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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
最終部 第十三章 神器都市フェルタリア過去編『ライラとフレス』
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フェルタリア王の三つの頼み


 書斎から出てきたとき、王は廊下の奥に、見知った者の遺体を見つけた。


「……ら、ライラ……! な、なんという姿に……!!」


 安らかな顔を浮かべるライラの遺体の前で、王は跪き、頭を下げた。


「すまぬ……!! ワシがお前を巻き込まねば、こういうことにはならずに済んだというのに……!!」


 一都市の王が、一人の平民に頭を下げて許しを請う姿は、シュラディンの瞳に涙を誘う。

 王は流れる大粒の涙をぬぐおうともせず、ただ彼女の顔を撫で、そして許しを請うように謝罪の言葉を口にしていた。


「……シュラディン、フレスはどうしたのだ……?」

「フレスは……」


 言葉に詰まる。

 どのようにフレスの最後を説明すれば良いか、シュラディンは迷っていた。


「……まさかフレスもか……!?」

「いえ、フレスは無事です。ただ、もう会うことは二度と叶わぬでしょう」

「一体どういうことだ!?」


 肩をグッと掴んでくる王に、シュラディンはもう隠すこともないと全てを伝えることにした。


「……フレスは、ライラの死を目の前で見たのです」

「……な、なんと惨いこと……!!」


 一心同体でもいわんばかりの仲良しだった二人。

 その片割れを失ったフレスの悲しみを思うと、息が苦しくなるほど胸が痛い。


「フレスは怒り狂って、アイリーンを殺そうと、己の魔力の全てを放出して攻撃を始めたのです。ですが、フレスは我を忘れ、己の限界を突破してしまった。その代償が、フレスを蝕み始めました」

「……フレスは、魔力を使い果たして倒れたというのか……?」

「このままではフレスの死は確実というところで、最後の手段に出たのです。フレスを――封印するという手段に」


 そう言って、シュラディンは丸めて持っていた絵画を王に見せつけた。


「この絵画こそ、フレスの封印されている絵画です」

「封印したのか……!! ならば水をかけてすぐに封印を解けば!」

「なりません。今封印を解いたならば、フレスは死んでしまいます」


 封印されている間は、フレスの身体は回復に向かう。

 だがそれにはかなりの時間が掛かる。一年、二年の話じゃない。


「フレスを元に戻すには、彼女を絵画の中で眠らせておかねばなりません。こうなったのも全て私の責任です」

「……いや、お前の責任じゃない。全てはワシの責任だ。すまなかった、シュラディン」


 淡々とシュラディンは語ってくれたが、そのシュラディンだって目の前でライラの死を見ているのだ。

 まるで娘のように二人を見ていたシュラディンのこと。

 心に傷を負っていないはずはない。

 誰がシュラディンを責めることが出来ようか。


 ――王は思う。


 このシュラディンに、全てを託すのが正解なのではないかと。

 フェルタリアの未来は、フェルタクスが奪われた時点で、すでに潰えている。


 だが、いつか。

 いつかフェルタリアを元の美しい都市に戻せる事が出来るのであれば。

 それを行えるのは自分じゃない。

 この目の前にいる、大陸最高の鑑定士だ。


「シュラディン。三つ頼みがある。ワシが貴様に頼む最後の頼みだ」

「陛下、最後だなんて、一体何を!?」

「預けたい物がある。一つ目の頼みはこれだ」


 王がポケットから取り出したのは、八枚のコイン。


「こいつを、それぞれバラバラに売りさばいてくれないか。二度と八枚全てが揃うことがないようにな。頼む」

「このコインは……神器ですか?」

「ああ。このコインは危険な代物なのだ。再び揃えば、また今日の様な悲劇が起こるやも知れん」

「しかと承りました」


 王より託された八枚のコイン。

 シュラディンはしっかりと握りしめ、そして胸ポケットに入れた。


「二つ目はそのフレスの絵画。フレスが完全に治るにはどれほど時間が掛かるか見当もつかない。万全でないうちに封印が解けない様、誰の目にもつかない場所へ保管しておいてくれ」

「はい。お任せを」


 水を掛けるだけで、フレスの封印は解除される。

 だから絶対にそうならない場所に保管する必要があり、シュラディンには、この絵の保管場所に相応しいところを知っている。


「最後の願いだ。ウェイルを連れて逃げてくれ。フェルタリアはすでに危険だ。滅び去る運命にあるやも知れん。だが希望は繋がなくてはならぬ。いつの日かフェルタリアを再建してくれるのは、ウェイルに違いない。ウェイルは聡明な子だ。必ずや成し遂げてくれる……! 頼むシュラディン! ウェイルを連れて行ってくれ!!」

「ウェイル殿を……」


 ウェイルは幼少の頃、養子として王に拾われた子だ。

 彼は自分の事をメルフィナの影武者だとは知らず、ずっと立派な王子であろうと振る舞ってきていた。

 メルフィナよりよっぽど王子の器である、聡明な子であった。

 王は、実の息子より、ウェイルを選んだ。

 このフェルタリアの未来を担う、我が息子として。


「ウェイルを――()()()()を、立派に育ててやってはくれまいか……!?」


 ここまで王に嘆願されて、シュラディンの返事は決まっている。


「お任せ下さい。陛下の息子ウェイルは、この私めが命に変えても立派な青年に育て上げて見せましょう」

「……ああ、心の底から感謝する」


 そこまで話したとき突如周囲が騒がしくなる。


「な、何だこれは!?」

「王宮の半分が凍り付いているぞ!?」


 先程のメルフィナやニーズヘッグ、フレスの攻防によって破壊し尽くされた王宮の異変に気づき、王宮に勤める者達はパニック状態に陥っていた。


「早くウェイルの所へいけ! そしてすぐにフェルタリアを脱出するのだ!」

「陛下はどうされるのです!?」

「ワシは残る。皆に避難誘導もせねばならぬし、何よりワシはこのフェルタリアの王なのだ。民を残して逃げるわけにはいかんよ」


 そう言って、王はすぐさま事の重要さを高らかに叫び、住民全員にフェルタリアからの退避命令を発令した。

 多くの者はその命令にあっけにとられ、呆然としていたが、王の一喝ですぐさま命令は伝達されていく。

 指示を出している最中、王は一瞬だけシュラディンと向き合った。

 そしてフッと笑顔を見せて一言。


「シュラディン。頼んだぞ」

「……はい……ッ!!」


 これがシュラディンの見る最後の王の姿となるだろう。

 シュラディンは精一杯の敬意を払って頭を下げて、王の覚悟を胸に刻み、一気にウェイルの元へと駆けたのだった。


 最後まで一度も王の方へ振り向かずに。


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