『セルク・ラグナロク』の贋作
――絵画『セルク・ラグナロク』。
それは巨匠セルク・マリセーラの手がけた最後の作品で、5匹の龍が描かれている逸品だ。
――しかし、残念ながらこれは本物ではない。
「それ、私が描いたんだけど!」
フロリアが自慢げに鼻息をフンフンさせながら誇らしげにしている。
これは以前、フロリアがここへ持ち込んだ贋作であった。
「あんた、これを適当に描いたの?」
「んなわけないでしょ! バッチリ完璧に写しましたとも! こう見えても私、絵画の腕は超一流なんですから!」
素人目には判別できぬほどの高クオリティな贋作。
フロリアはあのセルクマニアで有名な王都ヴェクトルビアの君主、アレスが気に入るほどの芸術に長けた女だ。
『不完全』に属する者全員に言えることではあるが、贋作士である以上、芸術に関しての才能は一級品なのである。
「本物はどこなの?」
「アレス様のコレクションルームに隠してあるんだってば。だってその絵画、リーダー達も欲しがっていたしさ」
「……どういうことだ?」
奴らが『三種の神器』を狙っていることは判っている。
では何故『セルク・ラグナロク』も欲しているのか。
何か裏があると考えるのが必然だ。
「奴らがこいつを欲する理由を、何か知ってるのか?」
「知らないよー。多分ほとんどのメンバーはその理由を知らないよ」
「知らずに悪事を働いているのか?」
「そうだね。私達はただみんなで遊んでいる感覚なだけだから。欲していたのはリーダーと、そしてイドゥ」
「やっぱりイドゥね。彼が絡んでいるとなると何かあるのは間違いなさそうね」
「……アレスの所に置いてあると言ったな。それって危険なんじゃないのか?」
もしまだ奴らがこいつを欲しがっているのであれば、本物を持っているアレスは危険なことに巻き込まれる可能性があるということだ。
だがフロリアはこの可能性については否定的であった。
「う~ん、多分大丈夫かなぁ」
「何故そう言いきれる?」
「だってさ、私リーダーにも描いた贋作あげたもん。物としてじゃなく、記憶としてね」
「なるほど」
それを聞いてフレスが妙に納得していた。
「確かリルさんの知り合いのルシカって人、感覚を扱う神器を持っていたよね。そういう系統の神器ばかり使っているでしょ?」
「お、大正解! いやぁ、流石プロ鑑定士になっただけあるねー!」
フレスの推理にフロリアはケタケタ笑う。
「しかし本物を狙う可能性だってあるだろう?」
「多分ないよ。イドゥは別にセルク作品が好きなわけじゃないもん。もちろんリーダーもね。多分、絵画としての『セルク・ラグナロク』なんてどうでもいいんだと思うよ。欲しいのは『セルク・ラグナロク』に隠されたメッセージや情報。それだけだよ。だってさ、『セルク・ブログ』は今ここにあるのに、誰も追ってこないでしょ?」
「……確かにな」
もしセルクの作品自体に興味があるのならば、『セルク・ブログ』を手放す様なことは絶対にしない。
ましてしばらくウェイル達はラインレピアに置きっぱなしにしてきたのだから、本当に欲しているのであれば、必ず回収しに来るはずだ。
「逆に考えれば、この絵画には何らかの意味があると、そういうことになるわね」
「『セルク・ラグナロク』自体、元より何かしらの意味があると言われてきたからな。ここいらでその謎に挑戦してみようじゃないか」
ウェイルのその言葉に、フレスも力強く頷いた。
セルクの残したメッセージを読み取っていくという、『三種の神器』や『異端児』の目的にも繋がる大切な鑑定になるが、実の所ウェイルは少しだけ楽しんでいた。
これまで誰も手に入れることが出来なかったセルクのメッセージを、こうして紐解くチャンスを得たわけだ。
鑑定士の血が疼き、好奇心が溢れるのも無理はない。
その思いはフレスも共通なようで、その目は強い信念と興味の光に輝いていた。
「ちょっと! セルクのことなら私にも!」
「ああ。鑑定に参加してもらうぞ、フロリア」
彼女の知識は武器となる。使えるものは何だって使うべきだ。
フロリアも鑑定に参加させることにした。
「……その前に縄ほどいて髪型戻してもらえるとありがたいんだけど」
「縄はほどいてあげるわ。でも髪型は駄目」
「なんで!?」
「だって、その髪似合ってるもの」
「ルミナスのお姉ちゃん、外道すぎる!?」
「貴方もそう思うわよね? ニーズヘッグ?」
部屋の隅でじっとしていたニーズヘッグにアムステリアが声を掛けると、
「似合うの。フロリアは、ずっと、それがいいの」
「酷い!? ニーちゃんの裏切り者!?」
「本心、なの……」
「もっと酷い!?」
表情が乏しいので、冗談か本気か判らない答えを返してきたのだった。




