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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
最終部 第十四章 司法都市ファランクシア編『ステイリィ英雄譚』
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ライラの詩

「――実は僕、フェルタクスの正体について、ある程度の目星がついているんだ」

 

 その発言に、一同は一斉にテメレイアに注目した。


「――何だと!? 一体どういうことだ!?」

「落ち着きなよ、ウェイル。えーと、その話は後でじっくりとするさ。まずこのカラーコインを見てみようじゃないか」


 ルーペを使い、じっくりとレプリカを見回すテメレイア。


「それ、贋作なんでしょ? あまり鑑定しても意味ないんじゃない?」

「いや、それは違うよ、アムステリア。贋作でも、これが本物そっくりに似せて作られている以上、見るべき点は多くあるのさ。事実判ったことがあるから」

「贋作を見て判る事?」


 アムステリアも、要領を得ないと首を傾げる。


「確かに贋作である以上、塗料や材質などについては考慮するに値しない。だけど見た目はほとんど同じに作られてあるよね。今回はその見た目が重要なのさ。特に重要なのは、この模様」


 カラーコインの模様。

 ウェイルが鑑定した結果、これはイラスト風に描かれた文字であることが判っている。


「これ、文字だよね。それも旧フェルタリア語だ」

「お前、読めるのか?」

「少しだけね。昔暇つぶしに旧フェルタリア文明の文献を読んだことがあるから」

「す、すげー……」


 フロリアの口は、再びあんぐりである。


「贋作だし、文字もちょっと潰れかけているけど、何とか読める」


 ルーペを使ってじっくりと見ながら、テメレイアは解読したままを音読し始めた。


「……『時代の覇者は放たれる』。えっと、次は……『黄金の鍵は龍の手なり』かな? 一体何を表しているのやら」

「あれ? その詩……」


 テメレイアの音読を聞いて、フロリアが何かに気付いた。


「ニーちゃんさ、今の詩、この前歌ってたよね? 確かスメラギ達と『セルク・ブログ』の解析を進めているときに」


 一同は、またもニーズヘッグの方を向く。


「知ってるの……」


 もぞもぞと、自信なさそうにそう答えた。


「ニーズヘッグが、知っている……?」


 その事実は、フレスに違和感をもたらした。

 そんなフレスの表情を見てか、ニーズヘッグはフレスにこう告げた。


「多分、フレスも、知っているの……」

「ボクも知っている……!?」


 今テメレイアが音読したフレーズを聞いても、何も思い浮かばなかったというのに、ニーズヘッグはそんなことを言ってくる。


「ボク、こんな詩知らないよ!?」

「ううん、知ってるの。聞いて欲しいの。思い出して欲しいの……!!」


 ニーズヘッグは唐突に立ち上がったかと思うと、両手を前で合わせて目を閉じて、そして歌を歌い始めた。



 ――『時代の覇者は放たれる』――


 ――『黄金の鍵は龍の手なり』――


 ――『五つの円は滅びの歌に』――


 ――『女神と剣から信仰集め』――


 ――『創世の光が世界を洗う』――


 ――『哭けや憂いや人の器ぞ』――


 ――『畏れや崇めや神の器ぞ』――


 ――『終焉は王の手によって』――



 ニーズヘッグは歌い方はたどたどしく、お世辞にも上手いとはいえない、というより凄まじく音痴であったのだが。


「…………ッ!!」


 それでも、この歌はこの場にいる者を圧倒させる。

 皆が皆息を呑み、言葉の羅列を一つ一つ噛みしめるが如く、その意味を探っていく。

 特にフレスは、身体中から冷や汗が噴き出るほどの寒気を覚えていた。


「フレス、知ってるはずなの」

「し、知らないよ、ボクはこんな詩、知らない!!」


 記憶にはない。でも、なんだか懐かしいような――


「……フレスは知ってる。だって――」


 一同がフレスを見て、そして理解した。

 理解できていないのはフレス本人だけだろう。 

 何故ならフレスは――


「ボク、本当に記憶にないんだよ!」

「だってフレス、今、――――泣いているの」

「……え……?」


 フレスは手を顔に当ててみた。


「……あれ? なんで? なんでボク……泣いてるの……?」


 拭いても拭いても、涙が止まらない。

 対するニーズヘッグは頭を抱えて青ざめていた。


「に、ニーちゃん?」


 心配になったフロリアが、ニーズヘッグの肩を抱いた。

 体重が一気に掛かってきたことを見るに、ニーズヘッグも倒れる寸前だったようだ。


「ボク、ボク、どうして……? 本当に、何のことだかわからないのに……!!」


 そんなフレスに、ニーズヘッグは顔を苦痛で歪めながらも、言葉を絞り出した。


「フレス、思い出すの。この詩は、……――――ライラが完成させた詩、なの……!!」


「――ライラの詩……ッ!!」


 その名を聞いた瞬間だった。


 フレスの脳裏に映し出された、鮮やかな光景。


 大好きな親友ライラが、ピアノを弾きながら、フレスに歌ってくれた詩。


 二人仲良く作曲した、あの楽しかった日々を。


 あの幸せだった記憶が、蘇ったのだった。


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