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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
最終部 第十三章 神器都市フェルタリア過去編『ライラとフレス』
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封印

「う、ぐぐぐ、ぐあああああああああああ!!」


 魔力の限界を超えたフレスの身体に異変が生じ始めた。

 蒼く美しい翼が黒く変色し始めて、羽がボロボロと落ちていく。


「フレス! おい、フレス!! ど、どうすればいいんだ!?」


 フレスの命だけは、なんとしても助けなければ。

 フレスまで守れないとならば、亡くなったライラに申し訳がない。


「おい、そこの黒い龍の娘! 貴様は知っているんだろう!? どうすればフレスが助かるかを!!」

「……うん。知っているの……!!」


 ニーズヘッグは、落としてしまっていた一枚の絵を、シュラディンに見せた。


「龍はこうやって絵に封印されるの。封印された龍は、封印されている間、自分の身体を修復するの。だからフレスを、もう一度封印すればいいの……!!」

「封印すればフレスは助かるのか!?」

「助かる。だけど、完全じゃないの」

「完全じゃない? どういうことだ!?」

「身体は完全に治るの。でも、フレスの記憶には、多くの障害が残る。多くの記憶を……忘れてしまう。本当に、大切な、記憶は残ると思う……けど、そうじゃない記憶は、消える……!!」

「記憶が……!!」


 もしフレスがライラのことを忘れてしまったら。

 それはあまりにも悲しすぎることだ。

 苦しみのあまり血反吐を吐きながら転げ回るフレス。

 その様子を見るに、もう時間はあまり残されてはいない。


「……早く決めるの」

「すぐにやろう。大丈夫、フレスなら絶対に忘れない。ライラの事だけは……!!」


 心で繋がっていた二人の事。

 例えどれほど時間が経とうとも、フレスは絶対にライラの事を忘れない。忘れるわけがない。


 ――フレスにとって、ライラのこと以上に大切な記憶など、ないだろうから。


「やり方を教えてくれ」

「……判ったの。紙を用意して欲しいの」

「紙か……。 あれを使おう……!」


 シュラディンは廊下に掛かっていた王のコレクションである絵画を見つけた。


「絵画の裏を上にして床に置いて欲しいの」


 その絵画を額から取り出して、ニーズヘッグに言われたとおりに床に置く。

 すでにフレスは痛みのあまり失神している。

 やるなら今がチャンスであり、これ以上時間を先延ばしには出来ない。


「急がないと危ないの。すぐにするの」


 ニーズヘッグは、自身の指を噛んで血を滲ませた。


「足りない、足りない……!!」


 血が足りないのか、ニーズヘッグは噛んで出来た傷口を、さらに広げるようにガジガジと噛んでいく。

 ボタボタと血が溢れ出たのを見て、その血を使って絵の周りに魔法陣を描き始めた。


「急ぐの。絵画の上にフレスを乗せて、その上に手を置いて。これは人間でないと出来ないから」

「こ、こうか」

「フレスの上に手を置いて」


 失神しているフレスを抱きかかえて、優しく絵画の上に乗せ、フレスの鳩尾の上に手を置いた。


「……始めるの」


 ニーズヘッグは歌い始める。

 その歌詞は意味も分からぬ、神の詩。

 その詩に呼応するように、血の魔法陣は赤く輝いていく。


「……フレス、ごめんなさいなの……!!」

「フレス……!!」


 輝きはよりいっそう強くなる。

 最後は目も開けることが出来ぬほどの強い光が放たれた。

 

 光が止んだとき、そこにフレスの姿はない。

 代わりに現れたのは、龍の絵が描かれた絵画。

 蒼い龍が天に向かって飛翔する、美しい絵画だった。


「……ごめんなさいなの……フレス」


 封印を終えたニーズヘッグは、フレスのとは別の、元々持っていた絵画をグッと握りしめて、割れた大窓から身を乗り出す。


 そしてそのまま空へ身を投げた。


 その様子をシュラディンは、ただ黙って見送った。


 月の影に浮かぶ、大きな翼を、ただただ黙って見送ったのだった。



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