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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
第一部 第二章 競売都市マリアステル編 『贋作士と違法品』
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混乱の裏オークション

 通路の奥へ進んでいくと、大きな扉が現れた。

 扉の向こう側からは、わいわいとした賑わいを感じ取れる。


「……この先だね」

「アムステリア、出来る限りオークション参加者は逃がすな。いくらサグマール達が後ろについているとはいえ、な」

「了解。任せておいて」


 正直な話、サグマール達だけでは心許ない。

 アムステリアも意図を察して頷いた。


「フレスは俺に続け」

「うん。援護するよ!」

「気を引き締めろよ!!」


 ウェイルは短剣を抜いて、扉を蹴破る。

 そして広がる大ホールに向けて、高らかに宣言した。


「プロ鑑定士協会だ!! ここにいる全員、違法品取引禁止法違反で逮捕する!!」


 ウェイルの声が会場全体に響き渡ると、会場は騒然となった。

 何事かと参加者達は、一斉にウェイルへ注目する。

 どうやら会場では、丁度オークションが開始したところだったようだ。

 今回の目玉商品である違法品『真珠胎児パール・ベイビー』が壇上に上げられ、参加者達は各々自分の番号札を上げて入札を行っていた。

 なんとも不気味で不愉快な光景だ。怒りすら覚える。

 だが今はそんな感傷に浸っている場合でない。

 すぐさま会場を警護していた武装兵が襲い掛かってきた。


「師匠には指一本触れさせないよ! はぁっ!!」


 続いて部屋に入ったフレスが、両手を前に突き出す。

 その両手からは、魔力光と共に大きなツララが出現し、武装兵目掛けて撃ち放たれた。

 ウェイルも短剣を氷の刃にして敵を牽制し、隙を見てフレスと一緒にホールの中央――真珠胎児のある壇上へと駆け出した。

 出品者は今なお商品の近くにいるに違いない。

 突然の乱入者に参加者の間に驚愕と同様が走る。

 至る所から『治安局に捕まるのはマズイ!』、『急いで逃げろ!!』と、悲鳴が上がる。

 もちろん彼らを逃がすつもりはない。

 予想通り参加者らは束になって入り口へ殺到する。

 そこには仁王立ちしたアムステリアが待ち構えていた。


「さあさあ、お客さん。こちらへどう――ぞっ!!」


 アムステリア自慢の蹴りが、出口へ群がる参加者らに満遍なく浴びせられた。

 その蹴りは狙いすましたかのように――いや、実際狙っているのだろうが――必ず後頭部へとヒットし、次々と気絶した者で山を作っていた。


『ご参加の皆様、どうか落ち着いて下さいませ。侵入者は我々が必ず排除いたします。どうか席へとお戻りください』


 オークションの司会だろうか、淡々とした事務的な声が会場に響き渡る。

 しかし、そんなアナウンスの効果も薄く、逃げ惑う参加者の混乱はさらに広がっていく。

 逃げ出す参加者らはアムステリアに、武装兵やボディガード達はウェイルとフレスにやられていった。

 極限まで混乱した状況に、一部の参加者の不満が爆発したようで、司会の男に詰め寄ってクレームを入れていた。


「どういうことだ!? 安全で確実に違法品が手に入るというから来たというのに!!」

「運営側は一体何をしているんだ!? 早く何とかしろ!! 侵入者はたったの三人なんだぞ!?」

「我々が逮捕されたらどう責任を取るんだ!! お前、聞いているのか!?」


(何とも醜い奴らだ。違法品に関わる以上、安全が保障されるはずもないだろうに……!)


