やっと、気づけたよ。
「そんなことがあったんだ」
「あの時は私も若かったのさ! 毎日むちゃくちゃしてたしなぁ」
「今も殆ど同じなんじゃないの……?」
任務中にウェイルに命を救われたエピソードを、ステイリィは懐かしげに語ってくれた。
フレスにとって、昔のウェイルの話は貴重だ。
ウェイルはあまり過去を話したがらないからだ。
薄々感じていたことではあるが、フレスがこれまで共に過ごしてきたウェイルの印象と、ステイリィやアムステリア達から聞く昔のウェイルの印象は、大きく異なっている。
フレスにとってのウェイルは、クールではあるが優しい性格だと思っている。
でもアムステリアやステイリィ、ヤンクやルーク、そしてテメレイアの話では、昔のウェイルはもっとトゲトゲしていたように思えた。
その点についてステイリィに尋ねてみたところ、何故か彼女はふてくされてしまった。
「へん、誰のせいでウェイルさんが変わったと思ってんだ……!」
「誰のせい……? ……あれ? もしかしてボクのせいなの?」
「……ち、違うわい!」
「図星なんだね……」
「そうだよ! フレスがウェイルさんの弟子になってから、ウェイルさんは少し変わっちゃったの! 昔のウェイルさんはとってもトゲトゲしてて、無愛想で、冷たくて、それはもう極寒だった! 私がどんなに近づいても逃げられて、しがみつけば吹っ飛ばされて、心臓まで凍り付いているんじゃないかと疑うくらいに最高だった!」
「……ステさんて変な趣味あるんだね……」
むしろそこまでされても、諦めずアタックを続ける彼女の根性の方が恐ろしい。
「それが今や変に優しくなっちゃってさ。なんて言うかこう、昔みたいな冷たさは消えちゃったよ。うん、冬が終わり春が来たみたいに暖かくなった。……さらに好きになっちゃったよ」
「……………………」
ステイリィはウェイルに好意を抱いている。
そのことは百も千も承知だったが、実際に彼女の口から「好き」という単語が出てくると、フレスの心臓はドキリと跳ねた。
「ねぇ、フレス? 私にそんな事を聞いた理由ってさ。本当のところは違うんだよね?」
「……え?」
「まあ大筋は合っているだろうけどさー。……逆にどうして私がフレスにこの話をしたか、判る?」
「え、えーと、……わかんない」
「だろうね。うん、でもいいよ。教えてあげる」
ステイリィは、ググイとフレスに顔を近づける。
後数センチでキスしてしまいそうなほどの距離で、ステイリィは呟いた。
「――君の目が、決心した目だったから」
「決心……!!」
バクバクと鳴り響いていた心臓が、さらに強く鼓動していく。
「自分の気持ちに気づいた。そうでしょ?」
ボクの気持ち。
うん。気づいたよ。
ボクは気づくことが出来た。
ウェイルに対する、ボクの気持ちを。
テリアさんやレイアさん。そしてステさんを見ていって。
フレスベルグに気づかされた、ボクの気持ちを。
「ウェイルさんのこと、何でも知りたいって思ったんだよね。その気持ち判るよ。私だって全部知りたいんだからさ」
ススっと身を引いて、ステイリィは立ち上がる。
「うっしゃああ! 今日から貴様は、我がライバル! 敵じゃあ! ウェイルさんを賭けて勝負といこうじゃないか!」
「勝負……!?」
ウェイルを賭けた勝負。
……うん、そうだね。望むところだよ!
すでにテリアさんとは勝負を開始したし、レイアさんだって、そう思ってる。
「勝負だよ、ステさん!」
「敵は私だけじゃないけどな! 全く、手強い相手ばかりだぜ! ナハハハハハ!」
「にゃははははははは!!」
腰に手を当て高笑いするステイリィに、フレスもつられて笑ってしまっていた。
(やれやれ、私がいること、すっかり忘れられていますね……)
二人のラブコメ展開についていけなかったビャクヤは、柱の陰に隠れて大きく嘆息したのだった。
「お待たせ。師匠に電信を送っておいた。ついでにテメレイアにもな」
数分後、電信を打ち終えたウェイルが帰ってくる。
「あ、ウェイル、お帰りー」
「お帰りなさい、ダーリン!」
「誰がダーリンだ、誰が。……あれ?」
――妙だ。
いつものステイリィの冗談(と信じたい)は置いておいて、その冗談に毎回反応していたフレスが、今回は何故かニコニコと受け流している。
それになんだか二人の仲が近い。
これほど仲が良かったという記憶は皆無であるのに。
「そうだ、ステイリィさん、今度テリアさんやレイアさんと集まって、一度じっくりお話してみない?」
「そだね。そろそろ誰が正妻にふさわしいか、はっきりさせたいところだし!」
「へへん、負けないもんね!」
「こっちこそ!」
「……なんで急に仲良くなってんだ……?」
さっきまでいがみ合っていた二人が、どうしてか今は肩を組むまで仲良くなっている。
「一体何があったんだ……」
妙だ。妙すぎる。
変に仲の良い二人を、半ば唖然とした顔で見ているウェイルの元へ、そそくさとビャクヤが近寄った。
そして耳元で一言。
「――天然ジゴロ」
「また!?」
そのセリフ、本日二回目であった。




