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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
最終部 第十四章 司法都市ファランクシア編『ステイリィ英雄譚』
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ステイリィの提案

「もごもご……、く、くるしい……! けどウェイルさんに触られて嬉しい……!!」

「あのー、何故か本人喜んじゃってますが、そろそろ死んじゃいますよ?」


 ステイリィがバンバンとウェイルの腕をタップしてギプアップの意を示してきたので、放してやった。


「ほらよ」

「ぷはぁ、死ぬかと思った……。でももうちょっとあのままでもよ良かったかも……!」

「さてフレス、そろそろ行くか」

「判りましたよ! 普通に聞きますから!」

「さっさとそうしろ。俺達はな、裁判所と監獄に用があるんだよ」

「監獄に用? 知り合いが捕まっているんですか?」

「一応そういうことになるな。欲しい情報を手に入れたくて来た」

「司法取引に来ましたか。なるほど」


 簡単にだがステイリィにも事情を話してみる。


「なるほど。『不完全』の残党から情報を、ですか。う~む」


 話を聞いたステイリィは、少しだけ考え込むと、そして閃いたかのように顔を上げた。


「ならばビャクヤをお貸ししましょう」

「はい!? 私!?」


 唐突に名前が出てきたので驚くビャクヤ。

 無論、驚いているのはウェイルも同じ。


「どういうことだ?」

「ビャクヤはですね。治安局に入ってまだ日が浅いんですよ。で、その前はずっと裁判所に勤めていまして。そうだったよな、ビャクヤ」

「ええ。そうですけど」


 ビャクヤは英雄たるステイリィの秘書であるため、一見ベテラン治安局員にも見えるが、実際にはワガママで自由奔放なステイリィの秘書をやりたがる者は誰もいなかったため、トントン拍子に今の地位についているという背景がある。

 ほんの数ヶ月前まで、彼女は裁判所に勤めていたのである。


「司法取引を申し出る手続きって、結構面倒でしたよね。いくらプロ鑑定士でも、書類は簡略化されないはずです。ウェイルさんがわざわざ情報を得るためにこの都市へ来たってことは、よほどのことがあるんでしょうし、それに時間もないんですよね? だったら判所のことは何でもござれのビャクヤを利用してやって下さい」

「いいのか?」

「……ねぇ、ウェイル。今のって、ホントにステイリィさんの提案なの……?」

「どうもそうらしい」


 ステイリィが、凄まじく魅力的かつ、真面目な提案をしてきたものだから、思わず面を喰らってしまったウェイルとフレス。


「ビャクヤ、お前は今日ウェイルさんに付き添え。命令だ」

「いいのですか? 上官だって今日は大変な仕事があると言うのに」

「どうせ会議にお前の発言権はないだろう? 側にいるだけというのであれば、今回に限っては必要ない。私だけで十分だ。ウェイルさんを助けて差し上げろ」

「……了解しました」


 話はまとまったのか、ビャクヤがウェイルの元へとやってくる。


「上官命令を受けました。ウェイルさん、しばらくの間、よろしくお願いします」


 その顔はなんだか渋々といった様子ではあったが、ぺこりと知的な雰囲気には似合わない可愛らしい礼をしてくれたのだった。


「よし、者共! そろそろ会議の時間も近いし、本部へ参ろうではないか!」


 いいことをしたと満足げなしたり顔で、ステイリィが高々とそう宣言して店から出て行く。

 それに続いて彼女の部下達が、なんだか申し訳なさそうな顔をして出て行く姿が妙に笑いを誘う。


「あの娘、ウェイルにあまりちょっかいかけてこなかったわね……」

「何か狙ってるのか……?」

「ええ、ウェイルさんの言うとおり、あの顔は何か狙っていましたね」

「「「はぁ……」」」


 あれが治安局の英雄だと考えると、揃って嘆息をシンクロさせてしまう三人である。


「ステイリィさん、かっこいいです……!!」

「か、かっこ、いい……?」


 一人心をときめかせているイルアリルマに、信じられないものを見る目を送ったフレスであった。





 ――●○●○●○――





「……――決まった……!」

「……え? 何が決まったんです?」

「そりゃ見たろ? 私が颯爽とウェイルさんの手助けをする姿を!」


 意気揚々と背中でそう語るステイリィに、部下達は笑いを必死に耐えていた。


「いやあ、今の私かっこよかったなぁ! これはウェイルさん、もっと私に惚れたに違いない!」

「そ、そうですか……」


(ビャクヤさん、そんなことのために利用されて可哀想……)


 ビャクヤに対して同情するしかない部下達である。


「よし、会議いきますか! 一体何の話なんだか判らないけど!」


 ご機嫌でルンルン気分なステイリィ。

 無駄に英雄と持て囃される彼女を待ち受けていたのは、これまた想像を絶する無駄であった。


 ――その無駄な武勲は、幸か不幸か、次なる武勲を立てるために駆り出されるのであった。


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