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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
最終部 第十四章 司法都市ファランクシア編『ステイリィ英雄譚』
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異端児たちの休日

 ――大監獄『コキュートス』へのテロ事件が起こる、その二日前。


 ここは農作都市サクスィルにある、とあるカフェ。

 サクスィルらしく落ち着いた雰囲気のある、おしゃれなカフェのオープンテラスに、一際目立つ連中がいた。


「さーてと、ケルキューレも手に入ったことだしさ。最後の大仕事が間近になってきたねぇ」

「イドゥが指示を出したらな。リーダー、お前さん勝手に動くんじゃないぞ」

「判ってるってば」


 運河都市ラインレピアにて、伝説と謳われる『三種の神器』の一つ『心破剣ケルキューレ』を手に入れた『異端児』御一行はというと、一部のメンバーを除いて農作都市サクスィルへ、先の戦いの疲労を癒すため観光にやってきていた。


「しかしサクスィルのコーヒーは美味しいねぇ。香りとコクが違う」

「リーダーって、とりあえず香りとコクが違うと言っていれば通だと思われると勘違いして、いつも言ってる」

「アノエ? 違うよ? 僕は本当に味の違いが判る男なんだけど? う~ん、実に美味しい。コーヒーはブラックに限るなぁ」

「今リーダーが飲んだコーヒー、さっき私が砂糖を入れまくった」

「アノエ? ち、違うよ? 砂糖を入れたコーヒーを飲んでみて、改めてコーヒーはブラックが最高だと、そう言っただけだよ?」

「今美味しいって言ってた」

「苦しいぞ、リーダーよ。お前さん、そもそも普段コーヒーなんて飲まないだろう?」

「ダンケルク!? それはナイショの約束でしょ!?」


 あれほどの大事件を巻き起こしてくれたというのに、イドゥがこの場にいないだけで随分と呑気なメンバー達である。


「しかしフロリアの奴、予想通り裏切ったな」

「う~ん、まあフロリアは裏切るのはいつものことだしさ。全然気にならないよ。むしろ彼女が裏切らないと落ち着かないよ。僕個人としては、ああいう風に自分を突き通す性格、好きだなぁ」

「リーダーがフロリアに告白してる!? そ、そんな……!! リーダーってフロリアみたいな腹黒い子が好みなんですね……!!」


 ガタッと椅子を倒しながらコーヒーカップを片手に、驚きの余り立ち上がったのは、エルフ族であるルシカである。


「ルシカ、驚きすぎだよ! しかも変な勘違いだって! 別に僕はフロリアのことなんて、なんとも思ってないんだからね!」

「酷いツンデレだな。なんつーか、キモイ」

「りりりりり、リーダーがフロリアの貞操を狙っているだなんて……!! 不潔です!!」

「ダンケルク酷い!? それにルシカ! いつまで勘違いしてビックリしてんの!? アノエまでビックリするでしょ?」

「私はビックリしない。リーダーのことは人としても男としても全然興味ない。私が興味あるのは剣だけ。だからリーダーの剣も欲しい」

「人としてくらい興味持って!? それにケルキューレだけはあげないよ!?」

「ちっ……! リーダー、カッコイイ。愛してる。剣ちょうだい」

「とってつけたように褒めないで!? 魂胆が漏れてるよ!?」


 リーダーことメルフィナは、布でくるんだケルキューレをアノエから遠ざけた。

 この剣を手に入れて以来、アノエからの嫉妬と殺気が凄まじい。

 夜に少しでも警戒を怠れば、彼女は剣を盗んでしまうだろう。


「欲しい……欲しい……。奪う……奪う……。殺す……殺す……」


「呪うように怖いこと呟くのは止めてよね……」


 ――さて、この場でくつろいでるメンバーは、メルフィナ、アノエ、ダンケルク、ルシカである。


 他の面子はというと、イドゥはいつもながらに神出鬼没であるし、重要な場面には必ず出てくるので別にメンバーは心配などしてはいないのだが、問題はスメラギとルシャブテである。


「スメラギは酷い怪我を負ったと聞いたのですが、大丈夫なのでしょうか?」

「かなり酷い怪我だったぞ。あのアムステリアがボコボコにしてくれたんだからな。生きているのが奇跡だよ。見ていたが、あいつの蹴りは鳥肌が立つほど怖かった」


 アムステリアが鬼の形相で蹴りを入れてくる姿なんて、想像するだけでも恐ろしい。


「ダンケルクさん、見ていたのならどうして助けなかったのですか……」

「俺は水の時計塔から望遠鏡で様子を窺っていただけだ。あんな強酸だらけの地区に足を踏み入れるだなんて正気の沙汰じゃない」


 スメラギの強酸は、ラインレピアの完全復興を二年遅らせるほどの被害が出た。

 そんな中に飛び込むなんて、ダンケルクには出来るはずもないし、する気も無い。


「倒れたスメラギをルシャブテが助けていたな。なんだかんだ言ってあの二人はお似合いだよ。今頃ルシャブテが優しく介抱しているんだろうさ」

「ルシャブテは趣味が悪いですからね。私はスメラギが心配です」

「ルシャブテが介抱か……」


 人の目をくり抜くことが趣味のルシャブテが、一体どのような介抱をするのか、皆の興味はそこにあった。


「まあ、スメラギは何をされても幸せなんだろうな」

「でしょうねぇ。愛ですね」

「次の指令は伝わっているんだろうしさ、ま、イドゥが指示を出すその時まで、みんなゆっくりしていようよ。うん、やっぱりコーヒーはブラックに限るなぁ」

「リーダーが飲んでるそれ、カフェオレ」

「アノエ? ち、ち、違うよ? カフェオレを飲んでみて、やっぱりコーヒーはブラックだと改めて思った感想を述べただけだよ?」

「流石にその言い訳は苦しすぎるぞ……」

「愛かぁ……!! いいなぁ!! キャーーー!!」

「いちいち叫ぶな。くつろぐどころか疲れる連中だ……」


 そんなわけで束の間の休息を取っていた『異端児』の面々であった。


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