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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
最終部 第十四章 司法都市ファランクシア編『ステイリィ英雄譚』
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天才少女はイチャつきたい

「ただいまー、スフィアバンクから目的の品を持ってきたよ! さぁ、鑑定しようか!」

「おう、早かったな。こっちも準備万端だ」

「あれれ、もう準備を終えてたの? それは残念」


 龍の移動速度は、汽車という移動手段の存在意義を根本から否定するほどの速さだ。

 本来であれば移動に二日以上は掛かるであろう『銀行都市スフィアバンク』への道のりが、その八分の一以下で済むというのだから、鉄道会社が聞けば目玉が飛び出る程の衝撃だろう。

 そういうことでテメレイア達は、その日の夕方にはマリアステルへ帰着し、このウェイルの部屋へと戻ってきていた。


「何が残念なんだよ」

「だって、僕はウェイルと二人でイチャイチャしながら鑑定準備をしようと思っていたのに」

「イチャイチャって……」

「――なぬぬっ!? ウェイルとイチャイチャ!?」

「そ、イチャイチャ。そんな僕の楽しみが奪われたのだから、これを残念と言わずして何を残念というのさ」

「……鑑定の準備に余計なことはする必要はないだろう」

「僕のモチベーションに関わるのさ。いいじゃないか、今からでもイチャイチャしようか?」


 そういってテメレイアはウェイルの腕を引き寄せて、そのまま自分の胸を押し当てた。


「なっ!? お前、胸!」

「――なぬぬぬぬぬぬっ!?!?」


 ウェイルが驚くのは当然だが、それ以上に二人の様子をジーッと見ていたフレスが驚愕していた。


「レイアさん!? 何してんの!?」

「何って、イチャイチャ」

「しれっと言うな、しれっと」

「ダメだよ!? これからボクら、鑑定するんでしょ!? ウェイルの言う通り、余計なことはしなくていいの!」

「でもさ、僕って自分で言うのも何だけど天才じゃない? 鑑定しながらイチャつく程度の事なんて、僕にとっては容易いことなのさ」

「それでもダメー!!」


 二人の間を引き離そうとフレスが割り込んでくる。

 ウェイルとしては正直助かったと安堵した。


「あらら、これまた残念」


 アハハハと笑うテメレイアの背後に、強烈な殺気。


「この男装女、いい度胸してるわね……! 流石は協会随一の天才なだけあるわ……!! 人の神経を逆なでることも天才的ね……!!」

「て、テリアさんが怒ってる……!!」


 アムステリアの激しい殺気にフレスが涙目になるも、その殺気を一身に受けるテメレイア本人は、どこ吹く風。

 涼しい顔と余裕の笑みを浮かべながら、アムステリアにウィンクを飛ばした。


「やだなぁ、ほんの冗談じゃない? ムキにならないでよ、アムステリアさん? ま、お互いライバルということで仲良くしようじゃないか」

「……な、何なの、この娘……?」


 爛々と怒気を放つアムステリアに飄々と手を差し出すテメレイアの姿に、ウェイルも「すげぇ」と思わず言葉を漏らしてしまう。


「……やりづらい娘ね、ホント」


 握手を拒否しつつ、殺気を引き下げたアムステリア。


「拒否されちゃった。残念だね。そうだ、ならフレスちゃんと握手をしようか」

「あれあれ!? どうしてボク?」

「ま、細かいことは別にいいのさ」

「……ホント、何なの、この娘……」


 アムステリアとテメレイア。

 二人はこれまでほとんど接点はなかったが、今のやり取りだけで二人はあらかたの挨拶を終えた形だ。

 なまじ互いに実力が高すぎるということで、雰囲気だけで相手のレベルをある程度把握出来たらしい。


「ねぇ、ウェイル。このテメレイアって娘、相当な実力者よね? 協会随一の天才だと名前は聞いたことがあるけれど、どうやら生半可な天才なんかじゃなさそうだわ」

「ああ。こいつはアレクアテナ大陸最高の鑑定士は俺だと言っているが、当の俺から言わせれば最高の座にいるのはテメレイアだと思っている。正真正銘、超が三つつくほどの天才だよ」

「私に対してあそこまで堂々とした態度をとる女は、ほとんどいないから驚いちゃった」

「……お前が怒ると、龍ですら涙目になるくらいもんな……」


 あわわわわと、涙ぐむフレスの顔を見てため息をついた。


「度胸ならアムステリアにも負けんさ。あいつは単身一人であのアルカディアル教会から囚われの姫君を救出した奴だからな」


 視線の先にいるのは、緑の神龍ミル。

 『狂い荒ぶる大地の龍神(クレイジー・ドラゴン)』の異名を持つ、フレスの同胞だ。

 最強の存在(オライオン)と最凶の神器(メンタルスフィア)を用いるアルカディアル教会総帥イルガリの手から、テメレイアは見事にミルを救い出した。


「じゃあ鑑定しはじめようか。ミル、ルーペお願い」

「う、うむ! 任せるのじゃ!」


 最近はテメレイアについて鑑定士の助手のようなことをしてくれているらしい。

 フレスから言わせると、あれだけ人間を嫌っていた彼女がここまで人間に懐くなんて奇跡だという。

 復讐に囚われ凍り付いていたミルの心をテメレイアは優しく溶かしたのだ。


「なかなかに骨のある子なのね」

「骨がありすぎて難儀するほどだがな」

「私、あの娘の事、ちょっと気に入ったかも。――だけどね」


 念押しするかのように、ずずいと耳元に顔を近づけてきたアムステリア。


「――浮気は駄目よ?」

「だから俺とお前はそんな関係じゃないだろうに……」

「うむむむ……!!」


 そんなやり取りを見て、やっぱり不機嫌になっていたフレスであった。



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