表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
最終部 第十四章 司法都市ファランクシア編『ステイリィ英雄譚』
650/763

十六人会議


 ――治安局本部 重役会議室にて――


「――では、満場一致ということでよろしいかな?」


 そのレイリゴアの一言は、ステイリィの運命を大きく変える宣言であった。

 なのにも関わらず、ステイリィはその言葉をただ呆然と――例えではなく本当にポカンと口を開けて――半ば放心状態で聞いていた。

 それくらい、今の今まで目前で繰り広げられていた会議が衝撃的な内容であったからだ。


 聞く者が聞けば羨むところだが、ステイリィからすればただただ迷惑。

 いや、迷惑を通り越して不幸だともいえる内容である。


「それではステイリィ・ルーガル支部長を――『十六人会議』のメンバー候補に加えることとする!!」


 レイリゴアの荘厳な一言によって、周囲から賛成の拍手が起こる。

 しかしよくよく観察すれば、その拍手はバラバラで、手を叩く者達の表情も険しい。

 およそ大半の者が、最高責任者のレイリゴアの顔を立てる為だけに賛同を示しているだけで、恨めしそうにステイリィを睨みつけていた。

 そんな嬉しくもなんともない拍手を送られているステイリィを後ろから見ていた部下達は、皆苦笑を浮かべながら「おめでとうございます」と、苦し紛れの祝いの言葉を送っていた。

 部下達はステイリィの希望を知っているので素直には喜べないし、逆に他支部の局員からはギロリと鋭い視線と激しい嫉妬に突き刺されており、実に肩身が狭い。

 彼らも被害者の一人と言えよう。


 ――勿論、当の本人が一番の被害者である。


 幹部連中からは、口々に「おめでとう」と祝われ、握手を求められた。

 他の局員からは、口々に「手柄泥棒が」と呪われ、部下達からは災難ですねと肩を叩かれた。


 この瞬間も、ステイリィ・ルーガルの意識は、ここにはない。


 あまりにも唐突に、そして不幸にも大出世の機会が巡ってきたことに、彼女の精神は現実逃避に走っていたのである。


(あはは~~、もうどうでもいいや~~)


 暖かい日差しが眩しい、どこまでも広がるカラフルなお花畑の中で、お手製のウェイルぬいぐるみを抱きしめながらゴロゴロするという、至福の妄想世界へと旅立っている。


「上官! ステイリィ上官!! しっかりしてください! お気を確かに!!」

「うへへ~、ウェイルさん~~!」

「仕方ないですね……えいっ!」

「――ハッ!?」


 部下のチョップで、ようやく意識を取り戻す。

 楽しい妄想の世界から、無駄に出世してしまった現実の世界へ帰ってきたステイリィの瞳には、涙まで浮かんでいる。


「……ううう……どうして……」


 この場に集う多くのお偉いさん方は、ステイリィの涙は出世したことの感激からくるものだと都合よく勘違いしているようで、妙に笑顔が暖かい。


 ――しかし、実際はそうではない。心の底から出世を嫌がっているだけである。


 出世の大チャンスを掴んだというのに悲しむステイリィの姿に、部下達はただただ呆れ顔。


(どうしてこんなことに……)


 一体全体、どうしてこのような事になったのかと言うと、話は三十分程前に遡る。





 ――●○●○●○――





「本日の議題は、この十六人会議に関することだ」


 此度招集された会議の議長を務めるのはこの男、治安局最高責任者であるレイリゴアであった。

 司法都市ファランクシアの治安局本部内に新たに設置された、非常に先進的なデザインを為す会議室にて、その会議は始まった。

 ちなみにこの会議室は元々、クルパーカー戦争にてイレイズとレイリゴアがフロリアに襲撃を受けたあの場所である。

 木っ端微塵に破壊された会議室を再建して、今のような会議室になったのだ。


「議題には、本日お招きしたステイリィ氏にも大いに関係する事」


 突如として名前が挙げられて、一斉に視線が部屋の奥へ集まった。


「ふえっ!? わ、私!?」


 正直な話、この場にステイリィがいること自体が、あまりにも不自然な事である。

 何せこの会議は、最初にレイリゴアが言ったとおり『十六人会議』なのである。


 十六人会議とは、治安局の在籍する序列上位十六人の大幹部達によって催される会議であり、治安局内では事実上の最高決定機関なのである。


 大きな事件の度に招集がかかり、十六人の意見をまとめて判断し、事件を解決に導く。

 つまりこの場に集まっているレイリゴアを含めた十六人は、治安局内でとてつもなく巨大な権力を握っている。

 そんな大幹部達を前に、たかが一支部長のステイリィが立っているというのは、あまりにも不自然であると言わざるを得ないわけだ。

 無論そのことは、いくらステイリィとて理解している。

 まさか自分があの十六人会議に参加することになるだなんて、よもや夢にも思っていなかった。


(おい、私が出席するのって、最高責任会議じゃなかったのか!?)


