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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
最終部 第十三章 神器都市フェルタリア過去編『ライラとフレス』
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フェルタリア王最後の抵抗

「な、なんですの、このピアノは!? まるでピアノが私に求婚しているかのような、激しい魅力と引力を感じますわ!! なんて素晴らしいピアノなのかしら!! これはまさに私の為だけのピアノ!!」

「アイリーン! その曲を弾くのは止せ!! 元に戻れなくなるぞ!!」

「あらあら、陛下。今更そんな幼稚な脅しは通用しませんわ。不思議な話なのですけど、私、早くこれを演奏してみたくて堪らないのです!!」


 フェルタクスに座った直後、アイリーンは目を見開いて鍵盤を見つめていた。

 まだ何もしていないのに、目の下にうっすらクマが浮かぶ。

 彼女はすでに、フェルタクスの持つ魔の魅力に取り憑かれているようだった。


「アイリーンには無理だ! こいつを動かせるのは、真の天才、ゴルディアの血を引くライラだけだ!!」

「そのライラは、もうこの世にはいませんわ!! つまり今このフェルタリアで最も天才なのは、この私! 私以外にはいませんわ!!」

「お姉ちゃん、お父様の話なんて無視しちゃおうよ。お姉ちゃんが一番の天才なんだからさ! それよりもこの楽譜を見てよ」


 楽譜を見ると、比較的簡単な曲の様。

 これならば練習せずとも容易く演奏できる。


「どれどれ……? ……――」


 目で音符を追い、頭の中でメロディを奏でてみる。


「…………――――!!」


 その瞬間、アイリーンの意識は、どこか遠くへ吹き飛ばされた。


「……あらら、早々に入り込んじゃったかな?」


 メロディを口ずさむ彼女の瞳から光が消え去る。


「神の詩に、飲み込まれちゃったみたいだね」


 ライラが完成させたこの曲は、フェルタクスを制御する神の詩。

 普通の人間にはどんな音なのか、歌詞の意味すら判らぬ詩だ。

 ぶつぶつと歌詞を呟くアイリーンは、さながら壊れたオルゴールの様。

 誰に声を掛けられようとも、彼女はもう二度と反応することはないだろう。


 ――フェルタクスを操作する者は、心を失う。


 フェルタクスに選ばれた者以外が操作しようとすると、皆例外なくこうなる。

 この曲を奏でることが出来るのは、この曲を完成させた稀代の天才、ライラだけだ。

 メルフィナはそれを知っていたに違いにない。


「メルフィナ……、最初からアイリーンをこうして利用するために……!!」

「ライラを殺すのは神器を起動した後だと思ってたのに、アイリーンお姉ちゃんったら我慢できずに殺しちゃったみたいだからさ。責任はとってもらおうと思ってね!」

「ライラ以外が演奏すると、どうなってしまうか判らんぞ!!」

「大丈夫だって。楽譜はあるんだし、失敗したらどうなるのか見てみたいって気持ちもあるから!」

「自分自身も巻き込まれるぞ!?」

「心配しないで。まずくなったらすぐに逃げるよ。それよりも自分の心配をした方がいいよ?」


 クスクスと笑うメルフィナは、アイリーンにサインを送る。


「もうちょっと待ってね! 今から最終調整をするからね!」


 もしかしたら気づかれるかも知れない。

 このフェルタクスを起動するにあたって必要不可欠なパーツを、すでに王が抜き去っていることを。

 メルフィナが鼻歌混じりにフェルタクスの周囲を回り始めたとき、王の待ちわびたその足音は聞こえてきた。


「――陛下!!」

「シュラディン!! 来てくれたか!!」


 部屋に入るなり、シュラディンはこの場の現状をあらかた把握した。

 すぐさま王の元へと向かい、氷の剣を展開する。


「手をお出し下さい。枷を破壊します」

「……頼む」


 剣はわずか一振りで枷を破壊し、続けて足の枷も破壊した。


「陛下、メルフィナ殿を止めなくてよいのですか」


 メルフィナはシュラディンが来たことなど全く気にも止めていない。

 シュラディンの持つ神器が、自らの計画の邪魔になると全く思っていないからだ。


「シュラディン、奴らの事は放っておく。すぐさまここから抜け出よう」

「よいのですか!?」

「構わぬ。メルフィナの持つ神器の力は強大だ。シュラディンでも厳しい相手になる。それにここまでくれば、もはやフェルタクスの起動を止めることは不可能。だからこそやるべき事がある」

「……判りました。行きましょう」


 王に肩を貸して、二人は出口へと向かう。

 無論、その姿はメルフィナの目にも入った。

 今までは無視していたが、流石に不審に思ったのか声を掛けてくる。


「どこへ行くの? お父様」

「……もうフェルタクスは止められん。ならばフェルタクスが暴走したときに最低限、安全を確保せねばなるまい」

「安全な場所なんてあると思う? おそらくフェルタクスは、この都市ごと吹き飛ばすよ?」

「お前だって安全に脱出する術を持っているのだろう。ワシはこの都市の王だ。全ては助けられなくても、助けられる命が一つでもあるのならば、それに手を差し伸べねばならん」

「へぇ、王様って、大変だね。やっぱり僕、王位を辞退して良かったよ」

「……さらばだ」


 フェルタクスの起動は秒読みに入っている。

 フェルタクスがもし起動した場合、それはすぐに判る。

 世界の終末を知らせるライラの曲が、この都市中に鳴り響くからだ。

 ライラの楽譜を見るに、その曲の演奏時間は約十分。

 この演奏が全て終わったとき、フェルタクスは発動するはずだ。


 ――ただし、フェルタクスは発動したところで、結局は不発に終わるはずだ。


 何故なら発動を完成させるためのキーパーツを、王が握り込んでいるからだ。

 フェルタクスは暴走し、溢れ出た魔力はこの都市を破壊尽くさんとするだろう。

 だが、フェルタクスの完全起動よりは遙かにマシな程度の被害しか出ないはず。

 滅びるはアレクアテナ大陸ではなく、このフェルタリアだけでいい。

 それが『三種の神器』を預かってきた、フェルタリアの責任だ。


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