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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
最終部 第十四章 司法都市ファランクシア編『ステイリィ英雄譚』
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フレスにもオシャレを

「むううううううううううううううっ!!」

「実に予想通りの展開だ」


 ビャクヤのコネ(?)おかげで、予定よりも随分早く『大監獄ファランクス』への入場が可能となったわけであるが、やはりここでも入場時の身体検査が問題となった。

 おおよそ想像に容易い――もはやお約束になりつつあるが、案の定フレスはこの身体検査で、大変苦々しい思いをすることになる。


「どうして服に穴が開いてるだけで変な目で見られるの!?」

「そりゃ見られるだろ、普通」

 

 青いワンピースの背中側に、ごっそりと開いた、翼用の穴。

 誰が見たって破れた服を着ているのは不審に思う。


「ねぇ、ウェイル! 最近はボク、勝手に翼を出したりしないし、そろそろ普通の服を着てもいいんじゃないかと思うんだけど!!」

「駄目だ。万が一にも破れたら困るだろ。それを縫うのは俺なんだ」

「その時は新しい服を買うよ! ボクだってお給金もらってるんだから!」


 プロ鑑定士たるフレスの給料は、そんじゃそこらの人間の数十倍はある。

 今着ているワンピースなんて、それこそ腐るほど買える。


「恥ずかしいんだよぉ! 師匠は弟子が変態みたいに思われて悲しくないの!?」

「いいからそのままでいろ。これから先いつ『異端児』と対峙するか判らない。前みたいに突然戦闘が始まるかも知れない。その時、服が原因で空を飛べないということになったら困るだろう? 悲しいとか悲しくないとか、そういうレベルの状況じゃないんだ。判るだろ?」

「うう、そりゃそうだけどさぁ……、ウェイルぅ……」

「なら納得しろ」

「むぅううううう!!」


 納得はできないが、ウェイルの言い分も理解できるだけに、フレスの目には葛藤で涙すら浮かぶ。


(そりゃ可哀想だとは思うけどな……)


 ウェイルだって、フレスにはもっとオシャレを楽しんで欲しいと思っている。

 ここは芸術大陸アレクアテナ。

 天才デザイナーが創造し、天才パタンナーが仕上げた素晴らしい作品は、星の数ほどある。

 フレスだって黙っていれば美少女だし、着飾って欲しいと思うのは当然だ。

 無論、すぐに戦闘になる可能性のある現状、フレスの願いを叶えるのはリスクが大きいので、それを声に出して言うことは出来ない。


「うう、ボクだって、少しはオシャレしたいんだもん……」


「……ま、全てが終わったら、好きなドレスを買ってやるよ。……あっ」


「え……!?」


 ウェイルは声に出す気はさらさらなかったのだが、無意識に呟いてしまった。


「ウェイル、ホント!?」

「……ああ、買ってやるよ」


 呟きを聞かれてしまった以上仕方ない。

 おそらく今、自分の顔は真っ赤に染まっているはずだ。

 何せ頭では、とても可愛らしいドレスで着飾ったフレスの姿を思い浮かべてしまっていたのだから。


「やったああああ!! なら早いところ全部片付けないとね! さぁ、さっさとエリクさんに会いに行こう! ね、ウェイル!」


 すっかり機嫌を直したフレスは、世にも珍しい、スキップしながら監獄へと入っていくという、端から見れば奇妙極まりない事をやっていたのであった。


「――天然ジゴロ」


 監獄に入る際、ビャクヤの一言が、ウェイルに突き刺さったのだという。





 ――●○●○●○――





 入場許可を得たウェイル達一行は、案内・護衛・監視役として同行する刑務官と共に、目的の人物が収監されている牢の前までやってきていた。

 ウェイル達の此度の訪問は、ただの面会ではない。

 司法取引を行い、場合によっては身柄を引き取る可能性のあるものだ。

 故に普通の面会のようにガラス壁越しに話すのではなく、交渉は直接会って行う。

 無論危険も伴うが、そのための護衛役がついているわけであるし、元よりリスクは承知の上。


「こちらです」


 案内されたのは石造りの地下室。

 全体的に暗く、ちらちらと揺れるランプのみがこの場を照らしており、冷たい印象を受ける。

 牢一つ一つが比較的広いのだろうか。その分牢の数はあまり多くはない。

 牢獄らしく物々しい鉄格子が並ぶ廊下は、見ていて心地の良いものではなかった。


「287番。貴様に交渉申請が行われた。出て来い」

「…………」


 看守が個室牢の扉を開ける。

 中からは依然見た記憶とほとんど違わぬエリクが、物静かに出てきた。


「交渉はこれから案内いたします交渉室にて行います。交渉のルールは御存知ですかな?」

「ああ。大丈夫だ」

「…………」


 ちらりとエリクがこちらに顔を向けてきたので、不意に視線が合った。

 彼女の表情は堅いまま変わらず、刑務官の呼びかけにも全てに無言を突き通していた。


「どうぞ、付いてきてください」


 エリクと、彼女の手錠の鎖を握る刑務官に、一向は静かについていった。


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