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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
第一部 第二章 競売都市マリアステル編 『贋作士と違法品』
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裏の酒場『ハーヴェスト』

 ――オークション開始まで後10分。


 ウェイル達は裏オークションが開催される酒場『ハーヴェスト』へと到着していた。


「全員、揃ったみたいだな」


 ウェイルやフレス、アムステリアやサグマールを筆頭に、他のプロ鑑定士や治安局員、総勢20名が集結した。


「この『ハーヴェスト』中にいる者はこの瞬間より全員容疑者とする。一人たりとも逃すな。突入はウェイル、アムステリアに頼む。治安局員の半分も彼らに続いてくれ。残った者はこの場で逃げようとする連中を確保しろ」


 サグマールが各員に事細かく指示を与えていく。

 ただフレスにだけその指示が与えられない。


「ねぇ、ボクは?」

「君はここで待機していなさい」

「嫌だ、ボクも行くよ!」

「中は危険なんだ。お嬢さんには危ない」

「むう……、全然危なくないのに」


 フレスが龍であることはサグマールにももう少し黙っていたい。

 フレスは見た目で言えば十代中頃の少女だ。身を案じここで待つように指示されるのは当然と言える。


「ウェイル……」


 フレスがこちらを見つめてきた。


「ああ、判ってるさ」


 フレスが言わんとしていることは判る。

 フレスだって、サラーのことが気になって仕方がないのだ。


「サグマール、フレスは俺の弟子だ。俺は弟子を実践の中で鍛えていくと決めている。こいつは俺と一緒に連れて行く」

「だがウェイル、危険なんだぞ!?」

「承知の上だ。それにこいつのことは俺が何があっても守るし、責任も取る」


 ウェイルとフレスの真剣な顔。

 さらにもうあまり時間がないこともあり、サグマールも説得を諦めた。


「判った。お前の弟子はお前が守れ。いいな?」

「当然だ」


 ウェイルがフレスにサムズアップすると、フレスも同じように返してきた。


「ウェイル、サラーと戦うことになるのかな……?」

「イレイズの台詞から、二人は必ずここにいるはずだ。ならば戦うことになるだろう。だが、俺はイレイズを倒すつもりはないんだ」

「うん! 助ける、だもんね! ボクもサラーを助けたいよ!」


 フレスの強い意志。ウェイルだって同じ気持ちだった。


「――突入!!」


 サグマールの叫び声が、暗くなった通りに響き渡った。

 ウェイルとアムステリアは扉を蹴破り、一斉に突入を開始した。





 ――●○●○●○――





「な、なんなんだ!? 一体何事だ!?」

「治安局だ! 治安局が乗り込んできやがった‼」


 突然の侵入者に、酒場に不釣合いな武装をした兵士数人が喚いていたが、かなり場慣れしているようで、すぐさま戦闘態勢を整え攻撃してくる。

 ウェイルも『氷龍王のベルグファング』を取り出して、氷の刃を生成し腕と融合させた。


「死ねぃ!」

「断る」


 武装兵が剣を振りかざしてきたが、ウェイルはそれを難なく受け流す。


「遅い!」

「ぐはぁ‼」


 ウェイルはすかさず肘で相手の鳩尾を突き、さらに頭に手刀を振り下ろした。

 たまらず倒れる兵士を避けつつ、更なる敵へと氷の刃を振るう。


「はああああああああああっ!!」


 背後からはアムステリアの怒号が飛ぶ。

 素早く、そして重い蹴りが武装兵に襲い掛かる。


「アンタ達、私に刃物を向けるのなら、死ぬ覚悟で来なさい!!」


 ドレスのスリットから時折見えるスラリと伸びた足を強調させながら、まるで草でもなぎ倒すかのように武装兵らを蹴り飛ばすその姿は、さながらヴァルキリーに匹敵するほどの美しさであった。

