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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
最終部 第十四章 司法都市ファランクシア編『ステイリィ英雄譚』
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暗黙の了解

「うわぁ、そこら中から美味しそうな匂いが漂ってくるよぉ!!」

「この都市の飲食街はレベルが高いからな」

「でも本当に色々な料理の店があるんですね。匂いだけでお腹いっぱいになりそうです」


 ファランクシア都市内には、多くの飲食店が連なっている。

 これにはいくつかの理由があるが、最も大きな理由はこの都市の住人は治安局、監獄、裁判所の関係者ばかりであるということだ。

 司法業務に、安息の時間はない。皆日夜業務に励んでいるのだ。昼食をとる余裕がない日さえある。

 それほどの多忙の中、自ら腕を奮って料理を嗜もうとする物好きな人間など、そうそういやしない。

 必然的に彼らの食生活は、時間と手間の関係上、外食ばかりとなっているのが実情である。

 仕事の疲れを癒すには、美味しい料理に舌鼓を打つに限る。

 そういう理由で、この都市には飲食店が多いのである。

 日々外食を繰り返す彼らの需要を幅広く満たすために、飲食店は様々な工夫を凝らしており、そのレパートリーの多さは大陸随一だ。

 ある意味グルメが多いのも、この都市の特徴にもなっているのかも知れない。

  

 そしてそんな外食産業の栄えた表通りを、目を輝かせて――もとい涎を垂らしながら、意気揚々を歩く四人組がいる。


「匂いが一杯で溺れ死んじゃいそう……!!」

「フレス、汚いから涎を拭け」

「ウェイル! どこの店に入るの!? ボクもうお腹空きすぎて死んじゃうよ!」

「お前が死ぬわけないだろうよ。何の比喩でもなくな」

「むむ、そうだけどさ! それくらいお腹が空いているって意味!」

「だからといってイチイチ店先まで匂いを嗅ぎに行くなよ……」


 指を咥え目を輝かせながら、店舗の先々で匂いを嗅ぎまくる我が弟子の姿に、思わず頭を抱えてしまう。


「あの、ウェイルさん、どこの店に行くんです?」


 後ろをついてくるイルアリルマも、そろそろ何処かへ落ち着きましょうと、ウェイルにそう尋ねてくる。


「もう少し行った所だ」

「目的地があるの?」

「ああ。あそこならフレスも満足だろうよ」

「ボクが満足できるお店!? それってもしかして――」

「――先に断っておくが、メニューに『クマ』はない」

「なななな、なんですとおおおおお!? どうして台詞がバレた!?」


 クマがないと聞いて顔面蒼白になるのは、大陸中探してもフレスくらいなものだろう。


「ワンパターンなんだよ、お前はさ」

「そんな~、そんなのじゃ、ボクが満足するわけないでしょ~!」

「いつも腹いっぱい満足するまで食ってるじゃないか……」


「くまくまくまくま~!!」と、駄々をこねるフレスの首根っこをひっ捕まえて、引きずりながら歩いていくと、ほどなくして目的の店へと辿り着いた。


「ここだ」 

「あらら、なるほど」


 店の看板を見上げるアムステリアも、意を察したのか頷いている。


「うう、ここ、どこなの……?」


 その意というものが分からぬフレスがキョトンと呟く。


「ここはな、ヤンクが出している店なんだよ」

「ヤンクさんが!?」

「正しく言えばデイルーラの系列店だ」


 なるほど、確かに看板にはデイルーラの文字がある。


「そっか! ここなら好きなだけ食べてもいいってことだね!? 代金は全部デイルーラ社が持ってくれるとか!」

「んなわけあるか。ここはな、色々と配慮してくれるんだよ。秘密裏の話をしたい時には持ってこいだ」


 ウェイル達の持ち得る情報から交わされる情報は、何かと危険度が高い。

 この店ならば他の客には聞こえぬよう、配慮してくれるはずだ。


「ねーねー、もうお話はいいから入ろうよぉ! もうお腹空きすぎて死んじゃうよぉ!!」


 フレスが再び駄々をこねかねない状況であるので、さっさと店内に入ってしまうことにした。


「いらっしゃいませ、本日はどのようなご用件で?」

「ちょっと()()でな」

「分かりました。お部屋へ案内いたします」


 受付にてウェイルがそう告げただけで、店主の表情一つ変えずに、ウェイル達を店の奥にある扉へと案内した。


「ごゆるりと」


 店の奥の、少しだけ手様な部屋に残された四人。


「ねーねー、今のやりとりって、何かの暗号なの?」

「暗号ではないが、まあそれに近いな。暗黙の了解って奴だ」

「あんもくのりょーかい?」

「鑑定士がこういう店舗を利用する時に()()が目的と言えば、大抵聞かれてはまずい話をするから部屋を用意してという、一種の習わしみたいな意味があるわけ。といっても、これが通用するのはマリアステルにある店舗と、デイルーラ系列の店舗だけだけど」

「へぇ……、変なルールがあるんだねぇ」

「私も初めて知りましたよ」

「まあルーキーなら仕方ないうよ。覚えておきなさい」

「うん! ギルにも教えてあげよーっと!」


 合格したてのプロ鑑定士が、こういう場所を使うのは珍しいことなので、知らないのも無理はない。これから徐々に慣れていけばいい。


「さて、せっかくここまで来たんだ。それ相応の話をしようじゃないか」

「やだ! 先にご飯!」


 グ~っと、フレスの腹の虫まで文句を垂れて来るし、さらに。


 ――グ~~。


「……あら、ウェイルに聞かれちゃったわ。恥ずかしい……」


「…………えへへ、私もお腹空いちゃってるみたいです……」


 腹の虫の大合唱が始まる前に、腹ごしらえをするべきだろう。


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