましょう。すぐに対策を練らないと!」

「対策だって後でいいよ! すぐに行かないとウェイルが!」

「大丈夫です。ウェイルさんは一人で危険な行動はとらないでしょう。でないとアムステリアさんを呼ぶ理由はありません」


 動揺しているフレスに対し、イルアリルマはゆっくりと穏やかな口調で語り、落ち着くようにと肩に手を置いた。


「いいですか? 敵の情報と居場所は判っています。なので今知るべきは敵の目的です。それさえ掴めれば対策は簡単です。ウェイルさんだって、今頃それを考えているはず」

「そ、それはそうだと思うけど……」

「『異端児』が狙うものか……。仲間の解放が目的かしら?」


 アムステリアはチラリとエリクの方を見たが、その視線に対してエリクは鼻で笑って返した。


「私を助けるために? そんなわけないでしょう? もしそうならもっと早く助けに来たはず。それに私は『不完全』の残党。命を狙うことはあっても助けることは考えられない」

「だとしたら、何が目的なんだろう……」

「簡単でしょ。あそこに封印されている神器が欲しいのよ。それしかないわ」

「神器!? ……そうか、ウェイルもそんなこと言ってたよ」


 大監獄『コキュートス』には、強大な魔力を持つ神器が封印されていると。


「『封印門』を狙うつもりなんでしょうね……! あそこが突破されるとなると……相当まずいことになるわね……!!」

「凄まじい魔力を持つ神器が、たくさん置いてあるんだよね! 奴らがそれを手に入れたら、ますます手に負えなくなるよ!」


 すでに『三種の神器』の内、一つを手に入れた連中だ。

 それだけでも手に負えないレベルであるのに、コキュートス内に封印された神器を奪われたとなれば、今以上の脅威になる。それこそ大陸全土を揺るがしかねないほどの。


「私も連れて行きなさい」

「エリクさん!? なんで!? 危ないよ!?」

「危ない、か。まさかアンタに命の心配をされるとは、笑い話ね」

「むぅ、ボクは本気で心配してるのに!」

「その心配は必要ないって言っているの。どのみち私の命はウェイルに握られている。それに監獄内の事は私が一番詳しいわよ。誰かさんのおかげで、結構長い間、監獄で暮らしていたんだから……!」


 エリクはそう皮肉ったが、その目に憎しみの色はない。

 彼女は純粋に手助けするために申し出てくれている。

 司法取引内に、監獄内の案内なんて含まれていないからだ。

 エリクの親切を無下にすることもない。アムステリアもイルアリルマも頷いていた。 


「判ったよ。エリクさん、一緒に行こう。テリアさんもお願い」

「ええ。すぐに準備するわ」

「急ぎましょう。ね、テリア?」

「エリク、アンタにその呼び方をされると虫唾が走るから止めて」

「ふん、呼び名の一つ一つで気分が左右されるなんて、見かけによらず繊細なのね?」

「繊細さで言えば、組織の制裁に怯える小さい肝しか持っていないアンタには負けるわ」


 似たようなタイプの二人同士、ウマが合わないのか視線でバチバチ睨み合っていた。


「あ、あの、お二人とも、目で喧嘩してるとこ悪いんだけど、そろそろ終わりにしてくれないかな? 急ぎたいんだけど」

「ふん、もう準備は終わったわよ」

「こっちもね」


 ポニーテールを結び直すアムステリアと、クイッと眼鏡の位置を調整するエリク。

 互いに悪態をつきながらも、各々準備だけは終えていたようだ。


「私はここで留守を預かります。皆さん、どうかご無事で」

「うん! じゃあ、ボクは先に飛んでいくから――――……え?」


 何故かフレスの身体に、アムステリアとエリクが掴まってくる。


「な、何をしてるの二人とも……? 早く行かないとウェイルが困っちゃうよ?」

「だからこれが一番早い方法なのよ。空飛ぶアンタに掴まって行く方が、走るより圧倒的に早いわ?」

「ちょっとテリアさん!?」

「そういうこと。龍の娘、早く翼を出しなさい。急ぐわよ」

「エリクさんまで!?」


 そんなわけで、フレスはよく似た性格の二人を両手で抱えながら、雨の降る空を飛ぶ羽目になった。


「お、重い……」


「「誰が重いって……?」」


「ひ、ひぃ!?」


 ――アムステリアとエリク。


 境遇から性格まで、実によく似た二人であった。


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