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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
最終部 第十三章 神器都市フェルタリア過去編『ライラとフレス』
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闇の策略は蜜の味


「お父様は私の気持ちを理解してくださらない。ならば私自らでやるしかありませんわ……!!」


 アイリーンは自室に戻ると、今度のコンクールでどうすれば自分が最優秀賞になれるか、必死に考えていた。


「ピアノの腕…………で負ける気はないけど、それでも当日の調子次第。こればかりはどうしようもない。……とすれば、他には……」


 フェルタリア・ピアノコンクールの募集要項をしっかりと吟味してみる。


「演奏は自分、作曲も自分……。そういえばまだ作曲が途中でしたわね……。はぁ……」


 半分白紙の楽譜を見て、つい嘆息してしまう。


「後十日……。こんな気持ちで曲を仕上げるなんて、難しいわ……」


 真っ白な楽譜を触りながら、期限までにどうやって仕上げようか考えた、その時だった。


「…………難しい……? そうですわ……!!」


 ――アイリーンは閃いた

 この状況を最も容易く、最も効率的に乗り切る、最もあくどい方法を。

 何という悪い知恵なのだろうか。

 清純で真面目に生きてきた自分が、こんなにも黒い考えを思いつくとは、自分自身でも驚いていた。

 これを行動に起こそうとするだけでも手が震える。


「私はなんとしても勝たなければならないの……!! 全ては我が家の為に……!!」


 そう口にすると、自然と震えが止まっていく。


「大丈夫。証拠は絶対に残さないし、コンクールさえ終わったら、後はうやむやにすればいいだけ……!!」


 アイリーンは、すぐさまメイドを呼びつけて、とある人物を招集していた。





 ――●○●○●○――





 ――招集の一時間後。


「アイリーンお嬢様。ガルーカスです」

「入って」

「失礼いたします。何か緊急の用件があるとか」


 現れたのは、屈強な身体に髭を蓄えた四十代くらいの中年男性。

 胸にはフェルタリア王家より与えられし勲章が光る。


「ええ。個人的な用件なのですが、よろしいでしょうか」

「無論でございます。このガルーカスを筆頭に我らが親衛隊全員、ラグリーゼ家へ忠誠を誓っておりますので。如何な願いも叶えてみせましょう」


 ガルーカスという男は、アイリーンの前で跪いた。

 彼はラグリーゼ家が独自に組織している親衛隊の隊長をしている。

 普段は王宮の兵士として勤めているが、ラグリーゼ家の招集があればすぐさま応じる、アイリーンにとって便利な組織だ。


「お嬢様。我々が来たからには、万事解決です」

「ガルーカスが来てくれて、私はとても安心しました。早速お願いを聞いてもらいたいのですが――」


 アイリーンは、そのお願いというのをガルーカスに話した。

 先程閃いた、蜜の味がする闇の策略。


「――なるほど。お嬢様の楽曲を盗み出した不届き者がいると。そやつから楽譜を取り戻したいと」

「ええ、その通りよ。犯人は平民の娘。名はライラ」

「お嬢様が心血注いだ楽曲を盗むとは、絶対に許せませぬ。このガルーカス、怒りで我を忘れそうです。お父上はこのことを?」

「いえ、お父様は何も知らないわ。ねぇ、ガルーカス、このことはお父様には秘密にしておいてくださらないかしら? お父様に無駄な心労を掛けたくないのです。全て秘密裏に動いてくださらない?」

「お嬢様がそこまでお父上の事を心配なさっているのです。私がその努力を潰すような事がどうして出来ましょう。絶対に秘密は漏らしませぬ。全て我々だけで任務を遂行いたします」


 アイリーンに同情し、ガルーカスは恭しく頭を下げた。


「ありがとう、ガルーカス。出来れば曲を取り返すのは、コンクールの二日前にして欲しいの」

「それは何故です? お嬢様には練習の時間が必要でしょう? 今すぐにでも取り戻さねば」

「私なら二日あれば大丈夫です。それよりも私、少々怒っていまして。曲を奪われたとき、どうしていいか分からなくなりました。その苦しみを、罪人達にも味わって貰いたいのです。私としては今回のことを治安局に通報するつもりはありません。私は貴族。平民を守る立場ですから、権力を振りかざすような事を良しと思わないのです。ですが私とて人間。このままでは悔しすぎます。ですので、私からのささやかな仕返し、ということでお願いできませんか?」

 

 アイリーンの話に、ガルーカスはうんうんと頷いている。信じ切っているに違いない。


 ――どうしよう、笑いを堪えるのが大変です……!!


 いざ口から嘘を吐き始めると、その嘘は洪水の様に溢れ出す。

 しかもその嘘は、アイリーンの言葉だけでいえば、とても誠実で潔いもの。

 反対する者などどこにもいない。この目の前で跪くガルーカスであろうとも。


「お嬢様。私感銘を受けました。お嬢様の罪人をも許す懐の深さ、貴族としての誇り、全て私の心を振るわせます。承知いたしました。このガルーカス、命に代えても、アイリーンお嬢様の願い、叶えてみせます」

「ありがとう、ガルーカス」


 感動しているのか、ガルーカスの礼はいつも以上に深かった。

 ガルーカスが部屋から出て行った後、アイリーンは大声で高笑いをあげた。


「ぷ、ぷぷぷ、……アーーーッハッハッハッハッハッハッ!!」


 抱腹絶倒とはこのことだ。腹がよじれるほどアイリーンは笑ってしまった。


「何これ、楽しい!! 癖になっちゃいそう!! ……ライラ、覚悟しておいてね……!! 私の前に立ち塞がったこと、後悔させてあげるわ! アーーーハッハッハッハッハッハッハッハッ!!」


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