表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
最終部 第十二章 運河都市ラインレピア編 後編『沈む都市と聖なる剣』
567/763

男泣き

「どう? ミル。治せそうかな?」

「うむ……。どうやらケルキューレの悪しき魔力がフレスの身体の中に留まっているようじゃ。ケルキューレの魔力を打ち消すことが出来れば、フレスは目覚めるじゃろうな。なぁに、レイアの力ならば問題なかろうて」


 アムステリアの喝を受け、フレスの気持ちを知った次の日。

 電信を送った目的の人物は、すぐにやってきてくれた。


「すまないな、レイア。突然呼びつけてしまって」

「なに、ウェイルに頼ってもらえるだなんて光栄さ。それに丁度マリアステルへ帰ろうと思ってたところでね。タイミングが良かったのさ」


 ウェイルが電信を送った相手とは、同じく龍のパートナーであるテメレイアだった。

 龍を治療するためには、同じく龍であるミルの知識に頼るべきだとの考えに至ったからだ。


「さて、フレスちゃんを目覚めさせよう。ミル、お願い」

「任せるのじゃ。レイア、詩を」

「判った」


 ミルがフレスの身体の上に手をかざすと、一歩下がったところでテメレイアは本を広げ、詩を歌い始めた。


『        』


 意味も言葉も判らぬ、神の詩。

 『三種の神器』の魔力を打ち消すには、同じ『三種の神器』の魔力をぶつけて相殺するしかない。

 『三種の神器』の一つ『創世楽器アテナ』の奏でる魔力を帯びた聖なる詩は、テメレイアの声を借りて、女神の歌を奏でていく。


 ミルの手が、翠色に輝いていく。

 その光は、真っ直ぐにフレスの身体へ落ちていった。


「レイア! まだ魔力が足りぬ! もっと強く歌え!」


『        』


 ミルの指示で、テメレイアはさらに声の出力を上げた。

 相当しんどいのか、額に浮かぶ汗の量は尋常ではない。


 ――そして歌が始まって三分後。


「お、終わったのじゃ……!」


 手から光が消えると同時に、ミルはヘナヘナと腰を落とした。


「……ふう、疲れた。結構ハードだったね……」

「当たり前じゃ。相手は『三種の神器』じゃぞ」


 テメレイアも本を閉じて椅子に腰を掛ける。


「ミル、レイア! フレスはどうなったんだ!?」

「安心せい、ウェイル。フレスの中に留まっていた魔力は全て打ち消した。じきに目覚めるじゃろうて」

「『アテナ』が魔力制御能力によって、魔力を相殺したからね。もう大丈夫さ」

「本当か!? すまない、二人とも。恩に着るよ!」


 感極まったウェイルは、二人の肩をぎゅっと抱く。


「うわっ!? ウェイルがこれほどまでに感情を表に出したのは初めてかも!? ……うん、結構グっとくるね。しばらくこのままでいいかな?」

「わらわにとっては迷惑なだけじゃ! 離せ!」

「おっと、すまない。本当に嬉しくてな」


 自分でも似合わないことをしたとは思うが、嬉しかったのは本当だ。


「フレス、目を覚ましてくれよ……!!」


 ウェイルがベッドに駆け寄る。


 ――すると。


「……うみゅ……」


 間の抜けたな声と共に、もぞもぞとフレスの身体が動いていた。


「フレス!?」


 願いが通じたのだろうか。フレスの瞼が、ゆっくりと開いていく。


「フレス! 起きろ!」


「…………ウェイル……?」


 宝石の如く蒼き瞳を、数日振りに見せてくれた。

 嬉さのあまり、ウェイルの目尻には涙が光る。


「フレス!」

「……ふぎゅッ!?」


 この暖かみを離さまいと、思いっきり抱きしめてやった。


「心配掛けやがって! ……いや、心配かけたのは俺の方か! とにかく良かった!」

「ふぎゅーっ!! ウェイル! 苦しいーー!!」


 ウェイルに強く抱きしめられたフレスは、空気を求めて悶え苦しんでいた。


「ウェイル!? このままじゃ死んじゃうよ!?」

「す、すまん、ついな」

「い、いや、とっても嬉しいんだけどさ。……一応人前だし、少しは遠慮しないと」

「お前にそれを指摘される日が来るとは……」


 兎にも角にも、フレスは無事目を覚ました


「あれ? レイアさんにミルも!? どうして!? ……そういえばここはどこ……!?」


 時計塔で気を失って以降のことを、フレスは知らない。

 だから状況の把握が出来ずに混乱していた。


「ね、ねぇ、ウェイル。ボク達、一体どうなっちゃったの……?」

「負けたのよ。『異端児』の奴らにね」


 ウェイルより先に答えたのは、テメレイアらの後ろで手を組み、壁にもたれかかっていたアムステリアであった。


「私達は完敗したってわけ。貴方も光の龍にやられたことは記憶にあるでしょ?」

「……うん」

「貴方、自分の中のもう一人のことは判る?」

「……うん。でも声を掛けても返事がないんだよ。……なんとなく何があったかは理解してるけどさ」


 フレスが「ウェイルを守らないと」と、そう思った瞬間から、フレスの記憶はない。

 あの時、身を挺してウェイルを守ろうとしたところに、横からフレスベルグが割り込んできたことは覚えている。

 そして今のこの状況。

 フレスは本当に賢い。

 だから何が起こったのかも想像がついていた。


「……そっか。フレスベルグは、ボクの大切な人を守ってくれたんだね」


 ポツリと、そうフレスが呟いたのを聞いて、ウェイルはいてもたってもいられなくなり、改めてフレスを抱きしめていた。


「すまない、フレス……! 俺が弱かったばっかりに……!!」

「ううん。謝らないでよ。だって、ボクは何もしてないんだもん。フレスベルグがウェイルを守ってくれたんだよね?」

「ああ……!!」

「そっか。ウェイルが無事だったんだ。あの子だって、悔いはなかったと思う。だってウェイルとあの子の仲じゃない?」

「……ありがとう……!! ありがとう……!!」

「よしよし。ウェイル、ボクの方こそありがとう。ずっとボク達を守ってくれて」


 フレスが頭を撫でてくれる。ウェイルは涙が止まらなかった。

 そんなウェイルとフレスの姿を見て、アムステリア達はそっと部屋を出た。

 ウェイルは彼女らの気遣いに感謝し、扉がぴしゃりと閉まったところで、声を上げて泣いた。


 師匠というプライド、男としてのメンツなど、そこには何もなく。


 自分の弱さを弟子の前で素直に晒しながら。


 ただひたすらに、フレスを抱きながら泣いたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