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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
第一部 第二章 競売都市マリアステル編 『贋作士と違法品』
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鑑定士の使命

 二体の龍の衝突によって、オークションステージは崩壊し始めた。

 瓦礫が落ちゆく危険地帯に、ウェイルは躊躇いなく飛び込んでいった。


「よし、なんとか間に合ったか……!!」


 ウェイルが命懸けで回収に向かったのは、ステージ上に置かれていた真珠胎児であった。

 なんとか全ての真珠胎児確保し、ホッと一息ついた――その時。


「――――!?」


 鼓膜が破れてもおかしくないほどの爆発音が、会場に轟いた。

 青白い光が炸裂すると共に、身体が凍えそうなほどの冷気を感じたところから、フレスの攻撃が炸裂したのだと分かった。

 ただでさえ崩壊真っ只中のステージ天井。

 龍の攻撃に耐えるはずもなく、天井の崩壊はますます激しくなっていく。 


「くっ……! 実は間に合ってなかったってか……!!」


 瓦礫は次々にウェイルの目の前に降り注ぐ。

 移動できる場所も徐々に少なくなり、このままでは真珠胎児どころか、ウェイルまでも瓦礫の下敷きになってしまう。生き埋めになるのも時間の問題だ。


(身を隠せるところもないし、闇雲に走っても瓦礫に当たる……!)


