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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
最終部 第十三章 神器都市フェルタリア過去編『ライラとフレス』
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鋼鉄の処女―アイアン・メイデン―

「ニーズヘッグ! どうしてこんな事をしてるの!?」

「……目的があるの。……それに、これは全部フレスの為。さぁ、そいつと離れて。一緒にいくの」

「ボクの為!? ボクの為に、ボクらを攻撃するの!?」


 ニーズヘッグは瘴気は放出し続けている。

 より濃く、より深い闇を纏って、ニーズヘッグはフレスに手を向けてきた。


「もう止めなよ! 一体ボクらが何をしたの!?」

「フレスは何もしていない。したのは、そこの人間」

「ライラだって何もしてないよ!!」

「いいや、親友を奪った。フレスは私だけの親友なの……!!」

「ニーちゃん、何を言ってるの!?」

「その呼び方、嬉しいの……。やっぱりフレスは親友なの」

「ボクだって君とは友達だと思ってる! なのにどうして!?」


 氷の力を強くして、激しい瘴気に耐え続けるフレス。

 ニーズヘッグにいくら静止を呼び掛けても、よく分からない返事ばかりで一向に魔力を緩めてくれない。


「何度も言ってるの。そこの娘が、私からフレスを奪っている! もう親友を奪われるのは嫌なの!!」


 ニーズヘッグの語尾が強くなり、そのに比例して、瘴気の力も強くなっていく。


「おかしいよ、ニーちゃん! 君は少しおかしくなってる!」

「……多分、そうだと、思うの……。自分でも、判ってる……!!」

「……なら止めなよ! ボクはニーちゃんのこと、大切なお友達だと思ってる! そしてライラもボクの親友なんだ! 初めて出来た、人間の親友なんだ!」

「……人間……!!」


 その一言で、ニーズヘッグの雰囲気が変わったように思えた。

 一瞬に、ニーズヘッグの魔力が霧散した。同時にフレスも魔力の放出を止める。


「……ニーズヘッグ……?」


 様子がおかしい。

 ニーズヘッグの身体が、小刻みに震えているのが目に取れた。

 数秒の沈黙の後、ニーズヘッグが口を開く。


「……騙されてるの……」

「……え……?」

「フレスは騙されてるの。相手は人間。信じられるわけがない!」

「確かにボクだって最初はそう思ってたさ! でも!」

「フレスは騙されてるの!! あの人間はフレスをまた騙して、利用し、酷いことをするつもりなの!」


 急に大きな声で叫んだかと思うと、今度は先程よりも濃い瘴気がニーズヘッグの周囲を渦巻き始めた。


「あの人間からフレスを取り戻す。人間に毒されてはいけないの!」


 ニーズヘッグの目は、すでに龍の瞳になっていた。

 彼女の言いたいことは判る。

 フレスもニーズヘッグも、過去に人間から酷い目に遭わされた。

 だけど、人間の全てが醜く残酷なものでないことは、フレスはこのフェルタリアでよく学んだ。


「ボクは毒されてなんかいない。ライラはボクの親友なんだ。もし君がライラを傷つけようとするならば、ボクは君を許さない」

「……てんでお話にならないの……。大丈夫、フレスは絶対に助けるから。フレスを絶対連れて帰るの!」


 呆れた目をこちらへ向けてくる辺り、もう説得は不可能だろう。

 フレスも冷気を纏い始める。


「全部、飲み込んであげるの……!!」

「こっちこそ、全部凍てつかせてあげるから!!」


 二体の龍は練り上げた魔力を同時に放出し、今度は少し大きめな爆発が起きた。





 ――●○●○●○――





「フレス、シュラディンおじさん……!!」


 戦闘に慣れているはずもないライラは、どうして良いのか判らず、フレスの近くで腰を抜かしてペタリと座っていた。

 そこへやってくる一人の女。


「アハハハハハハハ!! ああ、この時をどれほど待ち望んだことかしら! 私から全てを奪い去った糞ビッチ娘を、この手でぶち殺す至高の瞬間を!!」


 高笑いをあげながら、右手にレイピアを持ったアイリーンがライラを見下していた。


「ごきげんよう、ライラさん? 調子はいかがかしら?」

「……また君なの、アイリーンさん?」

「ええ。私は貴方を殺すためにここへやってきたのですもの。貴方は罪深き咎人。貴族であるこの私の品位を貶め、我が家の名前に糞を塗りつけた不届き者。死罪では生ぬるい程の罪状よ? 楽に死ねるとは思わない事ね?」

