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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
最終部 第十四章 司法都市ファランクシア編『ステイリィ英雄譚』
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ニーズヘッグの涙

「ぷはーっ! 自由に動けるって、いいねぇ!」


 縄をほどいてもらって、ぐっと背伸びをするフロリア。

 そんなフロリアの行動を見て、アムステリアが吹き出した。


「プププ、その髪型で背伸びって……! この子、面白すぎる……!!」

「ちょっと! 笑うのはおかしいでしょ!? お姉ちゃんがやったんでしょうよ!!」

「もう少しそのままでいなさい。鑑定が捗るから」

「私の髪と鑑定に、一体何の因果関係が!?」


 恒例のモヒカン頭で盛り上がるアムステリア達を眺めながら、


「フレス」

「何?」 


 ウェイルがちょいちょいとフレスを呼ぶ。


「フロリア達を鑑定に参加させて、ごめんな」


 呟くようにウェイルは謝った。

 何故ならフレスとニーズヘッグは、未だ確執を残したままであるからだ。

 フレスはニーズヘッグのことを憎くて仕方ないはずなのだ。

 そんな相手と同じ部屋で同じ作業をするのは、本来は苦痛であるはずなのだ。


「…………」


 フレスが少しばかり無言になっていると、ニーズヘッグが立ち上がった。


「ニーちゃん? どったの?」

「お外、出てるの……」


 フレスの様子を見ての行動だか判らないが、ニーズヘッグは部屋から出ていこうとする。

 微妙な雰囲気が流れる中、フレスはそんな空気を引き裂いて、呟いた。


「ニーズヘッグの知識も、利用した方がいいと思う」

「…………!?」


 その呟きに、ビクッとニーズヘッグの肩が震えた。


「ニーズヘッグだって、龍なんだ。神器についても詳しい筈だよ。『三種の神器』のことだって、何か知っているかもしれない」

「フレス……。……そうだな。その通りかもしれない」


 フレスが、ニーズヘッグの参加を許可した。

 それはウェイルにとってはあまりにも驚くことであったが、誰よりも驚いていたのは当の本人だ。


「……い、いい、の……? ここに、いても、いいの……?」


 ニーズヘッグの肩が震えている。

 ニーズヘッグのフレスに対する気持ちは、彼女の普段の行動を見ていれば、誰もが判るほど露骨だった。

 いつもフレスを目で追っているし、かといってフレスの前には出来る限り姿を見せようとはしない。

 フレスのことを好きと公言しつつ、自ら大きく近づくことをしない。

 不器用なニーズヘッグのことだ、その距離を保つことは大変だったのかも知れない。

 自らが犯した罪と、フレスへの申し訳なさ、そしてフレスへの愛情と、フレスからの憎悪に挟まれて、ニーズヘッグは苦しんでいた。


「さ、多分もうすぐレイアさん達帰ってくるからさ。鑑定の準備しよう。フロリアさんも――ニーズヘッグも、協力してね」


 フレスは露骨に視線を逸らして、そう言った。

 そっけない態度ではあったが、そんなフレスの態度を見てニーズヘッグは。


「に、ニーちゃん? な、泣いてるの?」

「…………う、うう…………」


 その紫色の瞳から、ポロポロと涙を溢れさせていた。


「ニーちゃん……」


 フロリアが彼女の名を呟くと、ニーズヘッグはゴシゴシと目をこすって。


「フロリア、手伝うの、手伝って、欲しいの……。お役に、立ちたいの……!」


 ニーズヘッグの口から、これまで聞いたことがないほど力強くお願いされた。

 そんなニーズヘッグの姿が、なんだか愛おしく感じられたフロリアは、彼女の肩をポンと叩く。


「まっかせて! プロ鑑定士なんて目でもないほどの鑑定っぷりを見せちゃうもんね!」

「……うん!」


 なんだかんだで心が通じ合っていた二人であった。


「ウェイル、フロリアさんもニーズヘッグも協力してくれるって。早く鑑定終われそうだね!」

「そうだな」


 あれほど憎んでいた相手であるニーズヘッグ相手に、この心境の変化は何なのだろう。

 その答えを、なんとなくだがウェイルは判っていた。彼女の過去の話を聞いているのだから。


 ――そう、やっぱりフレスは根本的に優しいのだ。


 フレスが他人を憎むなんて、似合わない。

 フレスにはいつだって、その純粋な笑顔を周囲に見せて欲しい。

 そんなフレスに、ウェイルはいつだって救われているのだから。


「レイアが帰ってきたら、すぐに鑑定を始めるぞ。そのための準備だ。手伝え、フレス」

「うん!」


 ――うん。やっぱりフレスはこの笑顔だ。


「あ、あのー、ルミナスのお姉ちゃん? もうそろそろ髪、直してもいい?」

「直したら殺す」

「鬼ーっ!?」


 ――そんなフロリアとアムステリアのやり取りを見るニーズヘッグの顔には、わずかだが憑き物が取れたような、純粋な笑顔があったのだった。

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