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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
最終部 第十二章 運河都市ラインレピア編 後編『沈む都市と聖なる剣』
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最終局面への序章

「そのインペリアル手稿を完全に複写したものを、僕は既に君に渡している」

「ああ、これだな」


 取り出したのは一枚の紙。 

 それはラインレピアへ行く前にテメレイアから貰った、銀行都市スフィアバンクにある銀行の貸金庫の暗証番号の書かれたメモであった。


「『セルク・ブログ』と、僕の書いたコピーがあれば、おそらくあらかたの意図は読み解けるはずだよ。ウェイル、『セルク・ブログ』は持ってるの?」

「……いや、それがな――」


 ラインレピアでは、時の時計塔を最後に直接マリアステルへと戻ってきた。

 だから『セルク・ブログ』はホテルに置きっぱなしになっている。

 他の荷物もそのままのはずだから、ルーフィエが勝手にチェックアウトすることはないだろう。


「色々整理するためにも、もう一度ラインレピアへ行く必要があるな……」

「いや、その必要はないわ」


 そう答えたのはアムステリアである。


「あの部屋の荷物やチェックアウトのこと、私も気になったからラインレピアへ戻ろうと思ったのだけどね。あの子が執拗に『私が荷物を取りに行く』ってうるさくて」

「あの子って……まさか」

「ええ、フロリアよ」

「やはりな……!!」


 あの部屋に戻りたがる理由は一つしかない。

 フロリアが重度のセルクマニアだということを考慮すれば、その目的は火を見るより明らかだ。


「あいつ、『セルク・ブログ』を盗むつもりだ……!」


 そうウェイルが呟いた時である。


「アムステリア~、約束の荷物、お届けに参りましたよ~」


 呑気に扉を開けて入ってきたのは、四人分(といってもフレスは基本手ぶらだから実質三人分)の荷物を抱えていたフロリアであった。


「ふいー、これで任務完了かな! あ、ウェイル! 起きてたんだ! ホテルのチェックアウトは私がしてきてあげたからね! 感謝してよね!」

「……してよね、なの」


 エヘンの胸を張るフロリアとニーズヘッグに対して。


「アムステリア、今すぐそこの二人を縛り付けてくれ」

「了解」

「え? なにごと? どゆこと? ……って、うわああっ!?」


 驚く二人を余所に、あっという間にがんじがらめに縛りつけたアムステリアである。


「ちょっと!? またこの状態!?」

「……ちょっと気持ちいいの……」

「うわっ、変態がいるのじゃ……」


 ニーズヘッグの趣味にミルはドン引きである。


「フレスが目覚めてるの……よかったの……」

「…………」


 縛られた状態でエヘヘと蕩けるような笑顔を浮かべるニーズヘッグに、フレスは複雑な気持ちになっていた。

 返事はしない。でも否定もしなかった。 


「さて、フロリア。『セルク・ブログ』はどこにある?」

「な、なんのことかな?」

「視線を逸らすな。持って帰ってきたんだろ? お前のことだから」

「ぴゅ~……、ぴゅ~……」

「口笛吹けないからって、ぴゅーぴゅー言っても意味がないぞ」


 口の形を()にするフロリアの頬っぺたを、むにっとつねる。


「返せ」

「いいじゃない! ウェイル助けてあげたんだし! お助け料だと思って見逃してよ!」

「開き直るなよ……」


 フンとそっぽを向くフロリアに、フレスが話しかける。


「あのね、フロリアさん。ボクら、『セルク・ブログ』が必要なんだ。貸してくれないかな?」

「嫌ですー、あれはもう私のモノなんですー! 私が偶然拾ったものなんですー!」

「うわ、子供みたいな理屈⁉」

「よし、ならばアレスにチクっておこう。こいつはまた人のモノを盗んだってな」

「ちょっ、ウェイル!? アレス様は関係ないでしょ!? 巻き込まないで!」

「確かに関係はないな。だから俺がするのは世間話だ。世間話の中でお前の話題が出る。おかしくはないだろう?」

「うぐぐ、子供みたいな理屈を……」

「それをお前が言うな。どうする? アレスに知られるのは嫌なんだろ? ならば返せ」

「判ったよ! 返せばいいんでしょ、貸せば! ウェイルの卑怯者‼」

「少なくともお前だけには言われたくないっての」


 こうして『セルク・ブログ』の現物は手に入れることが出来た。

 残るはスフィアバンクに置いてあるテメレイアの作ったコピーだけだ。


「さて、スフィアバンクには僕が行こう。二日で戻るよ」

「頼む。その間に俺は今回の事件の後処理をしておかねばならないからな」

「それは私も手伝うわ。リルはちょっと別の用があって来られないと思うけど」

「いや、いいさ。報告書とかルーフィエ氏への謝罪とか、本当は俺が全部しないといけないことなんだ。アムステリアが報告書が手伝ってくれるだけでもありがたいのに、それ以上は求めないさ」

「ウェイル、ボクもやる! 書類の書き方とか、プロとして勉強しておきたいし!」

「判った。なら一緒に報告書を書こうか、フレス」

「うん!」

「……羨ましいけど、今回は許してあげるわ……!!」


 こうして運河都市ラインレピアで起きた事件は、一旦は閉幕となる。

 いや、事件の幕自体はすでに二日前に降りている。


 ――今の状況。それはもう次の段階へと移っていた。


 今回の事件は、あくまでも最終局面への序章に過ぎない。

 そのことをウェイルは何処かで感じていたのかも知れない。


 ――新たな事件は、この二日後から始まったのだ。


 テメレイアが戻り、ウェイル達が全てを知ったその日から、アレクアテナ大陸の運命を左右する事件の第二章が、幕を開けることになる。


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