「勝手な言い分だ。ボクの楽譜を奪っておいて、自分の実力不足でコンクールの優勝を逃し、ただの嫉妬でボク達を傷つけている。自分自身おかしいことをしていると気づかないの?」

「おかしい? 全く、口の利き方がなっていませんわね。貴族の言うことは全て正しい。つまり私が正しいと思い行動したことは、全て正義になるのです。その辺、よく理解なさった方がよろしいわ。これだから平民なんかと会話したくないの。馬鹿が移ってしまいますもの」

「馬鹿っていうのは、君の事を指す言葉だね。馬鹿の見本としてよく覚えておいてあげる。いいからもうボクらの前から消えて。そしてもう二度とボクらの前に姿を現さないで。でないと、ボク、君のこと一生許さないから」

「あらら、口ではそんな強気な事を言っても、身体は正直ですわね。震えていますわよ」


 正直こうやって会話をしているだけでも、ライラの口はカラッカラに渇いている。

 背後では壮絶なる魔力のぶつかり合いが行われ、自分にはレイピアが向けられているのだ。

 今までの人生で一番勇気を奮って、アイリーンと会話をしていた。


「腰が抜けて立てないのでしょう?」

「そ、そんなこと!」

「丁度良いわ。少しずつ切り刻むのにはね」


「――ひっ……!!」


 ヒュンッと振られたレイピアが風を切る。

 切っ先がかすめそうになり、ライラは思わず目を瞑った。


「あらあら、良い表情ですわぁ……! ゾクゾクします」

「もう止めてよ! 早く消えて!」

「それは出来ない注文です。何なら後ろのお友達に助けを求めたらどうかしら? もっとも今はとっても忙しくて、貴方に構っている余裕などないでしょうけど」


 フレスはニーズヘッグとの戦いでライラに構う余裕などない。

 自分自身を守る武器もなく、腰も抜けたまま。

 絶体絶命とはまさにこのことだと、ライラはサーッと冷えていく身体で理解していた。


「まずはその耳から切り落としてあげる!」


 アイリーンがレイピアを振りかざした、その時。

 ライラを庇うように、シュラディンが立ち塞がると、アイリーンのレイピアを氷の剣で受け止めた。


「――シュラディン!」

「怖い目に遭わせて申し訳ない、ライラ嬢ちゃん!」


 ニッと笑顔を向けてライラを安心させる。


「あらあら、またもお邪魔が入ってしまいましたね。メルフィナってば、私を置いて先に行っちゃうだなんて、レディに対して失礼だわ。まだまだお子様なのね。私の華麗なる殺戮ショーを見ていけば良かったですのに」

「殺戮ショー? 残念ながらそれは開催中止だ。代わりに行われるのは、君に対しての裁判だ」

「私の裁判? それは面白いことを言う殿方ね」


 アイリーンは、貴族のたしなみとして護身術を学んでいる。

 そのため彼女の剣捌きは、下手な兵士よりも筋が良い。

 シュラディンは兵士ではなく鑑定士だ。

 無論鑑定士たる者、武術の嗜みはあるが、戦いが本業というわけではない。

 アイリーンに対して有利な立ち回りが出来るとは言いがたい。

 お互いの剣が何度もぶつかり合って、その度に火花の代わりに砕けた氷の破片が飛ぶ。


「中々やりますわね。でもそろそろ終わりにしましょうか」


 一度距離を取ったアイリーン。

 そこでアイリーンが取り出したのは、鋼色の仮面。


「そちらばかり神器を使うのは卑怯でしょう? 私もメルフィナから一つ貰ったのですよ。この前壊された神器の代わりに、この仮面をね」

仮面型神器(マスクド・クラス)か……!! 厄介な代物を……!!」

「これで対等ね」


 アイリーンは重苦しい雰囲気を放つ仮面を、その顔にそっと付けた。

 その刹那、魔力反応の光が発生したかと思うと、彼女の身体は銀色の甲冑に包まれていく。


「メルフィナはこの仮面を『鋼鉄の十字軍(アイアン・クルセイド)』と呼んでいましたわね。でもそんな名前は私の趣味ではありません。そうね、私が名前を付けるとしたら、こうかしら――『鋼鉄の処女(アイアン・メイデン)』!! あら、私にぴったりじゃない!」


 『鋼鉄の処女(アイアン・メイデン)』によって甲冑を身に着けたアイリーンは、元々持っていたレイピアを左手に、甲冑から伸びた槍を右手に持ち、二刀流のように構えた。


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