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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
第一部 第二章 競売都市マリアステル編 『贋作士と違法品』
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下手なお芝居

「なっ……!? 何を言ってるの!? ウェイル!!」


 フレスは、信じられないといった表情をウェイルに向けた。

 フレスの気持ちは理解できるし、その反応は当然かも知れない。

 だがウェイルは鑑定士なのだ。己の使命を忘れたわけではない。


「お前達二人を拘束すること。それが今の俺達が成すべき仕事だ」

「ウェイル!? 馬鹿なこと言わないでよ!!」

「贋作士を逮捕する。これが鑑定士の仕事だ。最初に言っただろう」

「そうだけどさ! でも、でも!!」


 フレスは目に涙をためて、力いっぱいウェイルの服を掴んでくる。

 力が篭り過ぎて少し痛いくらいに。

 そんなフレスの行為に、イレイズが頭を下げた。


「ありがとう、フレスちゃん。でもこれは私達の責任なんです」


 イレイズはそう諭して、フレスの手をウェイルから離させた。

 フレスはなんとか落ち着いたものの、納得がいかないのか、その場で下を向いて黙りこむ。


「サラーの友達は、心優しい、とてもいい龍なんですね」

「……否定はしない」

「フレスちゃんになら、貴方だって満足でしょう?」

「……フン」


 自分達のしてきたことは、どのような事情を抱えていようとも到底許されることではないのだ。

 必ず裁きを受ける時が来る。それが今なのだと、イレイズはそう悟ったのだ。


「ウェイルさん。私達を逮捕してください。ウェイルさんに逮捕されるのならば、これ以上に幸せなことはありません」


 イレイズはゆっくりとサラーを起こし、ウェイルの方へと歩み寄った。


「酷いよ、ウェイル!! イレイズさん達はこれ以上悪いことはしないよ! それに今から同胞を助けにいかないといけないんだよ!? こんなところで足止めさせちゃダメだよ!!」


(――判っているさ、フレス)


 でもウェイルはフレスに教えねばならない。

 鑑定士は時として己の感情を抑え、任務を遂行せねばならないことを。


「フレス。犯人の事情なんざ関係ないんだ。犯行を行ったこと。罪を犯したこと。その現実だけが全てだ。判ってくれ」

「全然判らないよっ!!」

「お前がこれから身を投じる世界は、こういうこともあるんだ」

「だったら、ボク、鑑定士なんてやりたくないよ……!!」


 フレスは再びウェイルにしがみつき喚く。

 非難の視線が全身に突き刺さった。


「フレスちゃん。それ以上ウェイルさんを困らせてはいけないよ」


 フレスだって理解しているのだ。

 ただ感情を制御できないだけだ。


「庇ってくれてありがとう、フレスちゃん。でも私たちがやったことは立派な犯罪なんだ。その裁きは受けないといけない」

「そんな……」


 へなへなとその場に崩れ落ちるフレス。

 その蒼く美しい瞳から大粒の涙が零れ落ちていた。


「さあ、ウェイルさん。行きましょう」


 イレイズが促し、歩き始めたときだった。


「――天井に大きな穴が開いているな」


 ボソリとウェイルが呟いた。

 それはフレスとサラーが衝突したときに出来た穴であり、サラーがウェイルを庇う事になった原因でもある。


「痛てててて……、さっきの天井の破片で足を怪我したみたいだ……」


 突然その場にしゃがみ込んだウェイル。

 その様子にフレスは目を丸くする。


「一体どうなされたのですか?」


 当のイレイズも困惑する。

 その質問を無視してウェイルは言葉を続けた。


「あの穴から敵が逃げても、今追うことは難しいな……。俺はこの怪我だし、フレスも動けなさそうだ……。腹痛かな?」


 誰もが芝居だと判る棒読みの演技であったが、フレスには十分意図は伝わったらしい。

 始めはキョトンとしていたが、すぐに調子を合わせ始めた。


「うぐぐぐ……、ボクも腹痛が酷くなってきたよ……。きっと食べ過ぎたんだね」

「お前はいつも食い過ぎなんだ、馬鹿」

「馬鹿って何さ、馬鹿って!!」

「少しは俺の財布のことも考えろ」

「……ウェイルさん……!!」


 そんな臭い芝居を打つ二人を見て、イレイズは自然と頭を下げていた。

 イレイズの目からは、堪え切れず涙が溢れていた。

 『不完全』に加入して、どんなに酷く辛い仕事を押し付けられても、どんな仕打ちを受けても、決して涙は見せなかった。

 そんなイレイズが、涙している。

 サラーは出会った時以来、一度も見ていなかったイレイズの涙を、ただじっと見つめていた。

 そして思う。

 これまでのイレイズの苦難を。苦労を。苦痛を。

 そして決意する。

 これからもイレイズの支えになろうと。


「大分足の痛みが消えてきたな……。フレスはどうだ?」

「うん。だいぶ楽になってきたよ」


 二人の警告は伝わったようだ。

 イレイズはさっと顔を上げ、背を向けた。


「――ありがとうございます」


 口を少し動かした程度の小さな声だったが、二人の耳には十分伝わった。


「サラー!! 逃げるよ! 動けるかい?」

「逃げるだけなら何とかなる」


 龍の生命力の賜物か、動ける程度に回復したサラーは、真紅の大きな翼を広げてイレイズを抱えて空を翔けた。

 燃える翼を羽ばたかせ、サラーは天井の穴に向かって突き進む。


 ――しかしその刹那、何者かがイレイズ達の行く手を遮った。


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