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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
最終部 第十三章 神器都市フェルタリア過去編『ライラとフレス』
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聞きたくなかったその声


「さ、再開しましょう!」

「……ライラ嬢ちゃん、ワシに何かあったら、すぐに逃げてくれ……!!」

「おじさん、どうしてそんな事を……!?」

「言うことを聞きなさい!」


 アイリーンの全身から放たれる、異様な魔力。


 ――見ただけで判る。あの仮面の力は異常だと。


 いくらシュラディンにはフレスの作りし神器(ベルグファング)があるとはいえ、あの仮面と対等に渡り合うのは厳しいだろう。

 ライラを守りながら戦うのは、非常に困難だ。


「ライラ嬢ちゃん、しっかりしろ! この現状だ。君を守る余裕があるか判らない! だから自分の足で立って、そして逃げろ! いいな!」

「そんなこと言われたって……!!」


 どれだけ踏ん張っても、足腰に力が入らず立ち上がることすら出来ない。


「大丈夫だ。君は強い子だから」

「ボクが強い……?」

「ずっと痛みに耐えて、作曲していただろう。あの痛みに比べたら、今回は大したことはないと、そう思えるんじゃないか?」

「…………! そうだ、そうだね……!!」


(あの時の痛みに比べたら……!!)


 そう心に念じると、徐々に身体に力が戻ってきた気がした。

 ふるふると震える足をひっぱたいて、無理矢理でも全身を奮い立たせる。

 ゆっくりではあるが、ライラは立ち上がることが出来た。

 一度立つことが出来れば、後は自然と身体は動いた。


「よし、嬢ちゃん、逃げなさい!」

「う、うん……!」

「逃がすわけがないでしょう!」


 当然逃すつもりのないアイリーンは、ライラへ向かって剣を振り下ろす。

 だが、それはシュラディンの氷の剣が防いだ。


「貴様の相手はワシだ」

「ちぃっ!!」

「早く逃げなさい! フレス! ライラを逃がすぞ! いいな!?」


 逆側でニーズヘッグと魔力のぶつけ合いをしていたフレスに、そう叫んだ。


「うん! ここはすぐに片づけて、またライラを守るよ! だからここは任せて逃げて!」

「フレス、おじさん……!!」


 二人の言葉に、ライラは目に涙を溜ながら、タッタと走り始めた。


「絶対に嬢ちゃんのことは守る!!」


 行きつく間もなく繰り出される槍とレイピアの連撃を氷の剣で捌きながら、シュラディンはライラの逃げる時間を稼いでいた。


 仮に今自分が倒されたら、ライラの命はない。

 フレスはニーズヘッグとの戦闘中であり、ライラを助ける余裕はない。

 対するニーズヘッグにも余裕はないため、ニーズヘッグがライラを襲う心配はない。

 だから自分が 

 フレスはニーズヘッグとの戦闘で余裕は一切ない。無論、それはニーズヘッグも同じだ。

 ここで自分がアイリーンさえ抑えていれば、ライラは無事に逃げ切れる。


 ――シュラディンに油断があったとすれば、一瞬そう思ってしまったことだ。


「――逃がさないって、言ったわよね?」


 敵の神器の特性を全く知らなかったが故の、致命的な判断ミス。

 目の前に見えていた槍とレイピアだけに集中していたシュラディンの油断が、それを招いた。

 シュラディンが力を込めて剣を大きく振るい、それによりアイリーンが思わずレイピアを手放した――その瞬間。

 シュラディンは、一瞬安堵してしまった。


 ――その瞬間こそ、アイリーンが狙っていた瞬間だとも知らずに。


「愚かね、貴方」


 アイリーンがそう呟いた瞬間である。


「この槍は――伸縮自在なのよ!!」


 彼女の右手にある銀色の槍が、シュラディンの脇をかすめて、一直線にライラの背中へと伸びていった。




「――ひぎっ……!!」




 聞きたくなかったその声が、二人の鼓膜に響く。


「ら、ライラ嬢ちゃん!?」


「ライラ!?」


 一体何が起こったのか、果たしてライラは無事なのか。

 二人は一瞬戦いから目をそらして、ライラの無事を確認した。


 ――結果的に言えばライラは無事だった。


 銀の槍は、ライラの背中には当たらず、代わりに足に当たっていた。

 しかし、槍はライラの足を貫いており、ライラはもう立てないほどの重症を負っていた。

 ドクドクと血が溢れ、倒れたライラの足を濡らしていく。


「嬢ちゃん、足を!?」

「ライラ!!」


 うつぶせに倒れるライラの姿を見て、フレスは動揺して魔力の集中が乱れた。

 その隙をニーズヘッグは見逃さない。


「――捕まえたの……!!」


 ニーズヘッグがペタリと両手を床に付けると、フレスとシュラディンの周囲には手の形をした闇の霧が現れた。


「な、なんだこれは……!?」


 その手は容赦なく二人を握り込む。

 圧迫死する程の力は無いが拘束力は強く、二人は身動き一つ取れなくなってしまう。


「は、離して、ニーちゃん!! ライラが、ライラが!!」


 ばたばたとフレスはもがいたが、闇の手はぴくりとも動じることはない。

 それはシュラディンも同様だった。


「――さあ、これで終りね」


 いつの間にか仮面を外し、元の姿に戻っていたアイリーンが、ライラの前に立っていた。


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