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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
最終部 第十三章 神器都市フェルタリア過去編『ライラとフレス』
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天才の奏でる旋律に


 立食パーティーの余興として、ライラによるピアノの演奏が行われる。

 ドレス姿で現れたライラの姿に、参加者の目は釘付けとなっていた。

 王がお抱えのデザイナーに命じてコーディネートさせたドレスに身を包んだライラは、普段の茶目っ気のある雰囲気は完全に消え去り、金色の美しい髪を際立たせて気品を醸し出す、さながら王妃の様な姿であった。


「あれは誰だ?」

「どこかのお嬢様かしら?」

「少しツンとした表情もまた、可愛らしいですわ」

「王が招待した演奏者かな?」


 誰もが口々にライラのことを噂していた。

 誰の記憶にもない、その気高き姿は、貴族達の興味を一気にかっさらっていた。

 そんなライラの姿を見て、腹立たしく思っている者がいる。


「お父様、誰ですの、あの方は……!?」


 それは先程演奏を断れらた、ラグリーゼ侯爵の娘アイリーンである。


「王のお呼びしたピアノ演奏者……。王が一目置くほどの、()()の娘……。一体どれほどの実力者なのか」

「……平民の娘が、ピアノなんて弾けるのかしら……?」

「アイリーン。ピアノの実力に貴族も平民もない。王が評価するほどの娘だ。しっかり聞きなさい」

「お、お父様……、判りました……」


(ふ、ふん! どうせ大したことはないわ。私より優れている奏者なんて、このフェルタリアにいるはずもない……! そんな私のピアノより優先するなんて、許せないわ……!!)


 未だ実力が未知数のライラに、静かな注目が集まった。

 ライラはゆっくりと椅子に腰を掛けると、鍵盤の上にそっと指を置く。


 

 ――静寂がこの場を支配する中、くわっとライラの目が見開かれた。



 ライラの指先が、ゆっくりとしなやかに、最初の鍵盤を叩く。



 ――その瞬間であった。



「「「――――――――――!?!?!?」」」



 誰もが、一瞬息をすることを忘れた。


 演奏が始まって、わずか十秒の出来事。


 パリーンと、最初のガラスの割れる音が響き、それに続いて三カ所から、同じくガラスの割れる音が鳴り響く。

 音の正体はワイングラスである。

 手にしていたワイングラスを、演奏の迫力に圧倒されて、つい落としてしまっていたのだ。

 しかし一同は、ガラスの音など全く耳には入らない。

 この場にいる全員の耳は、ただひたすらに、貪るように、ライラの奏でる音を必死に耳に詰め込んでいた。

 演奏から一分が過ぎた。

 一人の視界が歪んでいた。

 何故か溢れる涙に困惑しながらも、音の一つも逃さまいと、涙をぬぐうこともせずに立ち尽くしている。


 ――演奏はわずか三分で終わった。


 だが、聞いていた者達の体感時間は、その十倍以上かも知れない。

 演奏が終わったのにも関わらず、拍手することすら忘れていた。

 誰もが放心状態だったのだ。


 静まり返る会場に向かって、ライラはぺこりと頭を下げると、舞台裏へと降りていった。


「お、王……!? い、今の娘は……!? 本当に平民の娘なのですか……!?」

「ええ。その通り。私の一押しの娘です。いかがでしたか?」

「て、て……天才……ッ!! 天才だッ!! 天才と表現するのも足りぬほどの、神懸かり的な才能だ……!!」


 ラグリーゼは、痛感した。

 凡人では到底届きようのない世界が、ここにあったのだと。

 今目の前で演奏した彼女は、間違いなくこの世界とは別の、異次元に住む天才なのだと。


 そんな者が、今回のピアノコンクールに出る。


 我が娘にとって、最大のライバルになるに違いない。

 いや、ライバルと扱うことすら、彼女に対して失礼だ。おこがましいこと甚だしい。


 ――到底勝ち目などない。そう確信できるほどの演奏だった。


 娘が負ける姿は親として見たくはないが、しかしその反面楽しみでもあったのだ。

 なにせ今の演奏を、もう一度聴くことが出来るのだから。

 ただそれだけのことが、無性に楽しみで仕方なかったのである。


 ラグリーゼは、ちらりと娘のアイリーンを見る。

 そのアイリーンも、今の演奏を聞いて唖然と突っ立っていた。


「お、お父様……!!」

「アイリーン……。今回のコンクールは――」


 ――諦めなさい。

 そう告げようと思った矢先。


「――嫌!!」

「アイリーン!? 待ちなさい!」


 アイリーンはラグリーゼを振り切って、そのまま会場を走って後にしたのだった。


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