 ウェイルやアムステリアの活躍もあってか、戦況は圧勝だった。

 味方側に多少負傷者は出たものの、その都度フレスが治癒していった為、大きな被害は出ていない。

 突入してわずか数分で、ウェイル達は中にいた武装兵を全員縛り、逮捕した。


「――入り口がないだと?」


 部下からの報告を聞いたサグマールの声。

 確かに酒場『ハーヴェスト』店内に、裏オークションへと続いているような入り口は見当たらない。


「なら逮捕した者から聞き出せ。場合によっては怪我させても構わん」

「待て、サグマール。尋問の必要は無い。俺達に任せろ」


 サグマールが部下に指示するが、それをウェイルが制した。


「アムステリア。こういう時、オークション会場はどこにすると思う?」

「もちろん地下ね」

「だよな。ならこうすればいいだろ? フレス、頼む」

「まかせて、師匠!」


 フレスが床に手をつけたかと思うと、突如としてそこから光と共に水が溢れ出した。

 溢れ始めた大量の水は、あっという間に床に広がって、周囲全体は水浸しになる。


「地下に繋がる入り口があるなら、水は必ずそこへ向かうだろ?」


 ウェイルが紙をちぎると、その紙片を水に浮かべる。

 その紙は流れに乗って動き、ある一点で動きを止めた。


「ウェイル、あそこだよ!」

「だな。ここが入り口だ」


 紙の止まった場所の床を、ウェイルは氷の剣で突きたてた。

 すると床は音を立てて崩れ、後には地下へと続く階段が現れた。

 今のやり取りにウェイルとフレス、そしてアムステリアを除く全員が驚愕していた。


「な、なんだ、この子の力は? 手から水が出たぞ!?」

「ただの神器でしょ? 驚くようなことは何もないじゃない?」


 サグマールの疑問に、何故かアムステリアが答えていた。


「そ、そうなのか。水を出せる神器か。珍しいな。……だがあれはどう見ても手から水が出たとしか……」

「サグマール。そんなことは今どうでもいい。問題はここからだ」

「う、うむ、それもそうだな」


 怪しむサグマールだったが、時間が惜しい状況なだけに、それ以上深くは追求してこなかった。


「これより先は俺とフレス、アムステリアの三人だけで行く」

「無茶を言うな! 相手は何人いるのか分からんのだぞ!」


 ウェイルの提案はサグマールに反対される。

 当然だ。どんな敵がいるかも分からない場所にたった三人で行くなんて愚の骨頂だ。

 しかしウェイルがこの提案をしたのには、二つの理由があった。

 一つ目の理由は保険だ。

 全員で行ったとして万が一、敵に全滅させられた場合、外部と連絡をとる手段がなくなってしまう。

 そして二つ目の理由はフレスだ。

 下には間違いなくイレイズがいる。もちろんサラーもだ。

 ドラゴン同士の戦いとなることは必至である。

 龍と龍の戦いの激しさは、人間同士の戦いの比ではないはずだ。

 大人数で行けば巻き込まれる味方の数も増大するだろう。


「私はそれが良いと思う」


 アムステリアはウェイルの提案に賛成した。


「言っては悪いけど、貴方達はお荷物になりかねない。私達だけで何とかなるわ。それよりも中から逃げてくる連中を一人残らず捕らえる仕事に回ってくれないかしら。こっちの方が大変でしょ?」

「だがなぁ……」

「ウェイルはともかく私の強さはサグマールもよく知ってのことよね?」

「あ、ああ。言われんでも理解しとる」

「なら任せることね。むしろ私が自由に暴れるために邪魔や足手まといが増えるのは困るの」


 中々にキツイ言葉であるが、実際アムステリアの言うとおりでもあった。

 連れて来た鑑定士達は、多少戦闘能力はあるだろうが、アムステリアには到底敵わない。治安局員も同様だ。

 サグマールも考えを改めようと考えてはいるが、その間ちらりとフレスの方を見た。

 サグマールはフレスが龍であることを知らない。

 ただの子供だと思っている。それ故に心配なのだろう。

 フレスの実力を知らないサグマールが迷うのも当然だ。


「ボクなら大丈夫だよ。ウェイルが守ってくれるもん」

「心配するな、サグマール。これでも俺の――」

「――弟子、だもんね!」


 フレスの返事を聞いて、サグマールはようやく頷いてくれた。


「判った。地下はお前らに任せる。恥ずかしいことだがワシらの実力はお前らの足元にも及ばない。だがな、ある程度時間が経っても戻らないようならワシらも行くからな!」

「ああ、そうしてくれ。それよりも逃げた連中の取りこぼし、するんじゃないぞ!」

「ガハハハハ、このワシが取りこぼしなんてするもんか!」


 サグマールは三人の肩を叩いて見送ってくれた。

 こうして三人は地下に繋がる廊下へと足を踏み入れていく。


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