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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
最終部 第十四章 司法都市ファランクシア編『ステイリィ英雄譚』
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皆が皆、好きで出世しているわけではない。

 アレクアテナ大陸で最も警備の厳しい場所の一つである大監獄コキュートスを、わずか五人で強襲した危険極まりないトチ狂ったテロリストの正体。

 その正体を、ウェイル達は知っている。


「間違いなく『異端児(イレギュラー)』の連中だ……!」


 運河都市ラインレピアに、壊滅的な被害を与えた少数精鋭の犯罪者集団。

 そんな連中がファランクシアに現れ、そして大監獄を荒らし、混乱させている。

 『異端児』が関わっていると判った以上、ウェイル達に放置するという選択肢はない。


「ウェイル、どうするの!?」

「どうもこうも、奴らに関する情報は何をしてでも手に入れなければならない。行くしかないだろうな」

「だね。カラーコインも取り返さないといけないからね!」

「あ、あのー、ウェイルさん? ひょーっとして、犯人を知っているのですか?」


 ウェイルとフレスの間に、「ちょっと失礼」とばかりに小さく手を上げ、おずおずと入ってきたステイリィ。

 嫌な予感が当たり、冷や汗をかくウェイル達二人に対し、何故か何も知らぬはずのステイリィも冷や汗をかいている。


「……もしかして犯人に心当たりがお有りで?」

「ああ。俺達は今回のテロ事件の犯人を知っている」

「あ、あー、やっぱそうですよねー。いやー、たはははは……」


 ステイリィの乾いた笑い声。なんだか様子がおかしい。見ると視線が定まっていない。


「ステイリィ? どうしたんだ?」

「えっと、えー、なんでもないですー」


 不自然な笑顔と態度。

 これは何か妙な事を考えているに違いない。


「ステイリィ、俺達はこれから大監獄へ突入する」

「な、なーに言ってるんですかー、入れるわけないでしょー?」

「犯人は贋作士だ。贋作士の相手は俺達の領分だからな。プロ鑑定士権限を使う。監獄職員らへの連絡を頼みたい」

「や、止めておいた方がいいですよ! 危険ですから! ほら、外も土砂降りですし」

「誰が行っても危険だし、雨は関係ないだろう。俺達は敵の持つ神器をある程度把握している。俺達の方が下手な治安局員よりも戦力になるし、それを行使する権限も持っている。心配するな、治安局に迷惑は掛けない」

