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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
第一部 第二章 競売都市マリアステル編 『贋作士と違法品』
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贋作士vs怪物

「――久しぶりねぇ、ルシャブテ。貴方、全然変わってないじゃない」


 逃げ惑う参加者を一通り気絶させたアムステリアは、司会をしていた赤髪の男に話しかけた。

 彼の名はルシャブテ。

 サスデルセルでの悪魔の噂事件の首謀者、神父バルハーを惨殺した張本人である。


「アムステリアか。お前は随分変わったな。まさかあんな貧弱そうな鑑定士に骨抜きにされるなんてな」


 ルシャブテは参加者の心臓を抉り取った時のように爪を伸ばし、それをアムステリアの方へ向けた。


「昔のお前はいい女だった。いい感じにトチ狂っていやがった。自分に心酔しきった《《異端》》な奴だったよ。だが今はどうだ? 無駄に光り輝くアメジストのような瞳をしやがって。堕ちたもんだ」

「いいじゃない、アメジスト。私、大好きよ? それにお生憎様。私は今でも酔っているの。それはもうベロンベロンにね。これも全てウェイルのおかげ。彼のおかげで今の自分が大好きよ」

「そうか。なら俺の知っているアムステリアは死んだようだ。ついでだ。本当に死んでおけよ」

「酷いことを言うわね。()()()()()()()()()()人間に対して」


 言うが早いか、アムステリアはルシャブテに蹴り掛かった。

 ルシャブテもそれを読んでいたのかスルリと避ける。

 

「蹴りはまだ死んでないようだな。それにしてもどういう意味だ? 怪物にでもなったつもりてか?」

「怪物ね。確かにそう呼ばれてもおかしくはないわね」

「ふざけてんのか……?」


 蹴りを避けたルシャブテは、バランスを崩すことなく体勢を整えると、素早くアムステリアの胸元へ飛び込んでくる。

 それを見て後ろへステップを踏んだが、アムステリアの予想以上に爪の一閃が速く、躱しきれずに服が裂け、白い肌が露わになった。


「あらあら、せっかくのドレスが台無しだわ」

「そうか。それは済まなかったな。お詫びに代わりのドレスを用意してやるよ」


 そのまま勢いをつけて、ルシャブテは爪を振りかざして攻め続けてくる。

 アムステリアは今避けたことによってバランスを崩してしまい、一瞬身動きをとることが出来なかった。

 その隙を狙ってルシャブテはさらに踏み込むと、剣のような爪をアムステリアの心臓目掛けて突き出した。


「――死に装束、なんてのはどうだ!?」


 爪が、深々と胸に突き刺さる。

 アムステリアの口に血が溢れたが、それでも彼女の強気な笑みは消えない。


「そ、それはありがたいわね……! でも、遠慮するわ……!」

「そうか? お似合いだと思うぞ?」


 ルシャブテが力を込め、そのまま心臓を抜き出そうとする。

 だがルシャブテは、そこで違和感を覚えることになった。


「……なんだと……!? 何故だ!? どうしてないんだ!? ――心臓はどこにある!?」

「あ~ら、ばれちゃったわね」


 胸に爪が刺さったまま、アムステリアは口に溜まった血をペッと吐き出すと、淡々と答えた。


「……私の心臓はね。こんなところにはないのよ。貴方は私の事を怪物だって言ったけど、それは比喩じゃないの。本当に怪物なのだから……!!」


 突き刺さった爪をぐっと握りしめると、力任せに爪をへし折った。


「お、俺の爪を……!?」

「よくも私のドレスを引き裂いてくれたわね。お礼にこの蹴りをくれてやるわ!」

「ふぐっ!?」


 アムステリアの蹴りが腹部に打ち込まれると、ルシャブテは苦痛で悲鳴を上げた。

 その様子を見てアムステリアはニヤリと唇を歪める。


「あ~ら、いい声で鳴くじゃないの……!」


 ルシャブテはダメージで膝を折ったが、アムステリアは倒れることを許さない。

 胸倉を掴んで無理やり立たせると、無慈悲に拳を打ち続けた。

 無論アムステリアの胸には爪が突き刺さったままの状態でだ。


「フフ、スカートまで貴方の血で汚れちゃったわね。お・し・お・き、しないとね!」


 胸に爪が刺さっていることなんて忘れているかのように、アムステリアの残虐な暴力を振るい続けた。

 弱くなるどころか、先程より激しく容赦ない拳と蹴りをルシャブテに浴びせ続ける。


「……ふぐっ!!」

「ああ、いい声……。その声、もっともっと出しなさい!」

「うがぁぁ!! ク、クソォ、どういうことなんだ!? 胸に爪が刺さっているんだぞ……!?」


 かなり蹴りを浴びせているが、まだ口を開く余裕があるルシャブテ。

 というのも、アムステリアはわざと急所を外して蹴っていた。

 簡単に倒すつもりはなく、最初から遊ぶつもりだったのだ。


「そろそろ飽きてきたわね……。もうお終いにしましょう。いい声のお礼に命だけは助けてあげる」

「……何故だ……!? 何故この俺が、こんな女に……!!」

「簡単な話よ。貴方より私の方が強かった。そして――」


 ――メキョ……。


 目では追えないほど速いアムステリアの蹴りが、ルシャブテの急所へ炸裂し、肝が凍り付きそうなくらい恐ろしい、生々しい音が響いた。


「あがぁ…………っ!!」


 息も絶え絶えに悶え苦しむルシャブテをあざ笑うかのように、アムステリアは言い放った。


「――私が本物の怪物で、まだトチ狂っていた。ただそれだけよ」


 ルシャブテはそのまま崩れ落ちた。

 アムステリアは刺さっている残りの爪を引き抜く。

 倒れたルシャブテを見下しながらアムステリアは呟く。


「どうしよう、このドレス、高かったのに。……くっ、結構足に来ているわね」


 今の戦いでアムステリアも消耗していたようで、足に力が入らず震えていた。


「戦闘は久々だったし、魔力を無為に消耗しちゃったわね……」


 胸を押さえて、肩で息をする。


「ほんと、この体も不便ね……。少し休まないと……。後は頼むわよ、ウェイル……!!」


 アムステリアが息を整えて目を閉じた時、するりと体から力が抜け、その場に崩れ落ちた。


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