 それなのにも関わらず、自分達が危なくなったら即他人の責任。馬鹿らしいにもほどがある。

 心底呆れて何も言えない。

 だが次の瞬間、呆れは驚愕へと変わった。

 参加者の断末魔が聞こえてきたからだ。


「うぎゃあああああっ!!」

「ごぶ……っ!!」


 明らかに人間が自然に発する音ではない、肉や骨が潰れるときの生臭い音が響き渡る。

 その音の中心には一人の男が立っていた。

 参加者から詰め寄られていた、司会の男だった。


「こっちが下手に出ているからって、いい気になりやがって。お前ら全員、今ここで殺してやろうか?」

「ぐがっ……」


 司会の男は、言いがかりをつけてきた参加者の首を掴むと、目と心臓を抉り出していた。

 見ると男の爪は剣のように伸びている。何らかの神器だろう。

 それを用いて、参加者らを次々と襲い、同様に目や心臓を抉っていた。


「あの殺し方は……まさか!?」


 サグマールは言っていた。

 ラルガ教会の神父バルハーは、目と心臓をえぐられて殺されたと――


 ――そして犯人は『不完全』に違いないと。


「あの男――『不完全』!!」


 ウェイルの声は怒気に染まる。気がつけば身体が勝手に動いていた。

 あの司会こそ、イレイズの言っていた贋作士の仲間だ。


「『不完全』……!! ついに、ついに見つけたぞ……っ!!」


 頭に血が昇ったウェイルは、参加者をかきわけて走り出すと、氷の刃を司会の男へ振り下ろした。

 だがその男は瞬き一つせず、逃げることすらしようとはしない。

 まるで自分が狙われている自覚がないかのように。

 ウェイル渾身の一振り。


「――なっ!?」


 しかし氷の刃はその者に届かなかった。

 間違いなく敵は氷の刃の間合いに入ったはずだ。

 直撃する寸前で、氷の剣は何者かに止められた。

 それも剣や盾ではなく――なんと素手で。


「――大丈夫かい? ルシャブテ」

「ああ、問題ない。こいつか。サスデルセルでバルハーを摘発した鑑定士ってのは」


 ルシャブテと呼ばれた男がこちらに含みある笑みを向けた。

 そして剣を素手で止めた男は――。


「――イレイズ!!」

「あなたもしつこいですね、ウェイルさん」


 やはりイレイズはここにいた。

 出来れば戦いたくはない。でもお互いに分かっていた。

 戦わざるを得ないことに。


「この男は私が相手をします。君は――」

「あの女だろ? あの蹴り、アムステリアだな。久々に楽しくなりそうだ」


 このルシャブテという男、狂っている。

 人を殺したばかりだというのに、そのことへの感情がまるでない。常日頃から殺しに慣れている証拠だ。

 イレイズはいつもこんな奴と一緒に居るのだろうか。


「アムステリア、気をつけろ!! そっちに危ない男が行った!」

「他人を気遣う余裕があるとは、流石はウェイルさんですね?」


 イレイズの拳が顔をかすった。

 その隙に氷の刃で殴ってきた腕を切りつけた。 

 しかしその感触は、肉を切り裂いた際に感じる生々しいものとは程遠いものだった。

 またも生じた音に違和感を覚えつつ一度刃を引き、再度切り込む。

 だがまたしても素手で弾かれた。


「くっ……、どういうことだ!! なぜ素手相手に弾かれる!?」


 たとえ腕に鉄が仕込んであったとしても、神器である氷の刃なら切れるはずだ。

 だがどうしてかイレイズの腕は硬すぎて刃が弾かれてしまう。

 腕を切り飛ばす勢いで切りつけているはずであるのに。


「クソ! ダイヤモンドでも入っているのか!?」


 冗談みたいな例えだが、それを聞いたイレイズは、


「そうですよ? ダイヤモンドです。よく分かりましたね?」


 と、すまし顔で答えた。


「ふざけるな、そんなに大きいダイヤがあるわけがないだろう!!」

「それがあるんですよ。ここに、ね」


 丁度ウェイルの剣撃がイレイズの服の袖を切り裂いた。イレイズの腕が露わになる。


「ば、馬鹿な……」

「お分かり頂けましたか? これはダイヤモンドです。普通のダイヤモンドとは違う、特別製ですけどね」


 イレイズの腕には煌くダイヤモンドが付いていた。


 いやそうじゃない。これは――。


 ――イレイズの腕自体がダイヤモンドになっていたのだ。


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