ライラ
足を負傷して立つことの出来ないライラの前に、レイピアを拾ったアイリーンが立ち、見下していた。
「ライラ、逃げて!! ねぇ、アイリーンさん、もう止めて!」
フレスが精一杯叫び、そう懇願するが、獲物を前にしたアイリーンの動きは止まることはなかった。
「――ライラ!!」
「……フレス……!!」
苦痛に歪む顔で、ライラは顔を上げ、力を振り絞ってペタリと座り込んだ。
「そろそろ準備はいいかしら?」
レイピアを掲げて、アイリーンはほくそ笑む。
「いいわ、その苦痛に歪む表情。貴方、最高よ?」
「……そうかな。ならボクも最後くらい、抗ってみるとするよ……!!」
「その足で動けないのに?」
「うん。だけどね、こうすることは出来る」
「――……ッ!!」
――ライラがした、最後の抵抗。
それは――笑顔を見せることだった。
「そういうこと。やっぱり貴方、最低」
アイリーンの表情は冷ややかに、その瞳は闇に染まっていく。
人を殺すことに、何ら躊躇のない顔だった。
だが、そんなアイリーンの顔を前にしても、ライラは笑顔を貫き続けた。
――それが彼女の出来る、精一杯の仕返しだから。
「――ライラ、お願い! 逃げて! もう止めて!!」
「――……フレス……」
アイリーンが剣を振りかぶった瞬間。
ライラはフレスの方をちらりと見て。
今までの中の最高の笑顔で、こう呟いた。
「――ありがとう。フレスの事――ずっと大好きだよ」
――時間が止まったかのように思えた。
走馬燈の様に、これまでライラと過ごした幸せな日々が、脳内で再生されていた。
共に作曲した日々、共に苦しんだ日々、共に喜びを分かち合った日々。
ピアノコンクールに出て、二人で最優秀賞を祝って。
そして走馬燈は終わりを告げて、現実と夢が重なったとき。
――ライラの身体は、床に伏した。
「あ、あああ、ああああああああああああああッ!! ライラあああああああああああああああああッ!!」
「ライラ嬢ちゃんッ!!」
ライラの身体には、一本のレイピアが突き刺さり。
辺りはライラから流れた血で染まり。
その姿を見たアイリーンの高笑いだけが、この場を支配していた。
――フェルタリアの誇る音楽の天才であり、フレスにとって初めて出来た人間の親友、ライラは――
――その短い生涯を、ここに終えた。




