二人の出会いの物語
――これは、フレスの過去の物語。
ウェイルにね、聞いて欲しいことがあるんだ。
それはボクの大親友のお話。
舞台はウェイルの故郷――フェルタリア。
ボクは二十年以上前、フェルタリアで一度解放されているって、話したよね。
そこで出会った、ライラっていう人を紹介するよ。
ボクに出来た初めての人間の親友にして、世界で一番大好きだった人。
……えっと、今一番の親友はギルで、大好きなのはウェイルだけど、この二人にも勝るとも劣らないくらい大切な人だ。比べられないよ。
とても優しくて、明るくて、クールで、頼りがいがあって、それでいて可愛い。
うん、何度思い出しても、ライラとの思い出は楽しいことばかり。
あの最後の瞬間以外は、だけど……。
これはボクと、最高の親友であるライラの物語。
全てのは始まりにして、全ての終わりに至る、大切な思い出。
それをウェイルに、ちょっとだけ話そうと思う。
――●○●○●○――
「誰なの!?」
フレスの意識がはっきりした時、目の前には二人の人間がいた。
一人は温厚そうな笑みを浮かべる老人。
そして一人は、あまり自分に興味のなさそうな、すました顔の女だった。
「ここ、どこなの!? 君達は誰!?」
一番新しい記憶は、ラルガ教会の追手に捕まった場面。
この者達は、その関係者だろうか。
そうだとすれば、今すぐにも逃げなければ。
「おやおや、警戒しとりなさる。お嬢さん、心配はいらん。我々は君の敵ではない」
柔和なお爺さんのにっこりとした笑顔に、一瞬油断しそうになる。
「敵じゃない!? そんなわけない! 人間はみんな敵だよ!」
「信じてくれ。本当に我らは何もしない。君と仲良くしたいだけだ」
老人はまたも微笑むと、そっとフレスに手を差し伸べてくる。
だがフレスは、その手を雑に弾いた。
「近づかないで! ボク、人間なんて信頼できない!」
フー、フーと、息を荒げて二人を睨み付けるフレス。
そんなフレスに、今度は隣にいた少女が一歩前に躍り出た。
「人間なんて信頼できない、か。そうだね。君の言う通りだと思うよ。よく判る」
少し冷たい口調。
だけど、なんだか同情されているような風にも感じる。
「馬鹿にしてるの!?」
「うんや、してないよ。だって君の言うことは真実だから。そして実はこのボクも、同じように思っている。なんだ、気が合うね」
「だから近づかないで!」
フレスは一歩後ろを下がると同時に、氷のクナイを生成して、振りかざす。
「これ以上近づくと、これで斬るよ……!!」
「うん。いいよ」
「嘘じゃないよ! ボク、本気だもん!」
「ボク、か。ボクも自分のことをボクって呼んでるんだ。やっぱり君とは気が合うと思うんだけどなぁ」
そんなことを言いつつ目の前の女は、氷のクナイなど目もくれず、フレスへ手を差し伸べてきた。
「止めてよぉ!」
フレスは恐怖から目を瞑って、おもむろにクナイを振り下ろした。
――ドスッ。
「――クッ……!」
「……えっ!?」
フレスの手に伝わる感触。
それは生々しい音を放つ、フレスが一番嫌いな行為。
「あ、ああ、ぼ、ボク……!!」
フレスの振り下ろしたクナイは、少女の左手に命中し、深く突き刺さっていた。
その手はすぐに血に塗れていく。
「あ、あああ……!!」
また、誰かを傷つけてしまった。
相手は人間だ。
傷つけて当然の生物だ。
そう思い込み、信じ続けていたはずなのに、フレスは後悔の念に駆られていた。
「あ、ボク……!! ご、ごめんなさい!! ごめんなさい!!」
「――君は、良い子だね」
「……え……?」
少女はクナイを抜きながら、そんなことを言ってくる。
「なんで……?」
あまりにも想定外の反応に、また一歩後ずさる。
そんなフレスの対し、少女はさらに前に進むと、そっと手を上げた。
「…………!!」
――叩かれる。
そう覚悟したフレスの頭に、いつまで経っても痛みは降ってこない。
代わりに、頭にはそっと手が乗せられた。何故かそのまま撫でられている。
「君は、本当に良い子だ」
「ボクが良い子……? そんなわけない!」
フレスは手の主を睨み付ける。
だが、その手の主の顔は涼しげだ。
腕が血に塗れているのにも関わらず。
痛くはないのか?
……いや、それも違う。
彼女のかいている汗の量は、尋常ではなかったから。
「お、おい、ライラ、早く手を治療しなければ!」
「王は黙ってて! ボクは今、この子と話しているんだから!」
少女は老人を一括すると、こちらへは優しい笑みを浮かべてくる。
「大丈夫。君は良い子だ」
「どうして!? ボクは君を刺したんだよ! 憎い人間なんだから、刺されて当然だって、ボクはそんな酷いことを考えながら刺したんだ!」
「いや、君はそんなこと考えていないでしょ。だって、君は今後悔してるから」
「…………!?」
その一言は想像以上に心に刺さった。
まさに図星であったからだ。
「君は今、心の底から後悔してる。ボクの手を傷つけたことを、悔いているんだ。そうだよね?」
「…………」
フレスは無言だった。
ただ、頭を撫でられる感触だけが、フレスに感覚として残っていた。
「君は悪い子なんかじゃない。ね、だからもう近づかないでなんて寂しいこと言わないで。ボクはね、君のことが気に入ってしまったよ」
「ボクを、気に入る……?」
「そ。ねぇ、一つ提案があるんだけど、いいかな?」
「……何?」
「君がボクにしたことは、全部許してあげる。だからその代りに――」
「――ボクの友達になってくれないかな?」
――これがライラとフレスの物語の、邂逅となる出会いであった。




