立食パーティーの余興に
――フェルタリア王家、立食パーティー。
今日はフェルタリア建立150年周年の記念式典が、昼に王宮にて行われ、夜は貴族や著名なゲストを集めての立食パーティーが開催されていた。
「今年のコンクールも楽しみですなぁ、陛下」
「そうですな、ラグリーゼ侯爵」
立食パーティーの主催者であるフェルタリア王は、音楽を愛することで有名である。
演奏と作曲を同時に行うという珍しいコンクールを始めたのもこの王だ。
「今年は有望株が多いですからな。ラグリーゼ侯爵の御嬢さんも、その内の一人です」
「いやはや、陛下にそう評価していただけるとは、親の私としても鼻が高いですよ」
「期待しております。今年のコンクールは本当に楽しみだ。……今年はあの娘も出場することですし」
「……あの娘? どの娘でございましょう? どこかの侯爵家の御嬢さんだとか?」
「いやいや、平民の娘でしてな。王宮へたまに仕事でピアノ演奏に来る娘がおるのですよ。彼女は天才的な演奏技術の持ち主でしてね」
「平民の娘、ですか」
「以前からあの娘の才能には気付いてましてな。何度もコンクールに出よと言っても、平民如きがおこがましいと拒否されてましてな。ですが、今年はどうも気が変わったのか、出てくれることになりまして。心底楽しみなのですよ」
「陛下がそこまで期待なさる才能とは……」
王が気にするほどの平民とは、一体如何ほどのものなのか。
王の興味は、我が自慢の娘よりも、その平民へ向かれている。
そのことにラグリーゼは悔しくもあったが、純粋に興味が沸いてきていた。
「今からその才能をご覧いただきましょう。今日のパーティーにも彼女を招いておりますから」
「平民がこのパーティーに?」
「あの娘は特別でしてな。色々と個人的に頼んだ仕事もありまして、近況報告のついでに参加せよと私が誘ったのです。無論、この場の皆と同様に扱えば彼女も困ろうから、表向きはパーティーに華を添えるピアノ演奏の仕事という形で」
「そ、そうだったのですか。楽しみになってきました」
王がそこまで心酔する才能とはどれほどのものなのか。
それをこれから見ることが出来る。これが楽しみでなければ嘘というものだ。
そんな時である。
「――お父様!」
歓談している二人に、声が掛かった。
振り向けば、真っ白な肌がよく映えるスカイブルーのドレスを纏った、金色でカールの掛かった髪を携えた美しい娘が、笑顔を振りまきながら此方へやってきていた。
「おお、アイリーンか。此方に来て陛下に挨拶なさい」
「はい、お父様」
アイリーンは長いまつげに主張させるかのように目を閉じて、王に向かって恭しく頭を下げた。
「私、ラグリーゼ侯爵の一人娘、アイリーンと申します。陛下にお会いできて、これ以上の幸せはございません」
「はっは、此方こそ嬉しいよ。我がフェルタリアの誇る天才ピアニストに会うことが出来て。今度のコンクールにも出場するそうで、楽しみにしています」
「まあ、本当!? 嬉しいです! 是非陛下の期待に応えられる演奏を行いますわ!」
「アイリーン、折角だ。今ここで陛下に披露してみなさい」
「良いのですか?」
魅力的な提案だと目を輝かせるアイリーン。
だが、王はその提案に首を横に振る。
「非常に嬉しい提案だが、さっきも言ったようにこれから私の招いたピアニストが演奏を行いますのでな。無論アイリーンさんの演奏に興味がないわけではない。ただパーティーのお客様にピアノを弾かせるのはどうにも気が引ける」
「わ、私は一向に気にしませんが」
「私が気にしますのでな。それにこれから演奏する彼女を呼んだのは私のワガママでして。ラグリーゼ侯爵。すまないがしばしワガママに付き合っていただければ助かります」
「はい。アイリーンもいいな?」
「え、ええ、お父様……」
そこまで話した時、会場にアナウンスが入る。
『皆様、これよりピアノの演奏会を行います。御静聴いただければ幸いです』
会場の明かりが落とされて、壇上のピアノにスポットライトが当たる。
「あれがさっき言った娘ですよ」
そしてピアノの前に立ち、少し雑に礼をしたのは――ライラだった。




