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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
最終部 第十四章 司法都市ファランクシア編『ステイリィ英雄譚』
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『三種の神器』と龍の存在

「フェルタリアの神器絡みとなってくると、途端に考慮素材が増えるんだよね」


 フェルタリアは神器製造に長けた都市であり、それにより発展・繁栄したと言っても過言ではない都市であった。

 そんな都市であるから、魔力回路構造を組み込んだ記念硬貨の一つや二つ製造されていても、なんらおかしいことではない。


「だが『セルク・ブログ』と組み合わせれば判ることはあるぞ」

「だね。この邪の器ってのはフェルタクスのことだ」

「そしてそのフェルタクスは、カラーコインと関わりがあって、そして今は――フェルタリアにある」

「もうさ、この『急』の章なんてあからさまに答えが書いてあるよね」



 ― セルク・ブログ 『急』 ―



 女は愛を、聖は鍵に、神たる龍を糧として。


 邪は動き出す。

 邪の操作には七色と、鍵たる一色を用いる。

 邪は楽器に近い。

 その音色の根源は、世界を彩る七色と、この世を覆う闇である。


 我はその七色と一色を盗み出して、この大陸の各地へ隠した。

 七色の音色には歌がある。

 至る終焉への讃美歌だ。

 フェルタリアに伝わるその歌が、全てのプロローグになるはずだ。


 女は地下に、邪は城に隠してある。

 女は女神の姿にて、魔力の全てを司る。


 邪は大砲。

 世界に破滅をもたらすだろう。


 聖の剣は、ラインレピアの五つの鐘が、同時に、強烈に響き渡る時、現れる。


 邪を動かすために、龍が犠牲となるだろう。

 時計の鐘を必要以上に鳴らしてはならない。


 邪の者が、目覚めてしまうだろうから。



 ――            ――



「この前読んだ時も、答えにぶち当たった気がしたがな。改めて読むと、まさに答えそのものだ」


 七色と鍵たる一色。

 これはカラーコインの八色のことを指しているに違いない。

 そして気になるのは次の文節。

 

 七色の音色には歌がある。

 至る終焉への讃美歌だ。

 フェルタリアに伝わるその歌が、全てのプロローグになるはずだ。


「今ニーズヘッグが歌った詩こそ、この意味にあてはある代物なんじゃないのか?」

「おそらくはね。その詩が何に必要なのかは判らないけど、予想は立てられる」


 そこでテメレイアは、スフィアバンクから持ち帰った資料を二部ほど机に広げた。


「これは僕がインペリアル手稿を解読したものを記したもの。そしてこっちは『神器封書(ギア・シールグリフ)』の内容。『神器封書』には『三種の神器』について大まかに書かれていた。といっても内容の大半は『創世楽器アテナ』の記述だったんだけど」


 テメレイアの解読した資料を見てみる。

 確かに量は多くないものの、『アテナ』以外の神器についても記載は合った。


「ウェイル、この『ケルキューレ』に関する記述、凄くよく当てはまっている。性能がそのまま書かれているみたいだよ」

「……だな。心を壊す力を持つと、しっかり能力まで記述してあるな」

「その能力は、本当なのかい?」


 テメレイアはケルキューレを見たことがない。

 だがその聖なる剣を見たことのある者は皆、この記述を見て驚いていた。

 見たこと、体験したことが、そっくりそのまま記載されていたからだ。


「やっぱりこの情報は信頼できるということだね。とすれば、残りの一つも……」


 最後に書かれていたのは三種の神器の最後の一つ。

 その正式名称を――――『異次元反響砲フェルタクス』。


「以前に解読資料を見た時は、この内容は判らなかったが、今見れば一目瞭然だな……」


 『異次元反響砲フェルタクス』。


 小さく記載されたイラストは、まさに『セルク・ブログ』に出てくる通り、大砲と呼ぶに相応しい姿。


「世界に破滅をもたらすだろう、か……」


 おそらく誇張ではないはずだ。『三種の神器』ともなれば。


「なぁ、フレス、わらわが気になるのはこの文じゃ」


 ミルが指差したのは、以前フレスも気にしていた一文。


『女は愛を、聖は鍵に、神たる龍を糧として』


「女って言うのは、『アテナ』のことで、『聖』ってのは『ケルキューレ』のことなのかも」

「じゃあ龍を糧に、っていうのはどういう意味なのかのう?」

「……たぶん、そのままの意味なんだと思う」


 フレスは、少しの間目を閉じた後、そしてそう答えた。


「龍の、つまりボク達の持つ魔力を使うんじゃないかなって、そう思うよ」

「わらわ達の……!?」


 ミルは話を聞いた最初こそ驚いてはいたものの、彼女の経験則からか、どこか納得するところがあったらしい。


「いつの世も、人間は龍を利用したがる。そういうことじゃのう」


 と、寂しそうに漏らしていた。

 そんなやり取りの後のこと。

 フロリアが「あれ!?」と声を上げる。


「どうかしたの?」


 アムステリアが問うと、珍しくフロリアは素直に首を縦に振っていた。


「あのさ、私、今変なこと思い出したんだけど」

「変なこと? 何なんだ?」

「これ、見てよ」


 フロリアは持ってきていた、自分が作った贋作の『セルク・ラグナロク』を取り出して、皆に見せた。


「これってさ、やっぱり龍が描かれているよね。それに、今ウェイル達が言ってた大砲とかも」

「……これ、本物そっくりに描いてるんだよね? だとしたら……」


 これにはウェイルもテメレイアも絶句していた。

 フロリアの指摘、それはまさにセルクが自ら答えを示していたようなものであった。


「『セルク・ラグナロク』はセルク最後の作品。もしセルクがこのブログの内容をここに書いていたのだとしたら、このイラストの意味は理解可能だ……!!」


 『セルク・ラグナロク』には五体の龍の姿が描かれている。

 それぞれが中央に向かって飛翔し、その中央には、光が輝いているような構図だ。

 そしてその周囲に描かれているものは、実に興味深く、そして今のウェイル達ならばすぐさまピンとくるようなものがある。


「剣と、女神や天使と、そして大砲、か」

「まさに三種の神器だね。セルクはこの絵に、三種の神器のことを描いていたんだね。この日記を読んだものに、何かを伝えたくて」

「この絵が、一体何を伝えたいかは定かじゃないが、少なくとも三種の神器と、フレス達龍には何らかの関わりがあると、そう捉えてもいいな」


 とはいえ絵画は抽象的なもの。

 一瞬ドキリとするような一致があったものの、これを見て今すぐ何かが理解できるわけじゃない。


 ――『三種の神器』と龍。


 この存在が、一体どのように関わってくるのだろうか。


 ――その答えを探し出す発端は、アムステリアの呟きから始まった。


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