フェルタクスのピアノ鍵盤
「いやあ、流石はお父様! ここまで綺麗な状態で保存していただなんて!」
「……クッ……!!」
シュラディン達より一足先に書斎奥の隠し部屋へと向かったフェルタリア王。
しかし後から追いかけて来たメルフィナによって手足を拘束されてしまっていた。
メルフィナの持つ強力な神器の前に、文字通り手も足も出ず、床に転がされる羽目に。
「さーて。後はアイリーンお姉ちゃんを待つだけだね」
そう呟いて見上げたのは、喉から手が出るほど――それこそ夢にまで見続けたほど、星っていた『三種の神器』。
――『異次元反響砲フェルタクス』。
その神器の秘密は、あの天才画家『セルク=マルセーラ』が握るとされており、フェルタクスの制御方法はセルクの絵画に隠されていると、代々フェルタリア王家に伝わっている。
「セルクの絵画がないのに、お父様はよく使用方法を知ることが出来たね」
「ふん。ワシが手に入れた使用方法が正しいのかは判らんぞ。ワシら王族の仕事はただ、こいつの管理・制御だけだ。使用は仕事に含まれてはおらんのだからな」
「とか言っちゃってさ。お父様って、最近セルクの絵画を買い漁っていたでしょ? ほら、この前も『セルク・ラグナロク』だっけ? あの絵画を躍起になって探していたじゃない」
「結局見つけることは出来んかったがな。だからこそ、こいつの使用方法がワシの知る方法で正しいかどうか保証は出来ん」
「いいよいいよ。適当にすれば何とかなるって!」
あまりにも楽観的なメルフィナ。実に我が息子の性格らしい。
だが、その楽観する対象が『三種の神器』であることが、通常の神経ではない。
フェルタリア王は、密かに自分のポケットを気にする。
ポケットの中には、八枚のコイン。
この神器が真の力を発揮するために必要な魔力回路のパーツ、それがこの『サウンドコイン』だ。
(――ワシはどうなっても構わん。だが、メルフィナの好きなようにだけはさせん! このアレクアテナ大陸を守るために……!!)
そう思ったとき、コツコツと石畳の廊下を歩く音がする。
「あ、やっと来たね」
現れたのは、まるで夢でも見ているかのように恍惚な表情を浮かべたアイリーンだった。
そしてそのアイリーンのドレスは、真っ赤に染まっている。
「もしかして……殺っちゃった?」
「ええ、しっかりと殺してきたわよ? あああ、もう! あの感触ったら最高だったわ! 周囲の叫び声も、むせび泣く声も、讃美歌の様に美しかったわ!」
「お姉ちゃんってば悪趣味だねー」
しれっと殺害報告するアイリーン。
そのセリフに、王の顔が青ざめた。
「貴様、一体誰を殺したというのだ!!」
「あら、これはこれは陛下。こんな所にいらっしゃいましたのね?」
「答えろ! 貴様は一体誰を殺したというのだ!!」
「陛下のご命令とあらば、お答えするしかありませんわ。私は今しがた、あのゴミ屑をぶち殺してきたんですの。この私からピアノコンクールの最優秀賞という名誉を奪い、お父様の心まで奪い去った、あの糞憎たらしい娘――ライラを!!」
「――なっ……!?」
王は言葉を失った。
サーッと全身が凍り付いていくのが判る。
「ああ、突き刺した身体から剣に伝わる痙攣の振動、堪らなく気持ちいいものでしたわ!」
うっとりと血塗れの剣を見つめて、アイリーンは濡れた声でそんなことを言う。
つまりその剣についている血は、ライラの血ということ。
その事実を突き付けられ、王の冷たくなった血は、今度は沸騰したかのように熱くなる。
心の奥底からの怒鳴り声をあげた。
「き、き、貴様あああああッ!! 貴様がライラをやったというのかあああああああッ!!」
「だからそう言っていますわ。陛下、もしかして痴呆でも始まったのです? 早く王位をメルフィナにあげた方がよろしくてよ?」
わなわな怒りに震える王に対し、アイリーンはキャハハと笑っていた。
「だーかーらー、僕は王位なんていらないんだってば。影武者のウェイルにあげることになってるんだ。もっともこの都市がこれから先の未来があれば、だけどね! ま、話は後にしようか。アイリーンお姉ちゃん、こっちに来て」
メルフィナはアイリーンを呼び、フェルタクスへ登るよう様に促す。
「メルフィナ! まさかアイリーンに演奏させるつもりなんじゃなかろうな!?」
「お姉ちゃんに頼むつもりだってば。こんなに素晴らしい舞台に、お姉ちゃんが上がらないでどうするのさ。ね、お姉ちゃん?」
「ええ」
メルフィナに先導されてアイリーンはフェルタクスのコントローラーへと向かう。
フェルタクスの外観は、超巨大な大砲の様。
至る所に華美な装飾がなされ、金で出来たパイプが、フェルタクス全体に繋がっている。
そのコントローラーというのは、大砲の根元部分にある台座に仕込まれた、巨大なピアノ鍵盤。
「まるでパイプオルガンね」
「もう弾いてもらう曲はセットしているからね!」
「これ、筆跡を見るとライラが書いたもののように見えるけど」
「そうだね。でも、ライラが弾くよりもお姉ちゃんが弾く方が、僕は魅力的だと思うな」
「ほんと、貴方って可愛い子ね。いいわ。貴方の望み通り、弾いてあげる」
ピアノ鍵盤に指を一本置いてみる。
「ああああああ…………っ!!」
その瞬間、アイリーンの身体に酷く激しい快感が走った。




