最高責任会議への招集
「えーっと、何々……?」
じーっと手紙を眺めるステイリィの姿を、皆は静かに見守っていた。
「ふむふむ……――――って、えええええ!? めんどくせええええええッ!!」」
「ど、どうしました!?」
ステイリィが唐突に奇声を上げるのはよくあることだが、今回の奇声には多少なりとも驚きの色が混じっていたので、一同何事かと傍へ駆け寄った。
「上官、一体何が?」
「これ、読んでみ。本部から招集の命令だった。何か悪いことしたっけ?」
「いや、特に最近は……」
「だよなー。一体何の用かな。私に聞きたいことでもあるのかな? とにかくめんどくせー(ホジホジ)」
「鼻ほじらないでください」
ステイリィが手紙を机の上に広げると、一同それに覗き込んだ。
「えーと、『ステイリィ・ルーガル。治安局最高責任会議への出席を命ずる』……?」
「ええっ!? 治安局最高責任会議!?」
「な、なんてこった……!!」
一同が驚き、絶句したのも無理はない。
むしろこの内容を読んで、鼻クソをほじりながらめんどくせーとほざくステイリィがおかしいのだ。
「ね? 面倒くさいでしょ? てか最高責任会議ってなんぞ?」
「ちょっと上官! 何言ってるんですか! 最高責任会議ってのは、治安局最高幹部でないと出席出来ない超重要な会議ですよ!! それに出席しろだなんて! 一体何をやらかしたんですか!?」
「だから何もしてないってば! むしろ何もしてないのにこの地位にいる私はおかしいんだって!」
「自分で言いますか、それ」
「あ、あの、ビャクヤさん、多分その解釈は違いますよ?」
普段から互いに素を出しながら口喧嘩――もとい、じゃれついている二人以外の局員達は、この手紙の意味を正しく理解していた。
「これ、ステイリィ上官が何かしでかしたから呼ばれたってことじゃなくてですね。実力が認められて最高幹部として扱われているから呼ばれたと、そういうことだと思います」
この部下の言葉に、他の局員達も一同頷いた。
「私が、最高幹部に……? マジ?」
「マジもマジ、大マジです。ステイリィさんって、一応英雄ってことになってるでしょ。なら会議に呼ばれてもおかしくないですよ」
「その一応ってとこを強調するのが少々解せないけど……うん、そういうことなのか」
ステイリィの素の姿を置いておくとするならば、その実績は最高幹部へと昇進させるに十分相応しいものである。
実際この医療都市ソクソマハーツも、ステイリィの着任直後から急激に復興が進んでいる。
無論、これについてもステイリィの総指揮があったからというわけでなく――もちろん多少は口も出したし手も尽くしたが――元々この都市に住んでいた住人達が復興に尽力したという点が非常に大きい。
「復興が進んだことすらもこのバカ上官の手柄にされている……!?」
「な、何? ビャクヤ、なんだか目が怖い」
「ビャクヤさん、驚きすぎて本音漏れちゃってますよ……?」
なんてこの人は運の良い。……いや、良すぎるのだろう。
ビャクヤはステイリィの持つ豪運を、心底恐れていた。
「……これで昇進は決定ですね。ざまあみろ、です」
「また勝手に出世してしまった……」
「他の幹部候補が聞いたら殴り殺されますよ? 発言には気を付けてくださいね?」
まさにトントン拍子とはこのことだ。
恋愛の方はというと前途多難と言わざるを得ないが。
「でもなー、出世すればするほど仕事が楽になるかと思っていたのに、逆に面倒なことばっかりなんだよなー」
「その愚痴も外では漏らさないようにしてくださいね」
「判ってるってば。あー、めんどー」
プスーと頬を膨らませながら、椅子に深く腰掛けるステイリィ。
「仕方ない、行きますか。ビャクヤ、それに皆の衆! 私は偉いから変な会議に参加せねばならなくなった! お供いたせい!」
「「「はいはい……」」」
何ともやる気と士気を低下させる命令であったが、それでもなんだかんだで皆苦笑しながら頷いたのだった。
「で、ビャクヤよ。場所はどこだっけ?」
「治安局本部の会議なんですから、司法都市ファランクシアに決まってるでしょう。……ほんと、どうしてこんなアホな人に限って出世するんでしょうか……。世の中奇妙なことばかりです」
「ああ、ファランクシアで偶然ウェイルさんに会えないかなぁ!」
「無視ですか。 ……にしてもまさか十六人会議に呼ばれるなんて……」
「ビャクヤ~、旅行の準備おねがーい」
「自分でしてください」
――治安局最高責任会議、通称『十六人会議』。
治安局の最高決定権を持つこの会議に、ステイリィは参加することとなった。
それは偶然にも望み通り、ステイリィはウェイルと再会することになり。
そして治安局史上最大のテロ事件に巻き込まれていくのであった。




