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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
最終部 第十三章 神器都市フェルタリア過去編『ライラとフレス』
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隠し部屋の楽譜

 フェルタリア王の後についていくこと数分。


「ここだ」


 王族専用の書斎へ入り、とある本棚の前まで案内される。


「ここの本にゴルディアのことが書いてあるの?」

「いや、そうではない」


 三人の目の前で、王はおもむろに鍵を取り出すと、それを本棚の奥へと突っ込んだ。

 するとカチリという音がして、本棚は小刻みに揺れ始める。

 ゴゴゴと音を立てながら、本棚は横にスライドしていった。


「わぁ! 隠し扉だよ!」

「フレスってば、あまり大声で叫んじゃダメでしょ! 隠し扉って、つまりここは秘密の部屋への入口ってことなんだよ!? 誰かにばれたらマズイでしょ!?」

「そうだね、ついうっかり! でもライラだって、声大きいよ!」

「そりゃ、ボクだってちょっと驚いたというか!」

「……二人共、もう少し声のボリュームを抑えんか」


 初めて本格的な隠し扉と言うものを見て、ライラもフレスも興奮気味だった。


「入ってくれ」


 王に促され、ライラから先に入っていく。

 暗い石畳の隠し通路を進んでいくと、唐突に広い空間が現れた。


「暗くてよく見えない」

「灯りをともそうか」


 王は壁際によると、マッチを取り出して、一本擦って火をつけた。

 それを壁に引かれてある石で出来たレールの中に落とす。

 すると火はレールに沿って燃え伸びていき、その火はこの空間全体的に明るくしていった。


「うっひゃあ! 綺麗!」

「ねぇ、これってどういう仕組み?」

「このレールには油が流れていてな。火をつけると油に沿って火が広がるのだ」

「危なくないの? 火はちゃんと消せる? 密閉空間だし空気なくなりそう」

「問題ない。流れている油の量は多くないし、このレールには一部神器が埋められてあるからな。その神器が火と空気を調整している。そもそもただ油が燃えているだけでは、ここまで明るくはならない」


 酸素を操る神器が、この部屋全体の酸素供給と火の管理をしてくれているとのことだ。


「さて、ライラよ。こちらへ来てくれ」


 殺風景な広間であるが、広間の奥には、なにやら大きな祭壇があった。


「こいつを見てくれないか?」


 王が指を差したのは、祭壇に置いてある巨大な石盤。


「……読めないけど。大きすぎるし文字も判らない」

「文字は読めなくても構わん。すでに解読してある。問題はこの楽譜だ」


 この石版には、文章の他にも楽譜らしき模様が刻まれていた。


「楽譜というには程遠いくらいボロボロだね」


 しかしながら石板の損傷は酷く、所々欠けている。このままでは曲にはならないだろう。


「ここに記されている楽譜を、どうか譜面に起こしてくれないか? 頼みというのは、この楽譜の修復のことだ」

「この楽譜を、ボクが? 別にいいけどさ、欠けてるところが多すぎて、完全復元は難しいと思うよ?」

「欠けている部分は、ライラの感性のままに補ってくれたらよい」

「何言ってるの!? そんなこと出来るわけないでしょ!? 元の曲になるわけがないよ!」

「いや出来る。ライラならな。ゴルディアの血を引き、そしてコンクールであのアドリブを繰り広げたお前さんならな」


 王はそう断言したが、ライラに自信はない。


「あのコンクールは奇跡だったんだってば! 楽譜を盗まれちゃって、気分も落ちちゃって、精神的にまともじゃなかった状態で、追い詰められて、投げやりになって! 本当に適当に弾いただけなんだから! それが偶然いい感じの曲になったってだけだよ! 同じ事はもう二度と出来ないんだから!」

「お前は偶然と言うが、それは違う。お前は適当に弾いただけかも知れない。それが運良くいい曲になったっていうのは、確かにそうだろう。だがな、全くのド素人がアドリブで適当に弾いたところで、それはやっぱりド素人の作品だ。真の天才とは、奏で調べる全ての音を、神曲へと変えることの出来る者のことだ。あのコンクールでそれが出来たのは、ライラ。お前ただ一人だけだった」


 ――運が良い。偶然だ。一言でそう片付けるのは容易い。

 だが運や偶然で成功できる者は、皆その運が絡んでくるタイミングを掴むために、常に努力している。

 『運も実力の内』というのは、運の良いタイミングを生かせる準備をしてきた者だけが言える言葉だ。

 ライラは、その準備をずっと続け、そして栄光を掴んだ。

 天性の才能と、努力の賜物。それがあの曲だ。


「そんな、褒めすぎだってば」

「頼む、ライラ。この曲はフェルタリア王家にとって――いや、この大陸にとって非常に重要な曲なのだ。本当であれば王族以外にこの広間の存在を伝えることだって大問題なのだ」

「そんな秘密をボクらに教えていいの!?」

「あのコンクールで最優秀賞を取った者に、この曲を任せようと思っていた。まあ最初からライラしかいないとは思っていたのだがな。頼む、再びこの曲を蘇らせてくれ。それが出来るのはライラしかいない。やってはくれないか?」

「えっと、う~ん……」


 ライラは少し困った表情をして、フレスへ助けを求める視線を送る。

 だが、そのフレスはというと。


「いいじゃない、ライラ! ボクも手伝うから、やってみようよ!」

「えー、助けてくれないの!?」

「ライラなら出来るから助けてあげない! それに王様がここまでお願いしているんだよ? いつもお世話になっているし、助けてあげたいな!」

「うー……」


 ライラはしばらく目を瞑って考えていたが。


「……判ったよ。フレスが手伝ってくれるなら、やるよ」

「本当か! それは助かる!!」

「この曲に歌詞はあるの?」

「ここに書かれている文章がそうなのだ。これを翻訳した文章を、後でシュラディンに届けさせる」

「判った。じゃ、とりあえず読めるだけの楽譜を写して帰るね」


 ライラはペンと紙を持つと、すらすらと書き写し始めた。

 ライラの作曲する工程を、フレスはいつも見ている。

 流れるように淀みなくペンを走らせるライラの姿は、いつも見ても格好いい。


「終わり! うん、曲自体はとても短いから、すぐ出来ると思う。フレス、帰ろっか!」

「うん! 王様! 帰るからね」

「書斎から出るときは、こっそりと頼むぞ」

「任せてよ!」


 フレスとライラは仲良く、そして約束通りコッソリと部屋から出て行った。


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