表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
最終部 第十三章 神器都市フェルタリア過去編『ライラとフレス』
621/763

音の消えた滅亡都市


「……綺麗な曲なの」

「だねー」


 空を駆ける二人が、そんな感想を述べていた頃。


 突如として響き始めた音楽に、フェルタリアの住人達は何事かと空を見上げた。


 誰もが足を止め、息をすることすら忘れ、静かに曲に酔いしれていた。


 天才ライラの復元せし神なる曲は、人々の心を奪って、身体と魂を麻痺させていく。


 ただ強欲に、その音色を耳から取り入れようと、それ以外考えることを止めた。


 ――それは世界の終末に相応しい、鎮魂歌といえた。



 『時代の覇者は放たれる』



 『黄金の鍵は龍の手なり』



 『五つの円は滅びの歌に』



 『女神と剣から信仰集め』



 『創世の光が世界を洗う』



 『哭けや憂いや人の器ぞ』



 『畏れや崇めや神の器ぞ』



 『終焉は王の手によって』



 アイリーンが最後の一節を叩き終える。

 血で染まる鍵盤の上に、精根尽き果てたアイリーンが突っ伏した。



 ――その瞬間であった。



 まばゆい輝きが王宮から天に向かって伸びていく。


 人々は夢を見ているようだった。


 天使の奏でる曲の後は、光の柱が点に伸びる。

 

 想像を絶する幻想的な空間に、人々はただ傍観するしかなかった。


 光が天に伸びきったと同時。


 フェルタリア全体を、光の柱が飲み込んだ。


 音もなく、風もなく、あるのはただ光だけ。


 時間にしてみれば三十秒程度だろうか。


 光が消え去り、世界は元の静寂なる夜へと舞い戻る。


 静寂ほど怖い物はないと、シュラディンはこの時、心の底から震え上がっていた。


 ――静寂。


 ――全ての音が消え去っていた。


 フェルタリアの都市自体は、光の柱の前とそう変わりは無い。


 一つだけ違ったのが、音。


「シュラディン、今のそうなのですか!? さっきからずっと言っていた事とは!」

「……そうだ。我々はこれから逃げていたのだ」

「あの光に包まれた者達はどうなった!?」

「判らぬ……。だが、無事ではないだろう……!! ――ウェイル、どこへ行く!?」

「見てきます!」


 いてもたってもいられなくなったのか、ウェイルはその足で元来た道を戻っていく。


 そしてフェルタリアの城壁から中へ一歩入ったとき、何が起こったかを理解した。


「だ、誰も……誰もいない……!!」


 世界から音が消え去った。


 それは世界から人が消え去ったということだ。


「な、な……!!」


 ほんの数分前までは、そこには人が暮らしていた。

 民家を覗くとそれがよく分かる。

 作りたての料理に、子供が遊んだ後のおもちゃ。

 ゲーム中のトランプに、残された吸いかけのタバコ。


 そして何より判りやすい人がいた証が、大通りに大量に残されている。



「――衣服や靴が、全部残っている……!!」



 そこら中に落ちている服や靴。

 これら一つ一つが、そこに人が生きていたという証。


「う、ううう、…………!!」


 吐き気を覚え、地面に手をつき、胃の中の物をぶちまける。


「げほっ、げほっ……!! み、皆、消えてしまった……!! フェルタリアが、消えてしまった……!!」


 その夜、『神器都市フェルタリア』は、その名前を変えることになった。


 人がいなくなった都市は、もう都市ではない。


 ただの廃墟なのだ。


 足が震え、己の足で立つことすら出来なくなっていたウェイルを、シュラディンは必死に背負って、この都市を去った。


 後にシュラディンの口からウェイルに語ったのは、真実の一部分だけであった。


 ウェイルが()であることは絶対の秘密として、それを避けて説明するため、メルフィナやフェルタリア王家のついてのことは全て伏せた。


 唯一語ることが出来たのは、フェルタリアが滅ぶ原因となったのは『不完全』という犯罪集団であること。


 神器を巡る争いの果てに、フェルタリアはその名前を変えることになってしまったこと。


 『神器都市フェルタリア』という都市はもうない。


 後にフェルタリアはこう呼ばれることになる。



 ――『滅亡都市フェルタリア』と。





 ――●○●○●○――





「手に入れてきたよ。フレスの方は無理だったけどね。しかしまさかお父様さえ知らない隠し部屋にあっただなんて、ちょっと信じられないね」


 ニーズヘッグが手に入れてきた一枚の絵画。

 メルフィナが贋作士組織『不完全』の中で、確固たる地位を手に入れるために入手した貢物。


「龍を封印している絵画かぁ。上層部はこんなものを欲しがっているなんて、一体何をするつもりなのかな?」


 メルフィナが組織に献上したその絵画には、黄金色に輝く龍の姿が描かれている。


 そう、この絵画には――光の龍、ティマイアが封印されていたのだ。





 ――●○●○●○――





 それから程なくしてシュラディンは、ウェイルと共にリグラスラムへ移り住んだ。

 

 カラーコインはリグラスラムの闇オークションを利用して、二度と一か所に全てが集まらぬように、市場へと放流した。


 フレスの絵画は、親交のあった王都ヴェクトルビアのルミエール美術館へ寄贈した。


 のちに美術館に強盗が入り、絵画を奪われてしまったことをシュラディンは知る由もなかった。


 この時より二十年。


 運命は再びフレスを現代に蘇らせることになる。


 ―― 皮肉にも、それはシュラディンの愛弟子、ウェイルの手によって ――


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