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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
第一部 第二章 競売都市マリアステル編 『贋作士と違法品』
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クルパーカー族


 アムステリアがルシャブテと死闘を繰り広げていた、丁度その時。


「腕がダイヤモンドになっているだと……!? 何かの神器の力か!?」

「いえいえ、そういうわけではないのですよ。私の身体は生まれつき体内の炭素含有量が常人より遥かに多いのです。クルパーカー族、といえば理解できますか?」

「クルパーカー族……!! その名が出てきたのなら、なるほど、納得だ」


「我々のことをご存知ですか。まあ、プロの鑑定士さんにとっては常識でしたね」

「ダイヤモンドは炭素。理屈も理解できる。だが腕までダイヤにすることが出来るとは……!!」


 ――クルパーカー族。


 アレクアテナ大陸内部にある都市『部族都市クルパーカー』に住まう少数民族である。

 彼らは生まれつき常人より体内の炭素を多く持っている。

 その性質は日常生活を送る上では、常人となんら変わりはない。

 しかし彼らが死に、火葬された時、その性質は色濃く現れる。

 強い炎により天へと召され後に残るのは、通常の骨ではなく、ダイヤモンドと化した骨なのだ。

 磨いてもいないのに光り輝くその遺骨を、彼らは代々大切にしている。

 頭部は特に炭素成分が濃く、火葬後にはダイヤモンドで出来た頭蓋骨が残りやすい。この遺骨を『ダイヤモンドヘッド』と呼ぶ。

 そのことをウェイルは当然知識としては持っているが、まさか骨以外の身体の一部をダイヤ化させることが出来る者がいるだなんて聞いたことがなかった。


「実践して見せましょうか」


 イレイズはダイヤ化していないもう片方の生身の腕を横に上げると、舞台裏に隠れていたサラーに声を合図を送った。


「サラー、頼みます」

「死ぬほど熱いぞ。いいのか?」

「今更でしょう。さあ、お願いします」


 イレイズに頼まれ、サラーの手に大きな炎の塊を生み出した。


「ハァ!!」


 掛け声と共にその炎の塊を、躊躇い無くその炎をイレイズへ投げつける。

 次の瞬間、イレイズの腕は灼熱の炎に包まれた。


「うぐぐぐぐぐぐぐ……!!」

「な、何をやっているんだ、お前ら!!」

「いいから、見ていてください!」


 ウェイルは攻撃することも忘れ、無謀ともいえるその行動に思わず見入ってしまった。少し引いているとも言える。

 炎を浴びているイレイズは、当然だが顔を苦痛で歪めていた。


「こんなことをしてダイヤになるってのか!? 無茶だ!?」

「……ええ、無茶でもなんでもしないといけないのでね……! さあ、見てください……! うぐぐぐ……っ!!」


 炎と煙が消え去った時、彼の左腕が光を放ち始める。

 炎で焼けたはずの腕がダイヤモンドと化していたのだった。


「同胞の中でも、私はとりわけ炭素を多く持っているようでして。このように身体を高温で熱すると、その部分はダイヤモンド状になってしまうのですよ。美しいでしょう? 磨いてもいないのに、輝いているんですよ。さあ、続きをしましょうか」


 にわかには信じられない光景であった。

 確かにクルパーカー族なら身体をダイヤモンドにすることは理論上可能である。

 だがそのためには、超高圧と灼熱の業火を受け入れなければならない。 

 肌焦げる痛み、その後の火傷のダメージは尋常ではないはずだ。

 それなのにも関わらず、イレイズは冷や汗を垂らしつつもどこか余裕な表情を浮かべている。


「…………そんな、馬鹿な……!!」

「……ふぅ、ど、どうです? 美しいでしょう……?」


 イレイズは輝く拳を見せ付けるように振り上げる。

 ダイヤ化したイレイズの拳が、空を切りウェイルに迫る。

 無論氷の刃で受け止めはしたが、その拳は余りにも重く、その衝撃で身体の芯までズシンと響く。

 それほどの一撃を受けながら反撃する余裕はなく、ガードすることが精一杯だ。

 イレイズは構わずダイヤの拳を連打。

 防戦一方のウェイルは、だんだんと押され、壁際まで追い詰められた。


「クソ、一発一発が重すぎるぞ……!! 受けるだけで精一杯だ……!!」

「結構耐えますね、ウェイルさん。でも守ってばかりでは勝てませんよ?」


 イレイズの言う通りだ。そんなことは百も承知。


(どこを攻撃すればいい? 奴の身体はダイヤなのだ。剣は通用しそうにない……!!)


「ウェイル、ボクが今、助けるよ!」


 武装兵を一通り片付けたフレスが、こちらに向かって走ってきた。

 フレスが手に光を集め、水分を凝結させてツララを精製させる。

 そのツララをイレイズの方へ向けて放った。


「食らえええええいっ!!」

「――させない」


 フレスの氷を遮るように、サラーが現れた。

 イレイズに傍へと駆け寄ると、手から炎の壁を作り出す。

 ツララは炎の壁に防がれて、イレイズへ届く前に溶けて蒸発していった。


「くっ、もう一度だよ!」

「させないと言ったはずだ、フレス!」

「――えっ?」


 突如フレスの足元から大きな炎柱が立ち上ると、そのままフレスを包み込んだ。


「熱いなぁ、もう!!」


 フレスはすぐさま水の球を作りだして炎を相殺したが、その隙に目の前まで来ていたサラーは更に大きい炎を手に纏い、フレスの前に立ち塞がる。


「あれくらいじゃやはりダメか。次はもっと巨大な炎で行くぞ」

「サラー!! 退いて! どうしても退かないのならボク、容赦しないよ!」

「容赦しない、か。それはこっちのセリフだ!!」


 お互いが戦闘態勢に入ると、龍の魔力が弾け飛ぶ。

 二人の身体が徐々に光り始めたかと思うと、竜巻のような突風が吹き荒れた。

 フレスの周囲には凍えるような冷気、サラーの周囲には灼熱の炎が渦巻き、両者を包み込む。


「怪我したくなければ消えろ、フレス」

「それはボクのセリフだよ! いくよ、サラー!!」

「容赦はしない!!」


 フレスからは巨大な氷の塊、サラーからは燃え盛る炎が繰り出され、強大な力が轟音を立てて衝突した。

 氷と炎の爆発により、周囲には爆風と水蒸気が巻き起こる。

 屋内全体を揺るがす衝撃に、パラパラと天井の埃が落ちてきた。


「魔力は衰えていないようだな、フレス」

「そっちこそ!」


 爆発で生じた水蒸気が、二人の姿を隠した。


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