大音楽家ゴルディアの血を継ぐ者
「ふいー、なんだか王宮へ遊びに来るのって、久々だね!」
「だねー。それにしてもなんなんだろう、王ってば」
「さてな。ワシも連れてくるようにしか言われておらん」
フレスとライラ、そしてシュラディンは、王の命令を受けて王宮へとやってきていた。
王の私室の扉を、乱暴にノックして中に入る。
「来てくれたか、ライラよ」
「むぅ、ボクもいるんだけど!」
「ああ、すまぬフレス。二人とも、よく来てくれた。まあ座ってくれ」
座り心地抜群のソファーに腰を沈める二人に、王は言う。
「ライラよ。まずは最優秀賞おめでとう。素晴らしい演奏だった」
「ありがと。でも、最優秀賞をとれたのは奇跡なんだよ? 楽譜は盗まれるし、代わりの曲は完成しなかったしさ。仕方ないからフレスの適当に書いた曲、使っちゃったんだもん」
「ボク、適当なんかじゃないもん! かなり本気で書いたもん!」
「判ってるってば。フレスのおかげで最優秀賞とれたの! 感謝してるんだから! それにしても、まさか楽譜を盗んだのが貴族の御嬢様だったなんて、びっくりしたよ。まあ、全部のお詫びって事で新しいピアノ買ってもらっちゃったから結果オーライかなぁ?」
「ライラさぁ、ちょっとのんびりすぎるよ? 下手したら命が危なかったんだからさ」
「う~ん。ま、助かったし、もういいよ。謝ってもらったしね」
「それについてはあのコンクールの主催者としても謝罪する。気づけなくて悪かった」
「別にいいって。考え方を変えれば、そのおかげで最優秀賞だったわけだからさ」
王は謝罪のために頭を下げたが、ライラが頭を上げてと頼んでも、どうしてかその体勢のままでいた。
あまりにも頭を下げる時間が長かったので、シュラディンも不審に思う。
「陛下、一体どうされました? 頭をお上げ下さい」
「いや、このままでよい。これからライラに頼みがあるのだから」
「頼み?」
何なんだろうと、ライラとフレスは互いに顔を見合わす。
「実はこのコンクールにライラを出場させたのには裏がある」
「……まあ、そうかもね」
ライラは当初頑なに拒否していた。
平民の自分が、帰属を差し置いて目立つことは、あまり好ましくないと思っていたからだ。
事実、今回だって無駄に目立ったことで嫉妬を買い、直接被害を受けている。
「その裏って、なに?」
「…………」
王も迷っているのだろうか。
ライラが聞き返しても、しばらく返事はなかった。
「陛下。私とフレスがお邪魔であれば、しばらく外に出ていますが」
「いやシュラディン、貴方にも聞いていて欲しいのだ。プロ鑑定士としての意見が欲しい」
「……え!? おじさんってプロ鑑定士なの!?」
「鑑定士? なにそれ?」
「本当にプロ鑑定士なの!? ただの一兵士だったんじゃないの!?」
驚くライラと、意味も分からずキョトンとするフレスの瞳を向けられて、シュラディンも思わず苦笑する。
「ワシは自分自身を兵士だと名乗ったかな? 君らを護衛するとは言ったが」
「ちょっと、王! どうしてプロ鑑定士を護衛だなんて、つまらない任務に就かせてるの!? 勿体ないよ!?」
「シュラディン以上に信頼できる人物はいないのだよ。プロ鑑定士を信頼しない人間はいないだろう? それにつまらないとはいうが、フレスのことは最高機密なのだ。最も信頼できる人物でないと、逆に護衛は任せられんよ」
フレスが龍であるという事実が、外部に漏れるのは非常にまずい。
龍という伝説の神獣が実在しているというだけでも混乱は起こるだろうし、龍を敵視している教会との軋轢も生む。
この呑気な顔をしているフレスが争いの火種になるとは、彼女の事を知っている者から言わせれば何とも笑いたくなるような話だが――……実際には全く笑えない。
「判ったよ。話を戻してくれる? 裏ってなに?」
「実は、お前さんの正体を探っておってな。此度のコンクールで確信したのだ。ライラは間違いなく、あの伝説の作曲家『ゴルディア』の子孫なのだと」
「……えーと、今さら?」
「やはり知っておったのか」
「当然でしょ。遠い昔のお爺ちゃんって聞いているの。それが何か関係するの?」
「そうだ。あのゴルディアの血を継ぐ者であれば、この曲を受け継ぐべきだと思ったのだ。何せこの曲はゴルディアが作曲していると言われているのだから」
そう言って王は、部屋の金庫から一本の鍵を取り出した。
「ついてきてくれ。フレスもシュラディンもな」