 さっと周囲を見渡しても瓦礫から身を守れるような場所はなく、落下する瓦礫の数が多すぎる。


「天井が……!!」


 ついに天井は轟音を立てながら、ステージ全体を完全に覆うようにして落下してきた。

 迫りゆく天井を見て、ウェイルの脳裏に『死』の一文字が過ぎり、そして覚悟した。

 ズンという鈍い音が土煙を上げながら、周囲に響き渡った。


「……何が起こったんだ……!?」


 しかし、ウェイルの覚悟とは裏腹に、いつまで経っても天井が落ちてくることはなかった。パラパラと小さな瓦礫が落ちてくるだけである。

 天井がどこかに引っかかったのか。

 いや、あれほどの質量の瓦礫が、ちょっと引っかかったくらいで止まることなど考えられない。


「どうして天井が止まっているんだ……!?」


 土煙で周囲の状況が見えなかったが、しばらくすると土煙が収まった。

 すると信じられない光景が、ウェイルの目に飛び込んでくる。

 それは敵であるはずの龍――サラマンドラが、ウェイルを守るように天井を支えている光景であった。


『……くっ、流石に重い……!! おい、糞鑑定士ッ!! さっさと逃げろッ!!』


 瓦礫の鋭い破片が突き刺さっているのか、サラマンドラの身体からは、燃えるように赤い鮮血が流れている。


「な、何故だ、サラー!? どうして敵である俺を庇っている!?」

『黙れ!! いいからさっさと逃げろって言ってるんだ!!』

「お、お前、その腕……!!」


 サラマンドラの腕の一部は凍りついていた。

 間違いなく、フレスベルグの一撃によるものだ。

 サラマンドラはフレスベルグの攻撃を、ステージ上のウェイルを庇う為に、その身を犠牲にしてまで受けきっていた。

 そこまでしてまでウェイルを庇った。敵であるはずのウェイルを、だ。

 ウェイルがステージから脱出した瞬間。

 サラマンドラは力尽きたのか、赤い光と共に少女の姿に戻り、ぱたりと倒れた。

 それと同時に支えていた天井も崩壊し、轟音と砂煙に飲み込まれていく。


「サラーッ!!」


 瓦礫に飲まれゆくサラーを見て、イレイズは血相を変えてステージへと走っていく。

 ダイヤの拳で瓦礫を退けて、発見したサラーを抱き抱えていた。


 ステージと反対側を見れば、青白い光を放ちながら、フレスベルグも少女の姿へと戻っていく。

 フレスはすぐさまウェイルの元へとやってきたが、その顔に安堵の表情は無い。


「ウェイル、大丈夫なの!?」

「ああ。この通り無傷だ」

「よ、よかったぁ……‼ ……ごめんなさい、ボク、攻撃を止めることが出来なかったよ……‼」


 フレスは目に涙を浮かべながら謝罪してきた。


「いや、いいんだ。フレスのせいじゃない」

「でも、でも、一歩間違えばウェイルが!」

「お前は俺を守ってくれただけだろ。気にするなよ」


 ウェイルは優しくフレスの頭を撫でてやった。


「そうだ、サラーは!? サラーはどうなったの!?」

「今はステージの傍にいる。見に行こう」


 ウェイルとフレスは、急いでイレイズの元へ駆け寄った。

 イレイズに抱き抱えられたサラーの姿は、全身傷だらけで、またいたる所に凍傷を負っていた。

 幸い意識はあるようで、イレイズにぎゅっと抱き着いている。


「サラー! よかった、意識はあるんだね! ならボクの力ですぐに治すよ!! ちょっとだけ待ってて‼」


 フレスは龍の生命力をサラーに分け与えるため、彼女の手を握ろうとしたのだが、


「フレス、私に触るな……っ!!」


 サラーはそれを拒否するように、フレスの手を力なく叩いた。


「でもサラー、凍傷が酷いんだよ!? 早く手当てしないと大変なことになるよ!」

「私は龍だ。これくらいの傷でどうにかなったりはしない! それに私とお前は敵同士なんだ! 馴れ合いはごめんだ!!」

「だけど――」

「フレス、サラーの言う通りだ。止めておけ」

「ウェイル!? どうしてそんなこと言うの!?」

「フレス。よく覚えておけ。俺達プロ鑑定士は任務のために、贋作士と交戦することは少なくない。その際に、敵に情けを掛けるな。情けを掛ければ、それは己の油断に繋がる。その油断は、味方の命を危険にさらす隙を作るということだ」

「サラーはそんなことしないよ!!」

「だが、敵だ。今はな」

「で、でも――」


 フレスはそれでも食い下がってきたが、ウェイルはそれを無視して、サラーへと向き直る。


「サラー。どうして俺を庇った?」

「…………」

「俺達は敵同士だ。お前は今そう言ったな。ならば庇う必要はなかったはずだ。何故庇った」


 イレイズの腕から降りて立つサラーは、小さい声で答えた。


「……別に」

「真面目に答えろ」


 しばらく睨み合う両者。

 ウェイルが引く気がないと悟ったのか、サラーはぷいっと顔を反らす。


「別にお前を助けたわけじゃない。……ただ……」

「ただ、なんだ?」

「……あのままだと真珠胎児が壊れると思った。真珠胎児が壊れてしまったら、イレイズはまた自分を責め続ける。……それが嫌だっただけだ」

「サラー……!!」


 その回答に感極まったのか、イレイズは目に涙を浮かべながら、愛おしそうにサラーの頬を撫でた。

 イレイズとサラーの過去にどんなことがあったのか、ウェイルは知らない。

 ただ一つ分かる事がある。

 それは二人が互いのことを心から信頼し合っているということ。

 イレイズは慈しむようにサラーの隣にそっと寄り添い、こちらへ向き直った。

 フレスが身構えようとしたが、ウェイルはそれを制する。

 イレイズからは、もう殺気を感じない。

 そしていつもと変わらぬ口調で、ウェイルにこう告げた。


「私達の負けです。真珠胎児はプロ鑑定士協会にお渡しいたします」


 イレイズの顔を見れば分かる。

 イレイズの表情は、まるで憑き物が取れたかのように晴れやかな表情だった。


「イレイズ、どうして『不完全』にいる? 何か理由があるのか?」


 最初は沈黙して何かを考えているようだったが、そのうち決意を固めたのか、少しずつ語り始めた。


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