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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
最終部 第十三章 神器都市フェルタリア過去編『ライラとフレス』
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賊の強襲

 時刻はすでに夜の十時。


「時間も時間だし、そろそろお開きにしようか」

「そうだな。フレス嬢ちゃんはすでに夢の中だ」

「フレスだって疲れていたんだよ。ずっとボクの作曲に付き合ってくれたしさ」

「作曲をしたライラ嬢ちゃんが一番疲れているだろう。ここの片付けはやっておくから、早く寝た方がいい」

「お客さんにそんなことさせるわけにはいかないよ」

「気にするな。年甲斐もなく楽しかったよ。これくらい手伝わせてくれ」


 ライラは先程からずっと眠たそうに目をこすっていた。

 手の痛みに耐えながら作曲を続けていたライラだ。疲労はピークのはず。

 せめて片付けくらいはさせてくれと、シュラディンはライラに頼んだ。


「皿はお水につけておいてね」

「承知した」


 皿を重ねて、キッチンへ運んだ時。


「……気配……?」


 ――微かだが、人の気配を覚えた。

 耳を澄ますと、外から物音も聞こえてくる。

 何やら不穏な気配に、シュラディンの顔色は変わった。


(こんな時間に人の家の周辺をうろつく奴に、まともな奴はいない)


 窓を開けて周囲を確認してみると、周辺の草木が揺れていた。


「……誰かがここを通った。あるいはまだ潜んでいるということか……!」


 どうしてここが狙われるのか、その理由を考えると、すぐさま答えが導き出された。

 急いで居間に戻るシュラディン。


「ライラ! ライラ嬢ちゃん!? フレス!!」

「どうしたの? おじさん」

「この家の周りに、誰かいるぞ……!」

「……え?」

「一人か二人とか、そんな数じゃない! もっとだ!」

「な、なんで!?」

「……おそらく、フレスを狙っている……!!」

 

 フレスが龍であることは絶対の秘密。

 それがもし外に漏れたなら、一体どうなるか。その危険性をシュラディンは熟知していた。

 フレスの噂を聞きつけて、フレスの力を狙う者がこの家に刺客を送り込んだ。

 そう考えれば説明はつく。


「フレス、起きて! フレス!!」

「う、うみゅう……まだ眠いよぉ……」

「フレス!! 起きなさい!! ボクたち、なんだか誰かに狙われているみたいなの!! ピンチなんだよ! 起きてってば!」

「――!? ライラ嬢ちゃん、伏せろ!」


 窓の奥からキラリとしたものが一瞬見え、シュラディンは叫んだ。

 直後、その窓ガラスが割れると同時に、部屋に何かが投げ込まれた。


「爆弾か!? いや、煙……!? 煙幕か!?」


 部屋は白い煙で充満していく。


「ライラ嬢ちゃん! ワシから離れるな!」

「フレスは!?」

「無事だ! ワシの下にいる。早く起こしてくれ!」

「フレス! フレス!」

「う、うみゅう……」

「フレス、さっさと起きないか!!」

「……仕方ない、()()()を使うよ」


 ライラはフレスの耳元で、こう呟いた。


「――くまのまるやき、とってもおいしそう!」


「――ハッ!? くま!? どこ!? くまどこ!?」


 あれだけ眠いとグダグダグズグズしていたのにも関わらず、『くまのまるやき』の一言だけでバッチリ覚醒したフレスである。


「くまはまるやきは!?」

「効果抜群だね」

「……単純な子だな……」


 ――『くまのまるやき』という魔法の言葉、覚えておこうと思った。


「あれ? 焼きすぎて部屋中煙まみれ!?」

「フレス、落ち着いて聞いて! 誰か分かんないけど、家が狙われたんだ! 多分フレスを奪いに!!」

「ボクを!?」

「フレス、ライラ嬢ちゃんを守ってくれ。ワシは曲者を止める! その隙に逃げろ!!」


 シュラディンがそう叫んだ直後、賊は家の中に侵入してきた。

 窓ガラスが割れて、それを踏んだ時のガシャガシャとした音が強く響いていた。


「目的のモノだけ探せ! 邪魔する者がいれば多少痛めつけても構わん! だが殺すことは御法度だ!」

「了解!」


 賊の声を聞いて、シュラディンは剣を抜く。


「了解、じゃないわい!」


 賊は散り散りとなって、襲い掛かってくるようだ。

 この煙で賊の場所が分からない以上、フレスを狙ってきた賊を叩きのめす方が手っ取り早い。

 シュラディンは煙の中で影を捉えて、こちらへと向かってきた賊へと剣を振りかぶる。

 だが相手もそれを判っていたのか、さっと身を躱した後、すぐさま剣で反撃してくる。


「おかしいな、この家には女の子が二人だけだと聞いたのだが……。そうか、たまに王宮からやってくる使いの者か」

「ここのこと、十分調べているのか……!」


 シュラディンの剣が、相手の剣とぶつかり合った。


「何が目的だ!?」

「言えるわけがないだろう? そっちだって言えないようなことをしているんだし、お互い様だ」

「こっちが、言えないような事……?」

「そうさ。まあ、そこのライラとかいう嬢ちゃんに聞いてみればいい」

「ボク!? ボクが一体何したって言うのさ!」

「ふん、よく言うよ。この犯罪者め」


 蔑むような目をライラに向ける敵。


「犯罪者はお前らの方だろうよ!」

「おっと、王宮の兵隊さんは黙ってな。そしてついでにその剣を下げな。左を見てみろ」

「なっ……!?」


 煙で気づかなかったが、シュラディンの首筋には、銀色に光る剣が当てられていた。


「大人しくしてろ、馬鹿が」

「くそ……!!」


 シュラディンは仕方なく剣を手から落とす。


「はいはい、良く出来ましたぁ!!」

「ぐっ!?」


 剣の柄で、後頭部を思いっきり殴られたシュラディンは、そのまま崩れ落ちる。


「おじさん!?」


 倒れたシュラディンを踏みつけながら、敵は恐怖で腰を抜かしているライラを見下してくる。


「ライラさんよぉ、テメーみたいな屑は音楽なんてやっちゃいけないんだ。さっさと音楽から手を引いて罪を償う方が自分の為だと思うぜ?」

「な、何を……! ボクが何をしたって……!!」

「この期に及んでまだ認めないかぁ。まあいいさ。屑はどこまで行っても屑ってことだな」


 ハハハと高笑いする目の前の二人組。


「ボク、本当に何もしてないのに……!!」


 突然襲われて屑呼ばわり。ライラは悔しくて肩と声を震わせた。


 ――声を震わせていたのは、もう一人いた。


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