 小さい声でステイリィが隣の部下に耳打ち。


(何言ってるんですか!? 最高責任会議ってのは十六人会議の事ですよ! 正式名称が『最高責任会議』というだけであって、皆通称である『十六人会議』って呼んでいるんです!!)


(そうなの!? 十六人会議と最高責任会議って同じものだったの!? 全然知らなかった!?)


(((アンタ本当に治安局員か!?)))


 思わず敬語すら忘れてしまった部下達から総ツッコミを受けながら、冷や汗を拭くステイリィ。


「どうしたのかね、ステイリィ氏」

「え!? いえ、なんもないです~……」


 自由奔放、自分勝手がモットーのステイリィではあるが、流石に最高責任者レイリゴアの前だけは大人しくシュンと黙っている。

 実際は呆気にとられているだけであるのだが。


「今日の議題の中心人物は彼女なのだ。彼女の英雄的活躍は、皆の耳にも入っていることだと思う。彼女なくして今の治安局はない。そう言い切れるほど、彼女の功績は大きいものとなった。そこでどうだろう。彼女をこの十六人会議に迎えてはいかがだろうか?」


「――へ? ……ふぇえええええええええええッ!? ……あ、ごめんなさい」


 思わず叫びでしまったが、それも無理はない話。

 

 ――十六人会議に迎えられる。

 それはつまり治安局内における最高権力を握ったも同然であるのだから。

 この突然の提案に、他の大幹部達から反対の声が上がった。


「レイリゴアさん、それは流石に事が性急すぎるでしょう。いくら何でも突然十六人会議に入れるなどと」

「そうです。それに彼女はまだ若い。若すぎる。そんな若輩者が会議に加われば、他の局員達にも示しがつきませぬ。如何様な影響が出るか分かりますまい」

「その通り。どうかお考え直し下され」


「――そうだそうだ!! ステイリィを昇進させるな! これ以上、無駄に偉くなるのは色々と面倒なんだ! 取り消せ!」


「……上官、心の声漏れていますし、それ、周りに聞かせたら殺されますよ」


「はっ!? つい!」


 反対する大幹部+ステイリィが、レイリゴアに意見を述べる。

 だが、それをレイリゴアは一蹴した。


「彼女の為した功績は、すでに勲章では両手の指では数え切れないほどの数だ。それにクルパーカー王家、ヴェクトルビア王家からの信頼も絶大。貴方方に、これほどの功績はありますかな?」

「……くっ、それは……」


(私、そんなに勲章持ってるの!? 知らなかった……)


 実の所ステイリィより勲章を持っている局員など、現代ではレイリゴア以外にはいないほどである。

 これもただ単にウェイルの後を追っかけていたところに偶然拾ってしまった勲章であるのだが。


「教会戦争の時、誰よりも早く現地に入り、部下を指揮して無事アルカディアル教会を止めたのも彼女の功績。彼女の功績の大多数は運も絡んでいるだろうが、それを生かせる実力がある。それは誰にも否定は出来まい」

「……確かにそうですが。しかし現場とここは違います」

「それが問題なのだ。我々の会議に現場の声は入りづらい。だからこそのステイリィ氏なのだ。現場の声を聞くには、当然現場にいた人間の声を聞くのが一番良い。彼女を選んだ一番の理由がそれだ」

「しかし、彼女は若い。若輩者の言うことなど聞ける者かと、現場から文句が出るのではないですか!?」

「それを言えば誰がやっても出るだろう。年齢だけでなく、勲章の数でもな。この場にいる皆よりも、現場にいる者の方が多く勲章を持つ者だっている。目の前のステイリィ氏がそうではないか。現場からの文句を収めたいのであれば尚更彼女は会議に参加すべきだ。年齢のことを持ち出す連中には年老いた我らの名前を出せば良いし、勲章の数を持ち出されたら彼女の名前を出せば良い。誰もが納得するだろう」

「……ぐ……!! た、確かにそうですが……!!」


(あ、あれ!? なんだか反対派が負けてる!?)


「今この会議には若い者の声が必要なのだ。先にラングルポートの時、我々は凝り固まった頭のせいで手痛い目に遭ったのを忘れたか。もっと早く厳戒令を敷いていれば、部下達の被害をもっと抑えられていたかも知れん。彼女の様に若く、柔軟な考えが今の治安局には必要なのだと思うのだ」


「「「…………」」」


(や、やばい……このままだと昇進しちゃう……、どうにかしないと……!!)


 とはいえ昇進を拒否というのも難しい。

 この場の空気は完全にレイリゴアの意見が支配している状況だ。誰も論破に動けない。


(誰か助けてくれーーーー!!)


 ステイリィがそう心で叫んだ時である。


「「「――その判断、どうかお待ち下さい!!」」」


 扉を開けて入ってきたのは、顔も知らない三人の治安局員であった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