「いや、そういう問題ではなくてですね……」


 妙に歯切れの悪いステイリィに、ウェイルも業を煮やして、彼女の手をグッと握り、顔を近づけた。


「頼む、ステイリィ」

「――ひゃん!?」

「お前に迷惑は掛けない。頼む」

「うぇうぇうぇウェイルさん!? 顔近い!?」

「俺達は何が何でも今回のテロリストから情報を手に入れなければならないんだ。どうか俺に協力してくれないか?」

「ふぁ、ふぁい!?」


 真剣な表情のウェイルの顔が、目の前にドアップで迫っているのだ。

 これではウェイルLOVEなステイリィは、首を縦に振らざるを得ない。


「ありがとう、ステイリィ。フレス、俺は一足先に監獄へ向かう。お前は飛んでアムステリア達を呼びに行ってくれないか? 監獄入り口で待ち合わせだ」

「がってん、師匠! 任せておいて!」


 用事は済んだとばかりに、嵐のようにウェイル達は治安局支部から去って行った。


「きゅ~ん……」

「上官って、結構純情なんですねぇ……」


 残されたステイリィはというと、ウェイルの顔ドアップのせいで思考が異世界へとトリップしていた。

 その様子をずっと窺っていたビャクヤが嘆息を一つ。


「やっぱりあの人は天然ジゴロですね……」


 本日三回目は、ウェイルの知らないところで言われていたのであった。





 ――●○●○●○――





「――はっ!? 幸せすぎて死ぬところだった……!!」

「ようやくお目覚めですか。異世界トリップしてから丁度10分ですね」

「10分も!? それでウェイルさん達は!?」

「もう監獄へ行っちゃいましたよ」

「なんですと!?」

「上官、どうしてさっきはあんなに変な態度を? いや、いつも変ですけど、今回はいつもの数倍は変でした」

「そりゃ変な態度にもなるってば! だってあのウェイルさん達だよ!?」

「はぁ、それが?」

「判らないのか!? 秘書の癖に!?」

「世界中どこを探したって、上官の思考が判る人はいませんよ」

「あのな、ウェイルさんが事件の対応をするってことはだな。……つまり事件を解決してしまうということだ……!!」

「……それが上官にどういう影響が?」

「まだ判らんか、このおバカさんが! 出世してしまうんだよ! ウェイルさんの近くにいると、何故か手柄が私の手の上に転がってくるんだから!!」

「……ああー、なるほどー」


 これでもかというほど、納得してしまったビャクヤである。


「うわあああああ、ダメだあああああ、お終いだあああああ!! また出世してしまうううううう!!」

「最低な叫びですよ、それ。ネクストの人達が聞いたら、上官は殺されちゃいますよ?」

 

 ステイリィが今の地位についているのも、元はといえば全てウェイルのおかげ(もといウェイルのせい)なのであった。

 ステイリィは、その野性的な直感で、ひしひしと感じていた。

 このままでは確実に、自分はさらなる出世を遂げてしまうことになると。


「――逃げよう」


「――は?」


「だから逃げるんだよ! ウェイルさんの手柄が私のところへ転がってこないほど遠い場所ヘな!」

「何またおバカなこと言っているんですか? 今は一大事なんですよ? 上官は英雄扱いされているんですから、どのみち駆り出されますって」

「いーや、逃げる! 今すぐ逃げる! すぐさまソクソマハーツへ帰る!! 帰るったら帰る!!」

「子供ですか……」


 ビャクヤが呆れて、そう呟いた瞬間である。

 バタンと扉が力強く開かれ、屈強な男性局員達がズラズラと入ってきた。


「「「「ステイリィ上官、お迎えに参りました!!」」」


「うげ!? もう来た!?」


 屈強な男達の中から、もっとも筋肉質で爽やかな男性局員が、大声を張り上げた。


「我々は本部より、ステイリィ上官の補佐をせよと命令を受けて参りました!! 英雄である上官の下で働けることを光栄に思っております!!」


「あ、ああ……ビャクヤぁ……、助けてぇ……!!」

「もう諦めて出世したらどうですか?」


「本部よりの通達です! ステイリィ上官は、すぐさま大監獄コキュートスへ向かい、事態の収拾に努めるようにとのことです! これは最高責任者レイリゴア氏直々の命令にございます!! 我々は上官の身の安全を、命に代えてもお守りいたします!! 早速行きましょう!!」


「い、嫌だ、行きたくない――――うわっ!? な、何をする!?」


 ひょいっと、マッチョな男性局員に担ぎ上げられたステイリィは、ジタバタ抵抗するも虚しく、そのまま馬車に乗せられた。


「ステイリィ上官! 聞きましたよ、あのネクストの連中と、出世を掛けて争っていると!! 正直な気持ちを申し上げますと、我々は皆ステイリィ上官を応援しております!! あのネクストの連中のことは、どうにも好きにはなれません!! 是非我らの代表にはステイリィ上官になっていただきたく思っております! その為には我々、何だってする所存です!!」


「何もしなくていいってば!! 私は出世する気はこれっぽっちも無いの!!」


「な、なんと慎み深いお言葉……!! 嫌味ばかり言うネクストの連中に爪の垢を煎じて飲ませたいほど、ステイリィ上官は謙虚なお方なのですね!! 我々、ますます上官のために働きたくなりました!!」


「どうしてそういう風に解釈するの!? ――って、うわああああああ――」


 馬車は出発し、すぐにステイリィの姿は、その叫び声と一緒に消えていった。

 今の一連の状況を、白けた目で見ていたビャクヤ達はというと。


「……上官、行っちゃいましたね……」

「ビャクヤさんはどうされます?」

「一応追いかけます。皆さんはここで待機していてください。私は鑑定士さん達と合流します。鑑定士さん達と一緒にいると、手柄が転がってくるそうですから」

「……相変わらず真っ黒なお腹ですね」

「むしろ真っ白な上官があの地位にいることがおかしいんです」


 ということで、一足遅れてビャクヤも監獄へと向かうことにしたのだった。


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