王家に語り継がれる秘密
アイリーンとの接触後、シュラディン達は王宮へ急いだ。
連中の会話から察するに、すぐさま何らかの行動を起こしてくるとは考えにくいが、メルフィナが何か企んでいることは間違いない。
すぐさまフェルタリア王へ、メルフィナのことを伝えねばならない。
贋作流通を食い止めるために厳戒態勢となっている王宮だ。
入城手続きには相当な時間を要するだろう。許可が下りる頃には日が暮れているかも知れない。
そこでシュラディンは、王族や貴族が頻繁に用いる隠し通路を使って、王城へと入城することにした。
「いいの? こんなところ通っちゃってさ。怒られちゃうよ?」
「今はとにかく時間がない。メルフィナ様が現れたことを陛下に伝えねばならん。いちいち入城許可なぞ取っていられるか! 怒られても構わん! 全て終わった後なら、何枚だろうと始末書を書いてやる!」
「わぁ! おじさん、かっこいい!」
「漢気だねぇ」
「……ま、まあな」
ライラとフレスが感心していたが、一度王宮に入りさえすれば、シュラディンが怪しまれることなど決してない。
普段から王宮内を行き来しているわけだし、王からも信頼されている。
たとえ入場許可なく城内をうろついていようとも、さほど問題にはならないはずだ。
妙に二人の目が輝いていることに、少々後ろめたさを覚えたが、どちらにしてもルールを破らなければならないのは事実なので、その誉め言葉は素直に受け取っておくことにした。
三人は隠し通路を抜けて王宮へ入ると、急ぎ足で王の私室へと向かった。
「陛下!! いらっしゃいますか!?」
「誰だ!?」
部屋の前で警備にあたる兵士を無視して、勢いよく扉を開けて中に入ると、突然の登場に驚いて立ち上がったフェルタリア王の姿があった。
すぐにシュラディンの前には兵士達による槍の壁が出来るが、そんなことはお構いなしに王へと叫ぶ。
「陛下!! メルフィナ様が現れましたぞ!!」
「――なんだと!? ……それは本当か!? 詳しく話してみよ」
王がさっと手を上げると、兵士達は槍を引っ込めて下がっていく。
「メルフィナ様にいくつか質問を投げてみたのですが――」
シュラディンは、先程の出来事を包み隠さず王に話した。
「認めたのだな? 我が息子は『不完全』と関わっていると」
「その通りです。残念ですが、彼本人がイエスと肯定しました……!」
「そうか……」
例え予想はしていたとはいえ、重すぎる現実を知りショックだったのか、王は力なく椅子に腰を下ろした。
「あやつの目的は聞いたか……?」
「ええ。もっとも、あまり詳しい内容ではありませぬが」
「構わぬ、話してみよ」
「自分の目的は『神器』であると、ただそれだけを言っていました」
「やはり神器か……。あのうつけめ、本気で『フェルタクス』を狙って……!! 背後に『不完全』までつけて、そこまでして手に入れたいか……!!」
「ねぇ、『フェルタクス』って、一体何?」
王の呟きの中に、聞き慣れない単語があった。
話の流れ的に、『フェルタクス』というのは神器の名前なのだろう。
「陛下、二人には話しましょう。ライラには知る権利がありますし、フレスは何か知っているかも知れません」
「そうだな……。ライラ、フレス。よく聞いて欲しい。今回の件は、もうお前達と無関係ではない」
「ボク達に関係が?」
確かに命を狙われた以上、無関係とは言いにくいかも知れないが、その神器について二人は当然何も知らない。
フェルタクスという名前すらも、今初めて聞いたばかりだ。
どのように関係しているのか、それを王は説明し始めた。
「これからの話は他言無用にして欲しい。これは我が王家にのみ代々語り継がれる秘密なのだ。我が息子メルフィナにも、その影であるウェイルにも、一切明かしていない秘密なのだ」
そう前置きをして、二人が頷いたのを見た後、王はゆっくり話し出す。
「――『フェルタクス』。正しい名前を『異次元反響砲フェルタクス』といい、このアレクアテナ大陸に伝わる『三種の神器』の一つなのだ」




