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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
最終部 第十四章 司法都市ファランクシア編『ステイリィ英雄譚』
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エリクとの司法取引


 交渉室に通されたウェイル達。


「我々は交渉室内にお供できない規則ですので、外で待機しております。何かあれば声を掛けてください」


 そう言って刑務官はエリクの手錠を外した後、一礼して部屋から出て行く。

 ここ交渉室では、交渉内容次第では重大な機密情報が交わされることもある。

 それ故に、刑務官とはいえ情報漏えい防止の観点から、交渉中室内に留まる事を許されていないのだ。

 また交渉中は、収監者の手錠は外される。

 これは「交渉とは全て対等な立場で行わねばならない」という原則から来ているものである。

 当然相手は凶悪犯罪者であり、しかも手錠まで外されているのだから、交渉は常に危険と隣り合わせではあるが、有益な情報を手に入れるためには、この程度のリスクを恐れるわけにはいかない。

 ヒリヒリとする緊張感が支配する空気の中、最初に口火を切ったのはエリクであった。


「アンタ達、一体何をしにきたの? わざわざこんな辛気臭いところまで来るなんて、鑑定士ってのは随分と暇なのね。そういえばいつもサグマールの爺さんも暇そうにしていたわね」


 いきなり机に肘をついて、退屈そうに――目には恨みの色が溢れているが――悪態をついてきたエリク。


「久しぶりだな、エリク。意外と元気そうでなによりだ」

「元気なわけないじゃない。アンタらに計画を邪魔されて任務に失敗したのだから。いつ『不完全』の本部が私を制裁しに来るか、毎日冷や冷やしているわよ」

「実はその事についても話があるんだ」

「はぁ?」


 「どういうこと?」と言わんばかりに、訝しげに睨んでくる。


「最初に言っておく。俺達はお前と司法取引をするつもりだ。案件が案件だけ、報酬はお前の残りの刑期全てを請け負おうと思っている」

「ハァ!? 刑期全て!? 私の刑期は、残り五十年以上あるのよ? アンタとち狂っているんじゃないの!?」

「正しくは五十三年、四ヶ月と十二日。当然承知の上だ」

「やけに気前がいいわね。私を捕まえたのはアンタの癖に」

「自分でも驚いているよ。一度は命を狙われた相手なのにな」

「そう。これはとてもありがたい話なんでしょうね。でも、お断りするわ。私は交渉なんて一切行わない。特にアンタ達とは、絶対にね」


 ガタンと音を立てて、エリクが席を立つ。


「帰って。もう話は終わりよ。さようなら」

「あら、つれないわね」


 交渉室の扉前で、腕を組んで立っていたアムステリアが、横切ろうとするエリクに絡んでいく。

 アムステリアを見るエリクの目は、ウェイルを睨んでいた時とは違う、侮蔑する目であった。


「話しかけないで。アンタの顔を見ると虫唾が走るの。この裏切り者」

「裏切り者? う~ん、確かに今の貴方からすれば裏切り者になるのかな?」

「組織を勝手に脱退して逃げ出したんでしょ? 裏切り者と呼ばずして何と呼べばいいの?」

「別にいいじゃない? 裏切りくらい。それに、私には貴方の組織への忠誠心が理解出来ないわ。任務に失敗し、後は処分を待っているだけの状態の癖して、どうして組織を裏切れないのかしら」

「…………ッ!!」


 アムステリアの指摘は、エリクの思想の矛盾を突いていた。

 彼女は今でも組織に忠誠を誓っている。

 それなのにも関わらず、日々組織からの制裁に怯えている。


「そこを退きなさい! もう話すことは何もないわ!」

 

 エリク自身もそれに気づいているのか、その葛藤から語尾がさらに強くなる。


「退かないわ。だって私は貴方を救ってあげたいから」

「私を救う? どうやって!? 組織の制裁から逃げられるとでも言うの!?」

「ええ、その通りだけど?」

「……はぁ?」


 アムステリアがケロっと簡単に言うものだから、エリクは肩すかしを食らったような顔を浮かべた。

 その表情がやけに面白かったのか、アムステリアはクスクスと笑っている。


「貴方、やっぱり制裁が怖いのね」

「当たり前でしょう! ここを出たら、組織は迷わず私に制裁を加えに来るわ!」

「ねぇ、ウェイル。もう教えてあげましょうよ。彼女を組織の呪縛から開放させてあげるべきだわ」

「ああ、そうだな」


 席から立ちあがり、ウェイルはエリクの方を向き、諭すように話し始めた。


「よく聞け、エリク。お前が『不完全』に制裁されることは、絶対にない。100%ないんだ」

「な、何を言ってるの、貴方!?」

「お前が『不完全』に殺される心配は絶対にないってことだよ」

「何故そう言い切れる!?」

「言い切れるさ。いいか? 落ち着いて聞いてくれ。何故なら贋作組織『不完全』は――――すでに壊滅しているからだ」

「――――え…………」


 ウェイルの言葉が信じられないのか、はたまたその言葉の意味すら、まだ理解できていないのか。

 どちらにせよ、絶句と呆然で、エリクの時間は凍り付いていた。


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